戦闘終了
「―――ねえウェイン。自分より強い相手に勝つ技ってことは、その奥義を使えば僕もウェインに勝てるの?」
なんだかうさんくさい奥義を教えてもらった後、どうにも納得できない気分で、僕はそうウェインに聞いてみた。
結果は……爆笑だった。
「ハハハハハッ! んなワケねぇだろうが。バッカだなガキんちょ」
むぅ。もしウェインにも勝てるのなら本当に強い技だと思うのだけれど、やっぱり最初の印象どおりそんなすごい技じゃないらしい。
「だが、今のはいい質問だぞ。なかなか鋭いところ突くじゃねぇか。満点くれてやろう」
「いい質問?」
鋭いところを突くとか意外なことを言われ、首を傾げてしまう。今のの何が良かったのだろうか。爆笑されたのだけれど。
「俺にその技が効かないのは、そいつを知ってるからだ。こんなクソ技があるって知ってて喰らっちまうとか、間抜けもいいとこだろ?」
「それは……そうだね」
「つまり知ってりゃ警戒できるってこった」
ウェインは手に持った小枝をピコピコ振って見せる。
「言っておくが、これは敵が武器を落とした場合の話だけじゃねぇぞ。どんなに有利な状況だって気を抜くなって話だ。戦況なんていくらでもひっくり返るからな。敵全員のトドメをきっちり刺して息の根を止めない限り、戦闘は終わらないと思え」
そう言うウェインの顔はいつもよりちょっと真剣で、やはりいつもとは違う気がした。
「いいか、だいたいの敵は殺せば死ぬ。逆に言えば、殺さなきゃ死なねぇってことだ。―――これを肝に銘じてくれるのが、このクソ技を奥義って呼ぶ本当の理由なんだよ」
踏み込み、半ばで折れて短くなった槍を突き出す。
青ざめ、恐怖し、驚愕したリルエッタの顔の横を抜けて、彼女の背後へ。
「殺さなきゃ、死なない―――」
こうなることは予想できた。だってまだ殺してないから。
殺していないのなら死んでいない。死んでないなら、まだ動くのが道理だろう。
二匹目は、槍の柄で殴って吹っ飛ばしただけだ。
彼女に襲いかかろうとしていたゴブリンの喉元に、槍の穂先は深々と突き刺さる。
―――ああ、刃がついてるっていいな。殴るよりも力が要らない。
リルエッタの脇を抜けてさらに踏み込む。もう力が入らなくて、両手で槍の柄を持って、自分の身体の重さを利用してさらに押し入れた。
肉を裂き骨を削る感触の後に、穂先が向こう側まで突き破る手応えまで伝わってくる。……最初の一撃でだいぶん弱ってたのだろう。吹っ飛んだ時に剣も落としたのかなにも持っていなくて、抵抗らしい抵抗もできないままゴブリンは血を吐いて息絶えた。
ふぅー、と息を吐く。やっとひとまずの安堵を得る。
これで三匹全部。他に敵の姿は見当たらない。まだどこかにゴブリンが隠れていないとは断言できないけれど、とりあえず敵全部のトドメをきっちり刺した。リルエッタとユーネは生きているし、酷い怪我もなさそうだ。
これで戦闘は終わった。
「な……なんで、起き上がってくるって分かったのよ……」
リルエッタが今にも崩れ落ちそうな顔をしていた。僕は仰向けに倒れたゴブリンから折れた槍を抜いて、振り向く。
「そりゃあ、生きてれば起き上がるよ……」
聞かれたことに、僕は当たり前のことを答えるしかない。
殺せば死ぬ。殺さなきゃ死なない。ウェインが教えてくれたのは本当に、バカでも分かるような当たり前のことばかりだ。
こういうときにどうすればいいのかとか、一つも教えてもらってない。
「なんで、わたしたちを追ってきたのよ……」
「……やっぱり連れ戻そうと思って」
正直に答える。
実際、ゴブリンに襲われる前に追いつけたのなら、無理やり引っ張ってでも連れ戻しただろう。けれど僕は思ったよりも長い時間、あの場所で立ち止まっていたらしい。彼女たちはすでに目的地のマナ溜まりまで来ていて、見つけたときはゴブリンどもに襲撃されている最中だった。
「そんな……」
僕の返答が気に入らなかったのか、リルエッタが顔をくしゃくしゃにして声を上げる。
「そんなに強いのなら、最初から一緒に来れば良かったじゃない……この臆病者!」
―――ああ、まったく。なんて勝手な言い草。
僕の方針を無視して、パーティを解散してまで先へ行ったくせに。ゴブリンを弱い魔物だって侮ってたくせに。
この子はどうして、どうして……冒険者なんかになってしまったのだろう。
こんなにも向いていないのに。
パン、と乾いた音が響いた。叩いた手のひらがジンジンして、叩かれたリルエッタの顔が横を向いていて、すごく驚いた表情で呆然としていた。
ゴブリンとの戦いで忘れていた。僕はここに、彼女たちへの怒りで来たのだ。
「……あ」
数拍分も時間を置いて、そんなか細い声が彼女から漏れる。……そして、その瞳から涙がこぼれた。
「ああ……うっ、あ……あああああああああああああ!」
堰を切ったように涙が流れて、立っていられなくなったのか両膝をついて、漏れ出た嗚咽はすぐに叫びになる。
―――気丈に振る舞っていただけなのは分かっていた。それが、この程度のことであっさり瓦解するだろうとも思っていた。
けれど、こうなったらどうしようとか、考えていたわけじゃなかった。
「大声を出すな。まだ敵がいたらどうする」
泣き崩れる女の子にこんなことしか言えなくて。自分で泣かせといてなにを言ってるのかと気まずくなって。
僕は彼女から目を逸らす。頭が痛くて、クラクラして、ぼうっとしてうまく考えがまとまらない。なにを言うべきなのかまったく分からない。
そもそも……今はそんなことをやっている場合ではない。とにかくこの場所を離れるべきだ。リルエッタになにかを言うべきなら、安全な場所に戻ってから好きなだけ言えばいいのだから―――
「―――……あれ?」
クラリ、と景色が揺れた。足で踏ん張ろうとして、膝がくにゃりと曲がった。
「キリ君!」
ユーネの声が聞こえたけれどやけに遠くて、目の前が真っ暗になる。




