指名依頼
朝、新しく貼り出された依頼を確認して、三人でどの依頼を請けるか意見を出し合う。
昨日はあまりに眠すぎて任せてしまったけれど、やっぱりアレはよくない。しっかりと依頼の内容を把握するために、また怖い依頼にならないために、そして自分たちに一番相応しい依頼がなにかを考え提案するために、今日は僕もちゃんと参加した。
そして、割れた。
「布の染色に使う木の実の採取」
「迷子になった猫探し」
「陸戦用新兵器開発の助手役」
よし混沌としたね。最後のなんだアレ。
「キリのそれは薬草採取みたいなものでしょう? 出来高だから十分な額を稼ぐのは難しくないかしら」
「ですねー。採取依頼が悪いわけではないですけど、ちゃんと三人で稼げるものでないとー」
リルエッタとユーネが僕の選んだ依頼を見て眉をひそめる。……まあたしかに採取だけれど、これはいつもの薬草採取とは違うのだ。
「採取だって高価なものを狙うか、カゴをいっぱいにすれば稼げるよ。それにこの木の実は採取できる場所が書いてある。……つまり、探す必要がないんだ。行って、カゴいっぱいにして帰ってくるだけ。マナ溜まりの薬草みたいに高値はつかないけれど、それでも普通に薬草採取に行くより稼げると思う」
採取の仕事が好きなのもあるけれど、この依頼が良さそうだと思ったのは本当だ。
幸いにしてカゴは三人とも持っているのだし、普通に稼げそうなら採取依頼を避ける理由はない。
「というか、ユーネが選んだ猫探しの方が稼げないと思うけど」
「そうね。猫探しってそもそも冒険者っぽくないし」
僕がユーネの依頼について指摘すると、リルエッタも頷く。
「でもユーネはこのパーティ、探し物が得意なんじゃないかと思うんですよぅ。お嬢様の魔術にキリ君の目が合わされば、大抵のものは探せるじゃないですかぁ。だったら得意な分野に力を入れていく方向性もあるかとー」
「貴女は猫が好きなだけでしょう?」
フワフワ髪の少女は真面目な表情で選んだ理由を説明したけど、リルエッタはバッサリと切り捨てた。そうか、ユーネは猫が好きかー。
「それに、探査の魔術で猫を探すのは難しいわ。色とか性別で絞り込むにしろ、似たような猫がいたら反応しちゃうし……それに猫ってじっとしていないでしょう? 最悪、わたしの魔力が枯渇しても見つけられない可能性はあるわ」
猫を探すだけなら問題ないけれど、依頼された猫だけを探すのは難しいのか。しかも大まかな方向しか分からないから、動くものが相手だと苦労すると。
探査の術が便利なのは間違いないけれど、あまり使い勝手がいいわけではないらしい。……ユーネの言葉には頷ける部分もあったし、迷子の猫はかわいそうだから請けてもいいかと思ってたけれど、それだとちょっと難しいか。
僕も正直、道すらまだ全然分からない町中で猫を探す自信はないし。
「でも、お嬢様の選んだ依頼よりは分かりやすいと思いますよぅ」
「たしかに。リルエッタのそれはなに?」
チェリーレッドの髪の少女が選んだ依頼書は、他の依頼とは明らかに毛色が違う。冒険者って本当になんでもやるんだなぁ、と思ってしまうようなものだ。
「大型の車輪に火属性の魔石を内蔵し、回転および起爆の魔術陣を描くことで、敵陣まで自走して爆発する陸戦用兵器を開発中。魔力が扱える魔術士と雑用の冒険者に試作品の実験を手伝ってもらいたい、とあるわ。円形である車輪と魔術陣との相性に目をつけたこの発明家、なかなか聡明だと思わない?」
要魔術士と書いてあるし、実験場所も町を出てすぐの草原だから危険も少なそうだ。そういう意味なら一番僕ら向けの依頼と言えるだろう。
けどなんか嫌な予感がする。すごく嫌な予感がするんだこの依頼……。
「認めたくはないのだけれど、わたしたちの弱点はやっぱり戦闘力よ。だけどこの新兵器がもし冒険者の戦闘にも応用できる品物だったとしたら、わたしたちにとって心強い武器になる可能性があるわ」
リルエッタの言葉には、ちょっと感動してしまった。彼女はちゃんと僕たちパーティがどうしたら良くなるのか考えているのだな、と。
たしかに嫌な予感は拭えないけれど、たとえばこの依頼の新兵器というやつを小型化して持ち運べたら強い気がする……するかな? 火の魔石って高いよね。もし冒険者用の武器になっても僕ら使えないのでは。
というか、火の魔石使ってるアイテムだったら、普通に投げて使うヤツを武具屋で見た気がする。やっぱりすごく高かったけれど。
「この商品がもしいいモノだったら、マグナーンが出資する手もありますからねー。商機にはなるかもですがー」
ユーネがそんな事を言って、僕はリルエッタへと視線を向ける。
彼女は目を逸らした。
「わ……わたしは冒険者であると同時にマグナーンだもの。商家の子が家の利益を考えるのは当然じゃない」
「まあ、悪いことではないけれどさ……」
そもそも彼女、マグナーン商会に紹介できそうな冒険者や商機になりそうな情報目当て理由で冒険者になったらしいから、こういう依頼は積極的に請けようとするのが当然だ。……ただこの開発依頼、海塩ギルドとはまったく関係なさそうな内容だったけれどいいのかな。まあそれは僕が考えることじゃないか。
むう、難しい。
堅実に行くなら僕の選んだ採取依頼だと思う。けど、ユーネの選んだ依頼は人助け……猫助けで、危険な戦闘の可能性はなさそうだ。そしてリルエッタの選んだ依頼は、彼女の目的を考えれば請けてあげたい。
さて、どれにすべきか……―――そう悩んで、こうやって悩めるのは文字が読めるおかげなんだなぁ、と昨夜のことを思い出した。
ニグとヒルティースは今頃、依頼のあった村への道中だろうか。
「おい、お前ら」
依頼書の壁の前で悩んでいると、声をかけてくる人がいた。視線を向けると冒険者の店の店主であるバルクが立っていて、僕ら三人を睨むように見下ろしている。
「あ、ごめん。すぐどきます。二人とも、ここは邪魔だからあっちで話そう」
「……ええ、そうね。失礼しました。ここで相談してると他の人にも迷惑かけるわ」
「以後気をつけますー」
また新しい依頼書を貼りに来たのだろうと思って、僕たちは三人一緒に脇にどく。
依頼内容はちゃんと相談して決めなければならないけれど、話し合う場所は考えなければならない。今日みたいに意見が割れたときはなおさらだ。
「違う。用があるのはお前らだ」
けれどバルクはそう言って僕らを引き留める。その声音が普段よりも重くって、もう一度彼の顔を見るとすごく真剣だった。
「そこの治癒術士。怪我の治療はできるな?」
「あ……はい。簡単な治癒魔術でしたら使えますがー」
「間違いないな?」
質問されたユーネが答えると、バルクはリルエッタに確認を求めた。
「間違いないわよ。なに? ユーネを疑ってるの?」
「仲間を探すために嘘を吐くヤツもいるからな。一応だ」
「そんなのとわたしたちを一緒にしないで」
……バルクが言うからには、そういう人はいたのだろう。そんなのすぐにバレると思うけれど、それでもいいと考える人はいるらしい。
冒険者の店の主としては、前例がある以上は疑わなければいけないのだろう。ユーネが信用されていないのではなく、彼が仕事に真摯なだけだ。
「本当だよ。僕が怪我したときもユーネが治してくれたし」
僕は自分の額を……額に巻いている鉢金の、切れ込みのような跡を指さす。
以前ゴブリンの短剣を受けたとき、僕は鉢金の布地では止まらない量の血が流れる怪我をして倒れた。けれど目が覚めたときには、ユーネが治癒魔術できれいに治してくれていたのだ。
彼女が嘘を吐いていないことは、この鉢金と傷跡のない僕の額が証明してくれている。
「そうか。そうだったな」
そのときの報告を思い出してくれたのか、バルクは僕の鉢金を見て何度か頷くと、改めて僕らの顔を順番に眺める。
そして。
「治癒術士がいるパーティへの指名依頼だ。魔物の群に襲われた漁船が南西の海岸に座礁した。依頼人はその漁船の船員。依頼内容は動けない怪我人二名の治療と救出」
僕たち三人は、一斉に息を飲む。
「今、この店にいる治癒術士は嬢ちゃんだけだ。行け」




