戦い。 前半
王国に侵攻をしようとする魔族を食い止めようと奮闘する騎士達と冒険者達。頑丈な肉体に鋭い五感に加えて厄介な呪術を使ってくる魔族達相手に何とか食い下がろうとするが、状況は劣勢だ。
このままでは王国が攻め落とされるのは時間の問題。そんな考えが多くの人達の頭の中でよぎった時、恐れていた事態が起きた。
「大変だ! 魔族の何人かが街に向かったぞ!」
とうとう街への侵入を許してしまった。このままでは街の人達が犠牲になってしまう。しかし、これ以上の魔族の侵入を防ぐのに必死な騎士達と冒険者達には街へと行く余力がない。目の前にいる魔族の相手と仲間の補佐で手一杯だ。
魔族が侵入してしまった事を知った冒険者の1人が街へと向かっていったが、それに気がつく余裕がある者はほとんどいなかった。
◆◇◆◇◆
侵攻してきた魔族達の中でも雰囲気が違う1人の魔族が部下を数名連れて街の中を闊歩する。街の住民は別の場所に避難を済ませているためここにはいない。
先頭を歩く魔族は真っ直ぐと王城へと向かう。その途中で街に残っていた騎士と冒険者達が魔族達の侵入を止めようと挑んだか、先頭にいる魔族によって軽々と返り討ちにされる。
魔族達は倒した相手を放置してそのまま何事もなかったように城へと向かおうとする。
「待て!」
しかし、後ろから誰かに呼び止められたため足を止めて鬱陶しそうに振り返る。
「これ以上先には行かせない。」
魔族に向けて剣を向けているのはラックだ。ラックはたった1人で強大な力を持つ魔族に立ち向かう。
「何だ。たったの1人か。」
「ラデス様。あのような小童我々だけで十分です。」
「あなたは早く城へと向かってください。」
先頭にいた魔族、ラデスの部下達はラデスの返事を聞く前にラックへと襲いかかる。
この状況、1人だけのラックでは圧倒的に不利な状況だ。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
しかしラックはそんな事をものともせずに襲いかかってくる魔族を撃退していく。剣で斬り殺し、魔法の炎で焼き殺し、剣と魔法の両方を使って殺した。わずかな時間でラックは1人でラデスの部下達を全員殺した。
魔族達を相手にした後でもラックに疲労の様子はない。剣の切っ先を再びラデスに向ける。
「さぁ、次はお前だ!」
部下が殺されたラデスは目を見開きじっとラックを見ていた。
「…おまえか。」
街についてからラックに会うまでラデスの表情に変化はなく、口からこぼれ出た言葉は聞き取れるがどうか不安になるほど小さなものだった。
「おまえかぁぁぁぁ!!」
だが、先ほどの淡々とした様子から打って変わり憎しみのこもった目でラックを見据え、声を張り上げながらラックに襲いかかる。
ラデスの様子にラックは一瞬戸惑いはしたが、すぐに気持ちを切り替えラデスを打ち倒そうと立ち向かった。