冒険者の死
冒険者にとって死は身近なものである。
よく死ぬし、よく見る。
だからって慣れるわけではない。
―――いや、慣れているのだろう。
昨日店で飲んで騒いでいた人が今日はいない。
目の前で死ぬのを見た。
死体袋を引きずる知り合いがいた。
殺した。
自分のせいで死んだ。
冒険者は慣れている。普通の人たちよりも人の死を知っている。
慣れなきゃやっていられないのだから、慣れるしかない。故人に不義理であっても前を向くためには必要だ。そうしなければその冒険者も死に囚われるだろう。
でも、それでも簡単に乗り越えられるものでもないし、あっさりと忘れられるものでもない。だから生きるためには前を向かなければならないけれど、たまには後ろを振り向くことも必要だ。
共同墓地に並ぶ冒険者の墓碑の前を通れば、そのどれかには新しい花が置かれてあるのが常だった。
秋が終わり、冬が来て、春が訪れ、夏になって。
そしてまた、秋に移って。
「なあ、アレってそろそろなんじゃねぇか?」
「今日のはず」
「あー、そっか。もうそんな時期なんだね」
「そういえばそうだったね。フフン、じゃあみんなで行くかい?」
「そうっスね。じゃあ呼んで来るっスよ!」
思い出したような声がして、まるで酒場で飲み仲間を誘うように冒険者たちが集まっていく。
やがて基本少数で動く冒険者にしては多い一団になると、朝の騒がしい冒険者の店から北方へと出発した。
「フフフフフフフフフフフフフフフ。あれだけのことがあったのに、振り返ると懐かしいものですね」
「バッハッハ、せっかくだから一番いい酒を持って来たぞ」
「いやそれは……まあいいか」
「べつにいいだろう。そういうのは気持ちだしな」
呼ばれた者たちは、すぐになにをするのか分かる者もいれば、
「これはいったいどこへ向かってるんだ?」
「……さあー? 北側ってあんまり行くことないんですけどー」
「まあ、このメンバーだもの。ろくなコトではないでしょうけれど」
どこに向かうのかすら分からず、歩きながら首を傾げながらの者もいる。
ヒリエンカの町の北側は、町の発展に伴い最近になって開発が進んでいる場所だ。つまり元はあまり人の住んでいない、町の中でも空き地や畑が目立つ地方だった。
冒険者といえば何でも屋みたいなところがあるし、町中での仕事も多い。でも、この辺りでの依頼が冒険者の店の掲示板に貼られることはあまりなかった。人が少ないということは事件も少ないということで、依頼人も少ないということ。それだけ長閑な場所なのだろう。……今後は住人が増えそうだから、どうなるか分からないけれど。
とはいえ、この町の北側へ向かう道を歩く冒険者は多い。
首を傾げていた者たちも進むにつれてどこへ向かっているのか分かったのか、だんだん納得したような顔になっていく。
唯一、この中で一番後輩の冒険者だけは疑問の表情を浮かべていたが、目的地に着けば否応にも理解した。
「墓……か」
「町の共同墓地ね。この町で生きて、死んだ人が最後に来る場所。冒険者もここに埋葬されるわ。……この季節にこのメンバーで来るってことは、行く場所はあそこでしょうね」
「おおーい、なにやってんだ。こっちだこっち。はやく行くぞー」
「追いてっちゃうっスよー」
普通なら静かにしなきゃいけない墓地であろうと、冒険者たちは騒がしいままズケズケと靴を鳴らして進んでいく。
広いけれど見晴らしはいいから先に行ってしまっても姿は見えるし、それにどうせ行き先は冒険者たちの墓が並んでいる区域だろう。迷うようなことはないのだから、死者の安寧を妨げるほど大きな声を上げて急かさなくてもよさそうなものだが……そういう常識が通じないのも冒険者なのだろう。
まあ、仮に墓からゾンビが起き上がって来ても倒すだけだし。
共同墓地を歩いて行く。
ヒリエンカの町は今、ドンドン町並みが変わって行っている。周辺の村々から、都や王都から、海の向こうから、たくさんの人が入ってきている。商人も増えて大通りは露店がいつも並ぶようになったし、珍しい種族の人もよく見かけるようになった。東側なんてもう一つ冒険者の店ができたりなんかして大変そうだ。
町は日に日に賑やかになっていく。けれど、ここの風景だけは変わらない気がした。過去がそのまま残っているような―――ああ、死者は過去の人なのだから、それは当たり前なのか。
冒険者たちの共同墓地に辿り着く。知っている名前が刻まれた墓に、冒険者たちはまるで久しぶりに再会した友へそうするように、軽く手を挙げながら挨拶していく。
たぶんそれでいいのだろう。だって生前の彼らもきっと、そんな感じだったのだろうから。
そうして、目的の一つの前で、彼らは止まった。
「……アレから一年か。あっという間だよな、ガキんちょ。ほら、お前の好きだった花だぜ。墓参りになんにもないのもアレだからな、道すがら摘んできたんだ」
一団の一人、髪の一房が白い戦士の男が代表のようにその墓の前に出て、小さな白い野花を墓の前に供える。
―――その墓碑に刻まれた名は、キリ・■■。
まだ新しいのに、なぜか後半が削られたそれは……
「とりあえず僕の好きな花を知らないことはよく分かっチェリャア!」
「ゴフゥ!」
空の墓の前で真剣に祈りを捧げるフリまでして悪ノリするバカの後頭部を蹴り飛ばした、僕のお墓だった。




