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地図と年の功

 子供が遊び場にするような場所に、邪悪な不死族がいるわけがない。いたら噂話どころの騒ぎでは収まらない。

 それでも僕たちは屋敷の全ての部屋を見回り、庭も念入りに確認して、しっかりと調査を終わらせた。


「なにもなさそうだからって、中途半端な仕事はできないわ。簡単な仕事だもの、完璧にこなして胸を張って報告するべきよ」


 リルエッタの言うことはもっともで、仕事は胸を張れるくらいちゃんとやって、気持ちよく終わらせたいのは僕とユーネも同じだった。


 そして……なにもないことを確認した。

 誰もいなかったし、なんにも出なかった。ユーネが蜘蛛の巣に顔から突っ込んで半べそかいたくらい。

 廃墟はずいぶん怖かったけれど、結局は拍子抜けな結果に終わったのだった。






 あるものを見つけるのなら、見つけた時点で終わりでいい。けれどないことを確認するのなら、端から端まで見て回る必要がある。

 今回の調査はまさしくそういう依頼で、危なくはなかったけれど時間だけはかかってしまった。だから冒険者の店に帰ったのは、夕方ごろ。


「壊れた椅子とホウキにシーツを被せたゴーストもどきか。それ以外にはなにも見つからなかったんだな?」

「魔力感知と目視で敷地内は全部確認したわ」

「不死族も魔物も、人もいなかったよ」

「蜘蛛の巣がたくさんあったくらいですねー」


 僕たちが報告すると、バルクは羊皮紙に書き留めていく。後で依頼人に説明するのだろう。

 ……そういえば今回は依頼人に会わなかった。そういう仕事もあるらしい。


「わたしが見たところ、屋敷は傷んでいたけれど、少し補修すれば人が住める程度だったわ。ひどく雨漏りしている様子もなかったし、あの土地を売り出すのであればまず清掃の手を入れて……」

「それは依頼人が判断することだ」


 さらに続くリルエッタの報告を、バルクは遮る。


「冒険者の店はそこまで責任を持てん」


 少女はムッとした様子だったが、続く店主の言葉にはぐぬぬと黙り込む。

 そんなところまで確認していたのか、と僕は感心してしまったけれど、たしかに冒険者の仕事の範囲を超えた内容だ。そしてリルエッタは商人の子ではあっても、建築の専門家ではない。

 バルクにとっては報告されたところで、依頼人には伝えられない情報なのだろう。


「まあ、仕事に関して文句はない。ご苦労だった」


 カウンターに報酬が置かれて、僕はお礼を言って受け取る。

 順番待ちの人がいたので少し脇にどいて、報酬を分ける。……今日も一番活躍したのはリルエッタだったけれど、報酬は山分けがこのパーティの決まり。それが一番面倒がないってチッカが言ってた。


「ふん、ちょっとは見直したわ。店の方はけっこうしっかりしてるじゃない」

「冒険者の皆さんがアレですからねー、店主さんが厳しく見てるんでしょうかー」

「うん、二人ともちょっと声を小さくして」


 ガヤガヤと騒がしく、まだ日が落ちきってないのにもうお酒の匂いが漂ってくるから、たぶん誰も僕らの話なんて聞いてないと思う。

 けれどそれでも、冒険者がちゃんとしてないみたいなことをここで言うのはどうかと思う。たとえ事実でも聞かれたらマズい。


「とにかく、今日の仕事は良かったわ。わたしとキリの探索能力と、ユーネの神聖魔術。このパーティの特性に合致した依頼内容だったと言っていいでしょうね」

「ユーネはほとんどなにもしてない気がして、ちょっと後ろめたいんですけどー……」

「そんなことないよ。もしもの時にはなんとかできるって、すごく心強い」

「そ、そうですかー?」


 ユーネは疑わしそうにするけれど、僕は本心で言っている。

 結果としては肩すかしだったし、彼女の出番もなかったのは事実。……でも彼女がいなければ、そもそも今日の依頼は候補にも挙がらなかったに違いないのだ。


「やっぱりわたしたち、調査の仕事が向いているのではないかしら? 同じような依頼があったら積極的に請けていきましょうよ」

「それだとユーネのお仕事ないですけどねー……」

「いつ戦闘が起きるか分からないから、ユーネがいるだけで僕は助かるけどね」


 前回も今回もあまり活躍できていないユーネは微妙な顔をするけれど、彼女の出番は誰かが怪我したときか不死族が出てきたときである。できればそんな機会は遠慮したい。でも戦闘があった時のために常に一緒にいてほしくもある。ユーネの立場はなんだか難しい。

 治癒術士って、いてくれるだけで嬉しいんだな……。


 話しながら特に示し合わせることもなく、三人で依頼書が貼られる壁へ向かう。新しい依頼は出ているか確認して、明日の仕事について相談するために。

 その途中に、見知った顔があった。


「あれ? ウェインたちだ」


 依頼書の貼られた壁に一番近いテーブル。

 そこにいたのはウェイン、チッカ、シェイアのいつもの三人で、椅子には座らずに立ったまま、何事かを相談しているようだった。


「それに……ペリドットさん?」


 テーブルにはペリドットもいて、計四人で真剣に話し合っている。

 正直、意外な組み合わせだ。ペリドット、ウェインはともかくチッカとシェイアとはすごく相性悪そうだけれど。


「あれ、テテニーのパーティの戦士よね? あの三人と知り合いなの?」


 どうやらリルエッタにとってペリドットは、兎獣人のテテニーさんと同じパーティの人という認識らしい。

 そのテテニーさんは見当たらない。今日は一緒じゃないのだろうか。あまり人前に出たくない人って話だったから、冒険者の店にはあまり顔を出さないのかもしれない。


「ペリドットさんならこの前、ウェインとは話してたよ」

「ふぅん? じゃあ仕事の話かしら。依頼によっては、いくつかのパーティが協力することもあるらしいし」


 この店の最高ランクパーティと、ウェインたち三人が合同でやるクエスト……。それはずいぶん大がかりな仕事なのではないか。―――そう思うとちょっと気になってしまう。

 あの四人にしては真面目な様子で話しているので、挨拶をするのもちょっと尻込みしてしまう。けれど依頼書の壁から一番近いテーブルなので、どうしたって近くには行くことにはなる。

 どんな話をしているのだろうか。四人は声をひそめたりしていなかったので、耳をそばだてるまでもなく聞こえてきた。


「めんどくせぇ……危険の薄いルートだけ選んでの移動とかやべーめんどくせぇ。どんな遠回りしてんだよまっすぐ行けよ」

「探索範囲が広すぎるね……街道沿いは基本的に安全だから行こうと思えば行ける場所多いし、ポツポツと隙間を縫うような場所も多くてウンザリする」

「危険区域にポツポツ生えてるらしいのが嫌。探査魔術が反応する」


 なんだか本気で難航している雰囲気なのは分かった。


「なかなか難しいものだね。ムジナ翁はキリネ君に忠告したのだし、子供の足でも行ける場所にあると予想していたのだけれど」

「だからそれ、困ったあげくに出てきた言葉だろ? たぶんそこまで考慮できてないよ。早く逃げたくって思いついたのを言っただけさ」


 あのペリドットですら困り顔で悩んでいて、チッカがこめかみを揉みほぐしながら推察をぶつける。

 テーブルには地図が広げてあって、四人はどうやらそれを見て話し合っているらしい。

 というかこの人たち、もしかしてムジナ爺さんの話してる?


「えっと、ムジナ爺さんのなにを悩んでるの?」


 真剣そうな話だったから声をかけない方がいいかなと思ったけれど、ムジナ爺さんのことなら興味が勝ってしまった。

 思わず声をかけると、チッカが一番最初に振り向く。



「お、チビじゃんお疲れ。なー、ムジナ爺ちゃんからナクトゥルスって薬草どこに生えてるか聞いてない?」

「聞いてるよ?」



 頷くと、四人ともすごく驚いた顔をした。

 どうやらナクトゥルスについて話していたようだ。そういえば、ペリドットに夕食を奢ってもらった折に話題に出した覚えがある。

 あれはまだ時期が早いけれど、なにかの事情で急に必要になったりしたのだろうか。……僕は首を傾げながら、テーブルの上の地図に描かれたベッシの森の北西を指さす。


「ここ」

「そこぉ? 森突っ切らないと行けないでしょそんなの」


 チッカがすっとんきょうな声を上げる。……この四人なら森を突っ切ればいいと思うのだけれど。


「地図だと北東への街道はここで途切れてるけれど、この先に廃村があるらしくって道はまだ残ってるんだって。で、その旧道の途中からなら安全にここまで行けるみたい」

「マジか……」


 僕の説明に、ウェイン、チッカ、シェイアの三人が頭を抱える。


「丸二日歩いたのが無駄足だ……」

「……というか、あたしらじゃこれ見つけるの不可能だったね」

「最初から聞けばよかった」


 質問に答えただけなのに、なんだか悪いことした気になってきた。

 ……というか、あんなに真剣に話し込んでいたからどんな大事だろうかと思ったのに、薬草が見つからないだけだったらしい。拍子抜けだ。けどこの三人のことだから、やっぱりって感じがする。今日は拍子抜けしてばかりだね。

 まあ、役に立ったなら良かった。


「じゃあ、僕はこれで。ウェインはまた後でね」


 軽く手を上げて、僕はテーブルから離れる。壁際でリルエッタとユーネが僕を待っていた。

 ……いきなりこっちに混ざっちゃったから、リルエッタはちょっと怒ってるかもしれない。早く戻った方がいいだろう。

 僕たちは、僕たちが明日請ける依頼の相談をしなければ。



「……待ちたまえ、キリネ君」



 ペリドットの声が、僕を呼び止める。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報だけもらってはいさようならって感じの人達じゃないから誘ってくれるかお礼はしてくれそう。ペリドットがムジナ爺さんのことだけちゃんと名前呼ぶの大切だった感じがしていいな
2024/07/09 09:25 目のないぶたさん
[一言] 名前覚えられないペリドット氏が、ムジナ爺ちゃんの名前だけ間違えないのが何と言うか 氏にとって特別な人間だったんですかねー
[一言] 簡単に教えちゃったからお叱りかな?それとも同行のお誘い?
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