新パーティ、結成
冒険者の店のすぐ近くにある武具屋には、武具だけじゃなくって冒険に役立ついろんなものが売っている。僕の採取用のカゴも、ここで買ったものだ。
「買ってきたわよ、カゴ。これでいいんでしょ?」
「このお店、なんでも売ってるんですねー」
真っ赤なひらひらの服の上に魔法使いのローブを引っかけた小さな女の子と、大きな帽子をかぶったダボついた服を着た少女が、お店から出てくる。
……準備のためのお金あるっていいな。僕、最初は上着と枝でカゴ作ってたんだけど。
帽子の子は僕と同じ背負うタイプのカゴだけど、ローブの子は紐を肩に掛けるタイプだ。
肩に掛けるタイプは小さいからあんまり入らないけれど、僕みたいに槍を背負ってたりする場合、あっちの方が邪魔にならなくていいらしい。……ただ、彼女は大きな武器を持っていないのだけれど。ローブの隙間から、腰に短杖が吊してあるのが分かるだけだ。
どちらかと言えば、帽子の子の方が大きな武器を持っている。僕の槍よりは短いけれど、地面に立てたら彼女の胸くらいの高さにはなるだろう長い柄の先に、ゴツゴツした鉄の塊がくっついている武器だ。つまりメイスの柄が長いヤツなのだけれど、僕はあれの呼び方を知らない。
なんだかチグハグだ。でも、そこまで大きな問題ではない。彼女たちが薬草採取を何度もやる気になったなら、そのときは交換すればいいし。
「うん、じゃあ出発―――の前に、一つ伝えないといけないことがあるんだけど……そういえば自己紹介してなかったよね。僕はキリ。キミたちは?」
そういえば彼女たちの名前も知らなかったなと、今更ながらに聞いてみる。
「リルエッタ・マグナーン。魔術士よ」
「ユーネはユーネ・イズスです。治癒術が使えます。よろしくお願いしますねー」
結局今日の僕は、この二人とパーティを組むことになってしまったのだった。
―――つーわけで、コイツら連れてってやれ。
向こうが悲鳴を上げるほど思いっきり足を踏んだけれど、ウェインには世話になったので断ることもできず、しかたなく僕は二人と一時だけのパーティを組むことになった。借りがあるってツラい。しかもこれくらいじゃ返せないから、きっとまたこの調子でなにかやれって言われたら断れない。
……とはいえ、期待に応えられるとは思えない。僕だってまだ新人だ。ランクだってFから一個も上がってないし。
……まあ、ウェインの言葉が嘘になったとしても僕に責任はない。できることだけやればいいやと割り切って、僕はいつも通りの冒険に行くことにした。
つまり、薬草採取である。
「リルエッタ・マグナーンにユーネ・イズスだね。……えっと、名前の方で呼んでいいものなの?」
「かまわないわよ」
「ええ、ユーネって呼んでくださいね、キリ先輩」
そっけなく頷くリルエッタに、両手を合わせて微笑むユーネ。なんだか真逆の二人だけれど、とりあえず二人の名前と呼び方が分かって良かった。―――でも先輩って呼ばれるのはなんだかくすぐったいな。たぶん僕の方が年下だし。
でも……魔術士に治癒術士さんか。
たしかにリルエッタはお店で魔術士だって言ってたし、ユーネもよく見たら大地母神さまの聖印の首飾りをしている。
……魔法を使える人ってなかなかいなくて、すごく貴重って聞いたのだけれど。そんな人材が二人も、なんで僕なんかと薬草採取へ行くことになっているのだろうか。
「じゃあ、リルエッタにユーネ。これから冒険に行くけれど、さっき言ったとおり出発前に伝えておかないといけないことがあります」
やる気があるわけではないけれど、やるとなったならちゃんとやらなければならない。できないことは無理でも、できることと知っていることはこなさなければ。
……とはいえ、これからちょっと偉そうなことを言わなければならないので、気分はあまり良くない。正直言いたくないし、どんな反応がくるだろうかと思うと怖い。
今は落ち着いているみたいだけれど、さっきのウェインに対するリルエッタの剣幕がおっかなくって、ちょっと気後れしてしまう。
「えっと……今日はこの三人で臨時のパーティとして行動します。そして、パーティのリーダーは僕です。なので、僕の方針には従ってください」
「命令に従えってこと?」
やっぱり声が恐くなった。せっかく丁寧な言葉使いしたのに。
内心でため息を吐く。店で一目見たときから分かっていたことなのだけれど、こういう子ってちょっと苦手だ。
「うん、そういうこと」
僕が頷くと、リルエッタが鼻白んだ。
おっかないけれど、これはどうしても伝えないといけないことなのだ。引くわけにはいかない。
「嫌だったらここでやめていいよ。冒険の途中でも、僕の方針が気に入らなかったらいつでも帰っていい。けれど、僕の言うことを無視して勝手に動くのはやめてほしい」
以前、これと同じようなことを言われたことがあった。
あの時は特に深く考えることもなく、リーダーってそういうものなのか、と思ったけれど、今ならあの言葉の意味が少しだけ分かる気がした。
「……イジワルで言ってるんじゃないんだ。なにかあったとき、僕は君たちを守れるほど強くないし、責任もとれないってだけ。だからこれを約束してくれないと連れて行けない」
つまりは、こういうことなのだ。
さっき先輩って言われたけれど、たしかに僕は先輩でパーティのリーダーなのだから、この二人になにかあったら僕のせいになる。それは、すごく怖い。本当に怖い。
だからホントに勝手に変なことだけはしないでほしいという―――アレは、きっと必死のお願いだった。
「なるほどー。分かりました、ユーネはキリ君に従いますね」
「ちょっとユーネ、あなたね……!」
「まあまあ、連れて行ってもらうのですから。今日は冒険の見学と思いましょうよお嬢様」
ほわほわニコニコと、ユーネがリルエッタを説得してくれる。
さっきはキリ先輩って呼んでくれたのに、もうキリ君になっているけれど、彼女は協力的でおっかなくないからありがたい。それに二人はかなり仲がいいようで、ユーネの言葉はちゃんとリルエッタに届くようだ。
「……分かったわよ。でも、気に入らなかったら本当に帰るから」
「うん、それでいいよ」
結局リルエッタも納得してくれて、僕はやっと安心して胸をなで下ろすことができた。
正直、途中で帰ってくれる分には問題ない。期待外れに思われてしまうのはべつにいいのだ。そもそも僕に彼女たちを納得させるような実力なんてないんだから。
「それじゃ、冒険に行こうか。ついてきて」
二人の冒険者登録はもう済ませてあるし、採取用のカゴも買った。二人の名前も聞いて、伝えておかないといけないことも言った。これで準備完了だ。
予定よりだいぶん出発が遅れてしまったけれど、やっと出発できる。
冒険の見学。
その言葉にはなんだか胸にモヤがかかったような気分になったけれど、早く採取へ行きたかったので、気にしないことにした。




