立案
治療の呪文が終わるまでの間が悠久のように感じた。
さらに防護や防寒の支援術を受けて、万全を期して出る。
その間にはもう冒険者たちは満身創痍。若い二人は虫の息で倒れていて、熟練者たちもほとんど膝をついている。
「さあさあ、みなさん。もうひと頑張りいきましょうか!」
その現状を見て、コルクブリズはパンパンと手を叩いて激励する。
どういう精神をしているのだろうか。
「どこ行ってたんスかこの破戒僧っ!」
「お主のそのふてぶてしさ、たまにドワーフかと思うぞ」
「フフン、後で少し話そうか。今はとにかく加勢したまえ!」
仲間たちにもこの言われようだ。やはりゆっくり話していたのは間違いだったのではないか。いくら信頼していたとしても悠長だったのではないか。
「やっと来ましたねコルクブリズ! 作戦はっ?」
「頭悪いからって考えるのを拙僧に任せる癖、そろそろ治して貰えませんかねカラトア」
もう一人の神官とはそういう関係か。やりとりが慣れていそうな辺り、どちらもに同情する。
「黄虎族の女王と戦士の協力を取り付けましたので、みなさんで治癒魔術の援護なしで時間を稼いでください。カラトアはこちらに来なさい」
無茶を言うのに躊躇いはなく、それを受ける方にも躊躇いはなかった。
ドワーフが下から戦斧を振るう。長身の戦士が上から槍を突き出す。矢の無くなった兎獣人が敵の背後からダガーを振るう。ワプナンが駆ける。
「平静の術を使います」
個別に説明する時間などないからと、妾も初めてそれを聞いた。
「サノ殿の変貌は衝動ありき。ならば精神の平静を取り戻せば戻るかもしれませんからね。試す価値くらいはあるでしょう」
「それが作戦か? あまりにもおざなりだ。というか、術を使うなら今使えばいいだろうが」
「ちょっと難しいですね。あの氷雪の華、どう見ても魔力壁ですし。平静なんて平和な精神干渉、サノ殿に届く前にアレの破片にでも当たって霧散するのがオチです」
「なら攻撃的な魔術を使えばいいのではないか?」
「神聖魔術って攻撃的な術はあんまりないんですよね。それにあのインチキでもしているような魔力量に相殺されそうですから、単純な魔力攻撃で有効打を与えられる気もしないんですよね。少しでも精神干渉が通ることに賭けるのが、もっとも現実的かと」
両の腕の剣で斧と槍を弾かれ、背後のダガーは不意に宙に咲いた氷雪の華を砕いて止まる。
踊るように、吹雪のように、サノが回転する。
「ダラァッ!」
ワプナンが決死の突撃で氷剣を掻い潜る。勢いのまま拳を地面に擦り、下から上へ振り上げる。
トン、と。その拳を蹴って、氷の剣を羽のように広げながら、サノが跳ぶ。
「なので至近距離から平静の術を叩き込みます。文字通りにね。マシェリ殿はそのための道を空けてください」
夜の空に咲いた一際大きい、一帯を覆うような氷雪の華に、氷の魔王が届き―――剣を叩きつけた。
破砕する。
剣よりも鋭い無数の氷が、降り注ぐ。
「できるでしょうカラトア。あなたの拳で魔力をぶち込むあの奥義です。その魔力全部拙僧が平静の術にしてやりますから、躊躇わず全力で撃ってください」




