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パーティというもの

「ほらここ、薬草があった」

「わあ、依頼書にあった薬草です。たくさん群生してるんですねー」


 道中で薬草を見つけて教えると、ユーネが胸の前で手をポンと叩いて喜ぶ。安いのだけれど、多いからそれなりの額にはなりそうだ。


「二人とも、採取の方法は分かる?」

「ええ、覚えてきましたから大丈夫ですよー」

「問題ないわ」


 一応確認すると、二人とも小さなナイフを取り出す。僕のよりも少し小さいそれは同じ造りをしていて、どちらも新品のようだった。

 薬草採取のために買い揃えたのだろうか。用意が良くてちょっと驚く。

 そして、驚いたのはナイフのことだけではなかった。


「もしかして二人とも、もう依頼書の薬草は全部覚えたの?」


 ユーネは一目見ただけで依頼書の薬草だと見抜いたし、リルエッタもちゃんと正しい方法で採取している。依頼書をしっかり読んで覚えてなければできないことだろう。……けれど彼女たちはそもそも、依頼書をじっくり見てもいないはずである。昨日の朝、本当に短い時間依頼書を見せただけだ。

 やりながら説明するつもりでいたのだけれど、どうして採取の方法まで分かるのだろうか。


「ユーネはまだ全部は覚えてないですねぇ。でも、お嬢様は全部覚えてるんですよー」

「あの薬草たちはどれも魔術や錬金術で使うものだもの。元から知識があっただけよ」

「名前は全部知ってるものだったんですよねー。でも採取の仕方が分からなくて、昨日二人でお勉強してきたんですよー」

「ユーネ、黙って採取なさい」


 ちょっとビックリだ。二人とも薬草採取がやりたくって冒険者になったわけじゃないだろうに、今日のためにちゃんと調べてきたらしい。きっと根が真面目なのだろう。

 それにしても薬草のことを知っていたとはいえ、依頼書をちょっと見ただけで種類を全部覚えたリルエッタは、もしかしてすごく頭がいいのではないか。


「へぇ……薬草って薬師ギルドで水薬を造るためだけのものだと思ってた。魔術やレンキン術? にも使うんだね」


 自分が採取している品がどのように使われるモノなのか、そういえばよく知らない。水薬の作り方だってよく知らない。

 だからリルエッタの知識には感心したのだけれど、彼女は首を横に振った。


「正確には、薬師ギルドが造る水薬も錬金術の産物よ。調薬と錬金術は似ているもの」


 なんか細かいところで違うらしい。


「なにが違うの?」


 そう聞くと、彼女は薬草を採る手を止めて少し考えて、それから目を逸らした。


「それは専門的な話になるわ」


 たぶんリルエッタにも分からないことなんだろう。






 獣道をゆっくりと登っていく。

 薬草を採取しながら、こまめに休憩を挟みながら、リルエッタとユーネの二人に歩調を合わせて遅い速度で進む。

 坂はそこまでキツくない。けれど張り出した根っこや柔らかくて湿った地面は歩きにくく、慣れないとかなり体力を使うだろう。そして彼女たちはきっと、こんな道は慣れていない。


 じりじりと、背中が焦れるような気がした。

 遅れがちになる二人を待つ間、空を見上げる。枝葉の隙間から覗く陽の位置は、すでに午後を回っている。


 正直、後悔していた。ウェインがらみとはいえ、やはりこのパーティの話は断るべきだった。

 歩みが遅い。ゆっくり歩くから普段より探す余裕があって薬草はよく見つけることができるけれど、三人で分けるから結局普段より稼ぎが悪い。水筒も渡してしまったから喉が渇く。

 この二人と組んでも、僕には損しかないのではないか。―――パーティを組むときはちゃんと考えろ、的なことを前に言われたけれど、その通りだと思う。


 帰る時間は動かせない。陽が沈むまでに町に戻らないと門が閉まってしまう。……頂上に辿り着いてから、どれだけ時間があるだろうか。


「……ねえキリ。これはとても素朴な疑問なのだけれど、なぜ山を登るの?」

「そうですよー。山でなくっても、坂が少なくって歩きやすい森とかでも薬草はありませんかー?」


 追いついてきたリルエッタが口を開いて、ユーネもそれに頷く。

 体力のない彼女たちに一番最初の冒険がここというのは、たしかに厳しかったかもしれない。昨日の靴で気づくべきだったのだろう。

 とはいえ僕にだって事情がある。二人に合わせてばかりはいられない。


「えっと……まずだけど、ここは山じゃなくて丘だよ」

「いえ、山だわ」

「山ですねぇ」


 ……話の出鼻からくじかれた。僕はくじけないぞ。


「丘だよ。てっぺんが低いし、そもそもここシルズン丘って言うんでしょ?」


 前、雨の日に見た地図にはたしかそう書いてあった。ここはシルズン丘。山じゃない。


「シルズン山は山よ。丘って誰に聞いたの? この町の近くにあって昔から丘と呼ばれていたから、老人たちは丘って呼ぶし古い地図にもそう書かれているけれど、標高的に山だもの。最近はみんなシルズン山って呼ぶわ」


 僕は顔を覆う。……勝てない。ムジナ爺さんは老人だしあの地図も古かった。

 そうかここ、山なのか。どうりで坂がキツいと思った。村の近くにあった山のどれよりも低いから、丘って言われて納得しちゃってた。

 冒険者なら丘くらい登れないと、って言おうと思ってたのに。


「ま……まあ、ここは山かもしれないけれど。その、ここじゃないとダメなんだ」

「どうして?」


 リルエッタの目が細まる。だいぶん疲れているのだろう。汗だくで、木の幹に手を突いてなんとか立っているという感じ。新しい靴はもう泥だらけだ。

 素朴な疑問だと彼女は言っていたけれど、なぜもう少し楽なところにしなかったのか、納得のいく理由がなければ怒り出しそうな雰囲気があった。……水筒を渡したときは感謝までしてくれていたけれど、どうやらその効力も終わってしまったようだ。


「短い期間にしか採れない薬草があるはずなんだ」


 理由ならある。ただそれは僕の都合で、彼女たちの体力については考えていない。

 彼女たちのことを考えるなら、あの河原にでも行っておくべきだった。僕もなにもなければそうしていたと思う。

 けれど理由があるから、僕は二人がいてもここに来た。


 もし僕がこれから伝える説明で納得させられなかったら、二人はここで帰るのだろうか。

 それはそれでいい、とは思う。僕の方はなんの問題もない。


「ここの頂上近くにマナ溜まりっていう、いい薬草がたくさん採れる場所があるらしくてね。前の時はゴブリンの足跡を見つけたから、ここはやめて別の場所に行ったんだけれど……ついこの間、そのゴブリンを討伐できたから改めて探したくって」


 ゴブリン討伐のとき、残党がいないか探すために足跡を辿ったのだ。その結果、このシルズン丘……シルズン山の山頂近くまで続いていたのを確認した。

 あのときのゴブリンはもういない。それが分かって、ムジナ爺さんが最初に向かおうとしていたマナ溜まりのことを思い出した。

 採れるのはもう一つの方と同じ紫の花の薬草という話だから、採取できる期間は十五日間のはず。まだ、採れるはずだ。


 問題は、それがどこにあるのか分からないことなのだけれど。


「あるのは知っているのに、探すの?」

「……うん? うん。あるって教えてくれた人は……もう都に行っちゃったから」

「そういうことね」


 僕の説明に納得してくれたのかどうか、リルエッタは唇に指を当てて少し考え込む。

 そして。



「わたし、その採取場所を探せるかもしれない」


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