部屋探し
「冒険者ってのは流れ者もいるし、家出同然みたいなヤツや、逆に家から追い出されたヤツだっているからな。やっぱ宿暮らしが多いんだよ。で、部屋を借りるならやっぱ、みんな冒険者の店に近い場所に住みたがるもんだ。当然、冒険者の店の部屋は人気も人気でさ―――まあ、二部屋空いているわけだが」
冒険者の店の二階は全て宿のようで、小部屋は六つあった。
空いている部屋は階段から見て三番目と五番目。間取りはどの部屋もほとんど一緒らしく、ウェインは近い方の三番目に案内してくれた。
「人気なのに二部屋も空いているんですー? 好都合ではありますけどー」
首を傾げながらユーネが扉に手をかけ、開く。
中は思ったよりも広かった。小部屋と言っても最初から一人用を想定していないらしく、備え付けの寝台が二つあるのもいい。リルエッタとユーネは二人で一緒に住むと言っていたからちょうどだ。
他の家具も揃っていて、机と椅子と棚が一つずつ。ちゃんと掃除が行き届いているのか埃などは積もっていない。僕は一目で、いいな、と感じた。
「普通にいい部屋じゃないですかー?」
「そうね。思っていたよりも悪くないわ」
部屋選びに来た二人にも好感触だ。部屋を見回すリルエッタの顔からも機嫌がいいのが伝わってくる。
「ここに衣装棚や本棚を入れると手狭になりそうね。荷物は最低限だけにして、必要になったら家に取りに帰るようにするなら問題ないかしら」
……けっこう広いと思ってたけれど、リルエッタにとっては狭めらしい。
彼女は普段どんなところに住んでいるのだろう。やっぱり村の教会や村長さんの家より大きい家なのだろうか。
「念を押しておくが、さっき言ったとおりお前らにここはオススメしねぇよ。見るだけ見たいって言われたから案内してやってるだけだ。悪いことは言わねぇからやめとけ」
好印象の二人を見ながら眉根を下げ、入り口の壁に背を預けたウェインが頭をボリボリ掻く。
「どうして? 僕から見てもいい部屋だと思うけど」
「そうですよー。いったいなんの問題あるんですかー」
「わたしも是非聞きたいわね。適当なこと言ってるだけなら承知しないわ」
僕が不思議に思って聞いてみると、ユーネとリルエッタもウェインへと問いかける。
「ここは人を選ぶんだよ。ガキんちょならともかく、嬢ちゃんたちはキツいと思うぜ。―――なにせ冒険者の店ってのは、ならず者まがいなヤツらのたまり場だからな」
「え、あ……まさか……」
「ああ」
その説明でなにかピンときたのか、ユーネが一歩後ずさりして身構える。……それでやっと、ならず者まがい代表みたいな男はフッと笑った。どうやら理解できたようだな、と深く頷く。
「真下が酒場だからな。毎日のように馬鹿騒ぎが深夜まで聞こえてきやがるんだよ」
ウェインがそう言い終わる前に、どっ、と大きな騒ぎ声が床下から聞こえてきた。足裏を振動が伝わってくるくらいの音。
それは耳を澄ませばなにを言っているか分かるくらいに筒抜けで、お酒で騒いでるだけなのでもちろん大したことなんか聞こえてこなくて、リルエッタは眉間にシワを寄せユーネはなぜか半笑いになった。
僕も、ああなるほどな、と頷く。
冒険者の店の宿は人気。でも、今は二部屋も空いている。―――部屋に入りたがる人は多いけど、すぐに出て行くんだ。
「貴方たち、近所迷惑って言葉を知らないの?」
「冒険者に求めるなそんなもん」
だよね。
「んで、ここに来たわけね」
夜分に押しかけたにもかかわらず、事情を説明するとチッカは快く部屋を見せてくれた。
「冒険者の店に宿を取らなかったのは正解だよ。冒険者ってやつは他人の迷惑なんか気にしないから、あんなとこに部屋なんて取ったら女冒険者どもが酒と愚痴持って押しかけてくる」
「あの男、一応は親切で言ってくれてたのね……」
「とんだ地雷物件ですねぇ……」
ゲンナリした顔で部屋の中に案内される二人について、僕も部屋に入る。
チッカの部屋は前に来たことがある。依頼で掃除を手伝った時は大変だった。ほとんど一日かかって、なんとか綺麗と言えるだけの部屋にしたんだっけ―――。
「……なんか、また汚くなってない?」
「懐に余裕があると買っちゃうんだよなー」
部屋の一角に釣り具が大量に置かれているのはもう仕方ない。けれど床には服が散乱し、棚はギッチギチに小物が置かれ、壁には落書きみたいな絵が掛かっている。僕ぐらいの大きさの木彫りの猫があったり、見たことのない大小様々な楽器が転がっていたりもする。
掃除したの、まだ最近なはずだけれど。
「前と比べれば、まだ足の踏み場があるだけいいでしょ?」
「綺麗にしないとまた大家さんに怒られちゃうよ」
「その時はチビに依頼出すから、よろしく」
この調子だとそう遠い話じゃなさそうだ……。
「ここ、いいですねー。汚いから最初は驚きましたけれどー、部屋だけ見れば広いし落ち着いてるし造りもしっかりしてそうでー」
「冒険者の店からも近くて便利そうだわ。……喧噪も聞こえないし」
僕が悲壮な覚悟を決めている間に、二人は部屋の間取りを見てしきりに頷いていた。どうやらかなり気に入っているようだ。
この宿はけっこう古そうな建物だけれど、よく手入れされているから新築よりも品が良い感じがして、伝言の依頼で最初に来た時は感心してしまったほどだ。それを覚えていたから、ここなら二人にも気に入ってもらえるのではと連れてきたのだけれど、どうやら正解だったらしい。
「―――けれど、ここって家賃が高いでしょう?」
そのリルエッタの質問に、僕は首を傾げた。
「家賃、気にするの? リルエッタってお金持ちの家の子でしょ?」
「働く以上は独り立ちしたいもの、気にするに決まってるわ。たしかに最初のうちはマグナーンに頼るときもあるでしょうけれど、それは本当に初めだけのつもり」
なるほど。
お金持ちの家の生まれならそれに頼ればいいと思ってたけれど、リルエッタにはそういうつもりはないらしい。たしかにその方がカッコいいなって思う。
「ここは大通りに面してるし、歴史を感じさせる建築だけど外装も内装もよく手入れされてる。しかも部屋が広くて快適そうだわ。いい物件には違いないけれど、かなり高額でしょう?」
「ああ、やっぱ商人の血筋だけあって目利きはたしかだね。うん、Fランクの証無しに、ここの家賃はキビしいと思う」
「そうね、新人だもの。事実だわ」
実際、僕が見てもこの部屋は素敵だと思う。こんな部屋に泊まれるチッカってやっぱり優秀な冒険者なんだなと、改めて感じてしまうくらい。……普段はそんな気、全然しないのに。
たしか彼女はCランクのはず。僕たちよりも三つも上だ。
「残念だけれど、この部屋は諦めましょう。今のわたしたちには分不相応だわ」
「ですねー……残念ですけどぉ……」
きっぱりと断念するリルエッタと、未練がましい声を出すユーネ。二人で住むのなら家賃は半分ずつになるけれど、それでも足りないと値段も聞かずに判断したらしい。
こういうところのお金って、どれくらいするのか全然分からないな……。
「でも、いつかこういう宿を取れるようになるって目標ができただけ、収穫があったわ。ありがとうチッカ、部屋を見せてくれて。キリも案内ありがとね」
「いいっていいって。一緒に釣りした仲間だしね」
「え、ああ。うん」
決まらなかったのにお礼を言われるとは思ってなかったので、ちょっとビックリしてしまう。リルエッタはやっぱりこういうところ、真面目でしっかりしてるな。
「あ……そういえばだけれど、キリ」
僕の顔を見て、チェリーレッドの髪の少女はなにかを思いだしたかのように手をポンと胸の前で合わせた。そして僕の顔を覗き込むようにして眺めながら、不思議そうに口を開く。
「貴方ってどこに住んでいるの? 田舎から出てきたってことは、どこかに部屋を借りているのでしょう?」




