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剣蟲

 ウェインの剣が奔った。大きく踏み込んでの突き。

 それに対しサノは攻撃を優先した。痛みへの恐怖まで失ったのか、迫り来る刃に身をさらしながら浴びせるような氷の黒剣を振るう。

 それを神官二人の結界が防ぐ。


 神聖魔術発動のタイミングを見計らっての連撃。間違いなく即席の連携。

 守備を捨てて踏み込んだ剣は、ほぼ自動的に展開された氷雪の華を砕き深々と肉を穿つ。……だが傷口はすぐに氷で塞がれる。


「知ったことかよっ!」


 冒険者の鉄靴がさらに踏み込んだ。退こうとしたサノの爪先を踏み潰す。そのまま、兎獣人の種族特徴ともいえる脚を斬り飛ばした。

 左脚を失いガクリとサノの身体が揺らぐ。倒れかける。

 鉄の肘当てでその顎をカチ上げる。


 武器だけに頼らない荒々しい戦い方。もはやウェインは考えていないのだろう。なんで死なないのかとか、どうしてこうなったのだとか、どうやったら倒せるのかとか、そんなことは頭にない。

 ただ戦う。全神経をそれだけに集中させる。


 それができるから、血まみれでも彼は生きていた。

 剣はサノの肉体に届いて削っていくが、鉄の鎧を易々と裂く氷剣もまた嵐のようにウェインを切り刻んでいく。しかし傷はことごとく紙一重で致命傷を逃れ、補助があるとはいえほとんど一人で前衛を維持していた。

 ただしそれは、時間制限付き。傷は着々と増えていき、血液は流れ続ける。神官たちの回復は追いついてないし、魔力も尽きかけだ。長く戦い続けることはできない。


 それを分かっているからこそ、好機を逃すウェインではなかった。


 剣を薙ぐ。驚くほどにしなやかで、脱力した動き。何度でも繰り返したのだろう一撃は、正確にサノの首を狙う。

 元傭兵ならば、人とは戦い慣れているのだろう。それを思い出させるような剣筋。

 血しぶきが舞う。


「―――カハッ」


 黒氷の剣がウェインの腹から背中まで貫通していた。サノの両腕は振るわれていない。

 脚だ。斬り落とされた膝下から氷の刃が生えて、ウェインを貫いている。

 すぐにコルクブリズが呪文を切り替える。明らかに致命傷だけれど、即死ではない。まだ生きている。


 だから、ウェインは血を吐きながら剣を振りきった。


 サノの目が驚きに開かれる。身を投げ出すように避ける。

 兎獣人の長い耳、その右側が半分になる。


「いいね、さすが」


 まるでその瞬間を見計らったかのように。

 見開かれた目を、突撃したペリドットの槍が穿つ。






「やったっ?」


 声をあげた瞬間、サノの全身から剣が飛び出た。鎌のように歪曲した刃にウェインとペリドットが貫かれる。

 歪み、膨らみ、欠損を氷で補い、すでに兎獣人からかけ離れていたその姿は、ついにおぞましい魔物に変じた。

 両腕の長大な剣は翅のようで、胴から生えた剣は節足のようで、黒い氷の外殻を纏った大きな蟲を思わせる。潰れた右目からも刃が生えているのすら触角に見えた。


 完璧なタイミングだったはずだ。ウェインが注意を引き付けていたし、体勢も崩れていたし、避けられるものではない。……とはいえ、ペリドットが外すとも思えない。

 獣人は勘が良いというが、あの状況でペリドットの参入に気づいて避けたのだろうか。それともあの氷雪の華が展開して槍の穂先をずらした?


「リルエッタ、撃ちな!」


 失敗の原因を考える暇などなかった。チッカの声に即応したリルエッタが、魔術を発動する。


「耳、貰うわよ!」


 その魔術は初めて見るものではなかった。彼女がよく使う魔力弾。

 けれど違う。込められた魔力がずいぶん大きい。おそらくは彼女の全魔力。……けれど

それ以上に異質だったのは、魔力弾そのものが見た瞬間にゾッとするほど不安定にブレていること。

 ただの失敗にしてもああはならない。あんなふうになるくらいなら発動しない。まさかわざと制御系を放棄した? 僕が邪道の魔術を使うのにあれだけ反対したリルエッタが?


 疑問に対する答えが出る前に、異形となったサノに届く前に、前線で魔力弾が破裂する。



 轟音が。



 音圧で吹き飛ばされるかと思った。鼓膜が破れるかと思った。思わず耳を塞いだ。

 これアレだ。マシェリと逃げるとき、僕が追いかけてきたサノとテテニーに向かってやったヤツだ。対兎獣人用の音爆弾。あれは錬金術製だったけれど。

 僕のを参考にしたのかリルエッタも同じことを考えていて用意していたのか知らないけれど、魔力弾の応用でもできるんだこれ。


 間近で喰らったサノが耳から血を流しながら仰向けに倒れる。彼がどれだけ速くとも音には勝てず、そしてあの腕では耳も塞げなかったのだろう。

 狙いは鼓膜だから氷の防御も関係ない。完全にまともに喰らった。意識を刈り取ったかも。


「………………」


 耳がバカになって聞こえなかった。けれど、シェイアの魔術が完成したのは分かった。デロリと、絵の具が滴るようにサノの身体から生える氷の剣が溶ける。


「…………ー!」


 ユーネの治癒魔術も発動する。倒れかけたウェインとペリドットが同時に踏ん張る。

 剣が、槍が、サノの身体を捕らえる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 我が身が傷つくのを厭わずひたすらに剣を振るう戦友の元へ己の全てを一本の槍に乗せ駆けつける太陽の輝きを纏った主人公! そうなのよ!物語は主人公と認め合う戦友、二人が力を合わせる場面こそ最高な…
[一言] ここで引き……というのは……それ自体がフラグな気がするが……しかし、これでやったか!?でなく実際にやった!というパターンもあるか?
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