戦い。 後半
騎士と冒険者達が協力しあっているおかげで奇跡的に足止めはできているが、力の差が激しいためこのままでは全滅だ。
魔族もそれを分かっているのか本気で戦おうとせず騎士達と冒険者達をいたぶるようにわざと手を抜いて攻撃をしていた。それでも手を抜いているとはいえ魔族の攻撃は強烈だ。騎士達と冒険者達の脳裏に敗北という言葉が浮かんだ時、事態はいきなり好転する。
冒険者達と騎士達を嘲笑っていた魔族の何人かが後ろからまとめて斬り伏せられる。魔族を斬り伏せた張本人は騎士達と冒険者達を守るように魔族達の前に立ち塞がる。
帝国から派遣されてやって来た騎士達はその姿を見て反射的に口に出す。
「団長!」
「すまない。遅れてしまった。」
魔族達を斬り伏せたのは全身鎧を身につけた帝国の騎士団団長。
魔族達は同胞が数人やられてしまった事で少々戸惑ったが、増援はたったの1人だと思ってしまったためすぐに先ほどと同じように勝気な態度に戻る。
しかし、増援は1人ではない。
「我々の新しい同盟相手の準備に手間取ってしまった。」
団長はそう言って視線を向けた先の方から大人数の足音と馬の蹄の音が聞こえてくる。しかも音はだんだんと近づいてくる。そのせいかこの場にいる者達が地面が揺れている感覚を感じていた。
音の原因である者達の姿はすぐに視認する事ができた。
デザインはかなり違うが団長と同じように全身に防具を身につけ顔が隠れてしまっている。人数は両手で数えるのには苦労するほどの数だ。全員が鎧を身につけ武器を手にしていた。
正体のわからない軍勢の出現に怯む魔族達の隙を見逃さなかった鎧を纏った集団は反撃をさせる暇もなく次々と魔族達を討ち取っていく。
「彼らは私達の心強い味方だ! 我々も負けずに戦うぞ!」
まだ動ける騎士達と冒険者達は団長の言葉に鼓舞され魔族達と戦う。
鎧の集団について色々と聞きたい事はあったが、鎧を着た者達は全員自分達に攻撃してくるそぶりすら見せてこないため団長の言う通り新たな援軍なのだろうとひとまずこの場はそれで納得する事にした。
詳しい事情はこの戦いが終わった後に聞く事にしようと決めた冒険者達と騎士達は自分達に襲いかかってくる魔族達の討伐に集中した。
◆◇◆◇◆
「はぁ、はぁ、はぁ。」
激しい戦いの末、ラックの体力が大幅に減り息切れで肺から苦痛を感じる。体のあちこちには大小問わず傷ができている。それでもラックは剣を手放さず、ラデスから目を離さない。
ラデスの方もラックの手によって負傷はしているが目に宿る憎悪と闘志が消えていない。
「殺す。殺してやる! 貴様を殺してやる!」
ラデスの両手に黒い光が灯る。
それを見たラックはそれが呪術による光だと即座に気がつき発動を阻止しようとラデスとの距離を詰める。
迫り来るラックに気がついているが呪術の発動に専念しているラデスは避ける素振りすら見せない。
ラックはこれを好機と見なし剣を振りかぶりラデスを縦線に深々と切り裂いた。
傷口から血など生きていく上で大切な物がどばどばと流れ出てくる。体が頑丈に出来ている魔族でもこの傷の深さでは助かりはしない。
「殺、す!殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる!!」
それでもラデスはすぐ目の前にいるラックを殺す事しか頭になかった。むしろラデスは自分を囮にしてラックを呪術が届く範囲まで誘き寄せたのだ。
ラデスはラックが次の動きをする前にラックの胸あたりに両手を押し付け、ラデスが使える中で1番強力な呪術をラックに向けて発動させた。