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ウェインが悪い

 なぜだろう。僕に落ち度はなかったはずだ。

 入り口で騒ぎを察知し、当事者のウェインを見捨てて遠回りしてまで関わるのを避けた。他の冒険者のように、面白い見世物感覚であからさまに見てもいない。

 僕はただ、朝食を食べているだけなのに。はやく採取に行きたいだけなのに。


 これはきっと、ウェインが悪い。






「あ……アイツはいいんだよ」


 ウェインがしどろもどろに言う。たぶん、彼女の背が小さいことを理由になにか余計なことを言ったのだろう。そして人間で彼女より小さい僕がいたせいで反撃されたのだ。

 なにやってるんだウェイン。もっと頑張って。もっとこう、物語の悪役というか、最初の方に出てくるやられ役の小悪党的な感じでいいから、その子や周囲の視線を釘付けにして。

 なんの関係もない僕が注目浴びてるこの状況はすごく居心地悪いんだぞ。


「なにがいいってのよ! あんなに小さくて弱そうでなんにもできなさそうな子がいいのに、魔術士のわたしがダメな理由はなに? ちゃんと分かるように教えてもらいたいんだけどっ!」

「いや、アイツはほら、なんもできないなりにちゃんとやってるから……」

「意味分からないんだけど!」


 女の子の言うとおりだ。そんな説明で納得できるものか。もっとちゃんと具体的なことを言え。


「チビはまあ、目が違うよね」

「目?」

「うん、あの子とチビは目が違う」


 チッカにそう言われて、首を傾げる。あの女の子たちと僕で、目にどんな違いがあるのだろう。色ならたしかに違うけれど。


「キラキラしてない」

「悪口言ってる?」

「まさか。チビには冒険者、つまりダメ人間の素質があるってこと」

「言ってるよね?」


 僕とチッカでそんな話をしている間もウェインと女の子はうるさく騒いでいて、そのどちらにも関心のないシェイアが魚を食べ終わってハンカチで口元を拭く。


「ねむい」


 他に言うことはないのだろうか。


「朝は強敵」


 本当に眠そうだし……。

 まあ、シェイアがここで寝てしまっても特に問題はない。冒険者は自由なのだ。だから眠いのなら寝ればいい。たぶん違うけれどそういうことだ。

 はぁ、とため息を吐く。なんというか、始めから終わりまで益体がない。ウェインは猫の尻尾を踏んだような自業自得だし、チッカは暇つぶしに適当な会話をしてるだけ。シェイアはもうとっくに飽きている。


 さっさと食べて、採取に行こう。



「ああ、もう分かった。分かったよ。そこまで言うならアレだ」



 ついにウェインが、女の子に根負けする。

 そして、また余計なことを言った。


「それなら、あいつとパーティ組んでついて行ってみろよ」






 どうしてそうなったのだろう。考えてみて、すぐに分かった。ウェインが面倒を僕に押しつけようとしているのだ。

 最低だ。自分のせいで起きた騒ぎなのに、人に放り投げるだなんて無責任すぎる。

 しかもあれ、僕がなにかいいところを見せないといけない流れじゃないか。


「馬鹿にしてる? なんであんな弱そうなのとパーティ組まなくちゃならないのよ! わたしたちはアレと同程度だって言うつもりっ?」


 女の子が烈火のごとく怒声をあげる。彼女の怒りはもっともだ。僕と同程度なんて、この店で一番弱いって言っているのと同じである。


「いやいや、あれより下だって言ってんだよ」


 もうやめてウェイン。上とか下とかどうでもいいから。

 もう早く出て行ってしまおうと、食べる早さを上げる。オートミールを口いっぱいに詰め込んで、湯冷ましの水で飲み下す。他のお店には行ったことないけれど、冒険者の店の料理は特に量が多いらしい。だから急いで食べてもなかなか減ってくれない。


「登録も済ませてないガキ二人が、なんども冒険行って帰ってきてるあいつより上なわけないだろ。ナメすぎだ、冒険者のことも、あいつのことも」


 女の子がすごく恐い顔をして、また何か大きな声を出そうとする。―――けれど、その声が発せられることはなかった。


「お、お嬢様。いいではないですか」


 彼女の後ろでアワアワしていた、大きな帽子の少女……たぶん小さい方の子より年上なのだろうけれど、なんだか気が弱そうなその子が必死でその肩を押さえて止めたからだ。

 ふわふわで明るい、栗色の長い髪が揺れて、その少女が僕を見る。

 ちょっと潤んだ、どこか助けを求めるような目。


「この方のおっしゃるとおり、今日はあの子について行ってみましょうよぅ」

「ユーネ、貴女こんな男の言うこと真に受けるつもりっ!」

「き、気に入らない方でも先輩さんですよぅ。馬鹿丸出しな助言や忠告も、その場では一応聞いたフリをしておくのが新入りの処世術って教えてもらったでしょう?」


 おどおどしてるだけかと思ったら、けっこういい性格してる。見ていた周りの冒険者がたまらず笑って、ウェインが苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

 小さい方の女の子はムッとした顔をしたけれど、その言葉には納得したのか一旦口を閉じる。そして腕を組んでキッとウェインを睨みつけると、いかにも不承不承といった様子で口を開いた。


「……いいわ。貴方の言うとおりにしてあげる。そのかわり、貴方がでたらめ言っているだけだったのなら覚えておきなさい」

「それが新入りの態度かよ……」


 頭痛でもするのか、額を押さえて首を横に振るウェイン。

 僕も頭を抱えた。一生懸命食べたオートミールは、まだお皿に少し残っていた。


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