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二人と一頭

「おやおや、三人とも見たことのない顔だね。新人かい?」


 左手で髪をかき上げ、右手で馬の手綱を引いて。キラキラの青年は僕らを見下ろす。近くで見ると背が高い人だ。ウェインも背が高いけれど、この人はもっと高い気がする。

 そして、すらりとしてるけどウェインと同じくらい筋肉がありそう。


「えっと……はじめまして。三人とも最近冒険者登録しました、キ……わぷっ」


 とりあえず挨拶しようとしたのだけれど、その人が連れていた馬……ヒシクが顔をすり寄せてきた。いつも寝ててほとんど起きてるところを見ないから、こういうことをされるとちょっと驚いてしまう。


「こらメルセティノ。彼が喋ってる最中だろう?」

「メルセティノ?」


 キラキラの青年はヒシクのことを違う名前で呼んで、その首筋を撫でる。こら、って言っていたけれど、声も撫で方も怒っているようには見えない。


「もしかしてヒシクの飼い主さんですか?」


 僕の問いにキラキラの男の人は、ふむ、と髭のない顎を撫でる。


「きみはメルセティノのことをヒシクと呼んでるんだね。フフン、それできみが何者なのか分かったよ。―――だけど、まずは問いに答えよう。答えはいいえ。きみの推理は見事だけれど、ほんの少しだけ違う。ぼくと彼は主従の間柄ではないんだ」

「えっと……どういうことですか?」


 推理が見事で、ほんの少しだけ違う。主従の間柄ではない。

 飼い主と飼い馬だったら主従……なのだろうか。ちょっとよく分からない。


「フフン、彼はぼくたちの大切な仲間なのさ」


 気取った調子でそう言って、髪をかき上げるキラキラの人。……なんかこの人、ちょっと変な人かもしれない。


「メルセティノはぼくたちと冒険へ赴き、苦楽を共にし、助け合う仲だからね。彼がいたからこそ乗り越えられた苦難だっていくつもある。だからもうパーティの一員みたいなものなんだ」

「な、なるほど……」


 ヒシク……じゃなかった。メルセティノも冒険者だったんだな。それも僕よりよほど経験を積んでそうだ。

 冒険者の店の厩にいるのだから、冒険者の誰かの馬には違いないのだろう。そしてその冒険者は冒険者なのだから、冒険に連れて行くために馬を飼育しているに違いない。……考えればすぐ分かることだったけれど、こうして馬を連れた冒険者に会うまで、そんなことをまったく考えていなかった。

 先輩だったのか、ヒシク。



「さて、きみの問いかけには答えたよ。次はぼくの番だ。―――きみはぼくのことを知らないようだけれど、ぼくは噂に聞いているよ。最近メルセティノの隣に住み着いたっていう……藁ドロボウ君だよね?」



 ドキッとした。心臓が跳ねた。スゥ、と細められた相手の目に射すくめられて、身が縮こまる。

 藁ドロボウ。そうか。飼い主か仲間かはともかく、彼がメルセティノの世話をしているのならば、僕が納屋から持ち出して使わせてもらっているあの藁はこの人が用意したものだ。


「す―――すみま……」

「なんてね。そんなことで怒る気はないさ」


 フッと笑って僕の謝罪に割り込んで、キラキラの人は人差し指をたてて明後日の方向を向いた顔の前で腕をクロスさせ、ビシッとなにかのポーズをキメる。



「そう、ぼくは太陽の輝き宿すペリドット! 大海原よりも器の広い男なのだからね!」



 ………………なんだろう。この人からもダメ人間の臭いがする。

 隣を見るとやっぱりというかなんというか、リルエッタが眉間にシワを寄せていた。きっと僕と同じことを考えてるんだろうなと思って、さらにその向こうを見る。


「か……カッコいいー……」


 ユーネは僕らとは違う感想を持ったようで、目を瞬かせ祈るように胸の前で手を組んで呟いていた。

 そっか……うん。なんかユーネって、ああいう人が好きそうだもんね。



「もう、新人さんをからかっちゃダメッスよリーダー。藁なんて安いものなんスから」



 不意打ちのように若い女の人の声がして、ぴょこん、とメルセティノの後ろから長い耳が出てくる。

 今の今までなんの気配もなかったのにいきなり現れたその耳は、ぴょこぴょこと動いて、白くてなんだかもふもふしていて―――ウサギのそれにとてもよく似ていた。


「どもッス新人さんたち。ジブンはこの人のパーティの一員で、テテニーって言うッス。以後お見知りおきを!」


 雪のように白い髪と赤い瞳をした、活力が溢れ出るような女性だった。

 ピョン、と跳ねるように馬体の後ろから出てきた彼女は片手を大きく真上に伸ばして、ウィンクした方の兎耳をペタンと折る。

 ―――ビックリした。なんの気配もなかったのにいきなり出てきたと思ったら、元気いっぱいに挨拶された。

 そして、見た目にもビックリした。


「おやテテニー君、もう人見知りの時間は終わりでいいのかい?」

「ちょっと、リーダー! そういうこと言うのやめるッスよ。ジブンは人見知りじゃないッス」

「フフン、すまないね新人君たち。彼女はウサギだからか警戒心が強いんだ。けれどこんなに早く初対面の相手に姿を見せるなんて珍しいことだよ。これは君たちの人徳だろうね」


 それは警戒に値しないと判断されたのではないか。


「テテニー君は一度打ち解けた相手にはとことん人なつっこいから、よければ仲良くしてあげてくれたまえ」

「リーダー! 子供じゃないんスからそういうのやめてくださいッス!」


 春風よりも爽やかに笑うペリドットさんと、ピョンピョンと跳ねて抗議するテテニーさん。

 なんだか不思議な二人だ。こっちの警戒心まで薄れてしまう。


「あの、テテニーさんは獣人さんなんですか?」


 あのウサギの耳がどうしても気になってしまって、我慢できなくって聞いてみる。

 獣人。獣の特徴を持つ人族って、アーマナ神さまの教典で読んだことはあったけれど。


「うス! 見ての通りジブンは兎獣人ッスよ。獣人は初めてッスか?」

「あ、はい。初めて見ました」

「ほうほう、さっきから自慢の耳に視線を感じるなって思ってたから、なるほどッス。たしかにこっち側だと獣人は珍しいかもしれないッスね。町の東側にはけっこういるんスけど」


 このヒリエンカの港町は真ん中に大きな川が流れてて、東西で分かたれているらしい。

 僕はまだ東側には行ったことがないけれど、向こうには獣人の人が多いってことは初めて聞いた。

 川で分断されているのだし、もしかしたら西と東でいろいろ違うところがあるのかもしれない。それこそ、まったく別の町並みが広がっていてもおかしくないのではないか。


「どうッス? よかったら耳触ってみるッスか? ちょっとだけならいいッスよ?」

「いいんですか?」


 ピョンと僕の前に膝を抱えてしゃがんで、耳をぴょこぴょこさせるテテニーさん。雪色の兎耳はふわふわで可愛くて、僕は思わず申し出に甘えて手を伸ばす。


「やめなさい。獣人が珍しいのは分かるけれど、まだわたしたちの話が終わってないわ」

「う……」


 リルエッタにたしなめられて、僕は手を引っ込める。ちょっとテテニーさんが悲しい顔をした。

 たしかにこの二人と一頭のおかげで中断していたけれど、今はパーティとしてかなり大事な話をしていた最中だった。


「ペリドットさんにテテニーさんでしたね。厩で騒がしくしてごめんなさい。わたしたちはまだ三人で相談したいことがありますので、失礼させていただきます」


 まるでお手本のようにリルエッタが丁寧な礼をして、僕とユーネを視線で促す。僕は慌てて頭を下げた。


「お、お邪魔しました」

「失礼しますー」


 ユーネも礼をして、リルエッタを先頭に厩の出入り口へ向かう。

 ペリドットさんたちはメルセティノを厩に入れるために連れて来たのだから、僕たちが出て行くのは当然だ。どう考えても正しい使い方をしているのはあちらである。

 どうやら続きは外で話すことになるらしい。


「待ちたまえ、三人とも」


 けれど数歩も歩かない内に、ペリドットさんに呼び止められた。


「フフン、これでもぼくはお節介なタチでね。よかったらその相談事、ぼくにも聞かせてくれないかい?」

「いいえ。これはわたしたちの問題ですので」


 断るのが早い……。本当に即答だった。当たり前だけれどリルエッタ、今回の件にそうとう怒ってるっぽい。


「まあまあ。先輩の意見は大事だよ。君たちより少しだけ多くを経験しているわけだからね。もしかしたら君たちには出せない解決方法を提示できるかもしれない。なにより相談だけならタダさ。使えるものは使うのが冒険者ってものだろう?」


 けっこうはっきり拒絶されたのに、それでも食い下がるペリドットさん。この人すごいな。僕らにかまったってなんの得もないのに。


「それとも……先輩が名乗ったというのに、自分たちは名乗りもせずに行ってしまうつもりなのかな?」


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