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かけがえのない仲間と居場所。

「王国のお姫様?!」

「うん。久しぶりに会ったけど元気そうだったよ。」


ラックはミリーと一緒に出かけていた時、王国にやって来た帝国の第2王女リリエラと出会った事をその日の夜、食事をしながらヴェインに話していた。


「えっ? 他国の王女様だよな? どうしてここに来ているんだ?」

「転移魔法で来たらしいよ。」

「転移魔法?! 確かあれって凄く珍しい魔法じゃなかったか? 誰が使えるんだそんな凄い魔法。」

「それは知らない。言う前に騎士達に口を塞がれて城に連れ戻されていったよ。」

「…もしかして、機密情報ってやつか?」

「たぶん。騎士の人達すごい慌ててたから。」

「んー。本当なのか、ミリー。」


ラックの話を半信半疑で聞いていたヴェインはその話が真実なのか確認を取るために、ラックに晩御飯を一緒に食べようと誘われ家にやって来たミリーに話を振る。


「あっはい。そうです。信じられない事かもしれませんが、全部本当の事です。」

「そうか。信じられないけど、本当の事なのか。…なぁラック。」

「ん?」

「何でお前お姫様と知り合いなんだ?」

「…えっ?」


ヴェインの質問にどう答えるべきなのか分からず、ラックは口籠ってしまった。


「あっ。確かにそうです。王女様とラックさん、顔見知りのようでした。」

「・・・・・。」


ミリーにもそう言われ、ラックは黙り込んでしまった。


「話したくないなら無理に言わなくていいぞ。」


それを見かねたヴェインはそう言うが、ラックは首を横に振る。


「いや、話すよ。2人になら、話してもいいと俺は思ってる。」


ラックは、ヴェインとミリーにかつて自分が帝国の騎士として働いていた事を話した。


「リリー、リリエラとは騎士の仕事関係で出会って仲良くなってたまに会って遊ぶようになったんだ。」


そしてリリエラとの関係性と理由がわからないまま解雇されてしまった事も話した。

話が終わった後、しばらくの間3人とも黙り込んでいた。沈黙が続く中、このままではいけないと思ったヴェインは話を切り出す。


「なぁ、ラック。今の生活は楽しいか?」

「えっ? …うん、楽しいよ。」


なぜ今そんな質問をするのかと疑問に思ったラックだが、素直に質問に答える。するとヴェインはまた新たな質問をする。


「騎士として働いていた時はどうだった?」

「…最初の頃は充実していたけど、いつまで経っても雑用だけしかさせてもらえなかったし、友達いなかったから、楽しくなかった。」


そう話しているうちにラックは騎士として働いていた時の事を思い出していく。


悪者を倒して平和を守るために騎士団に入団したにもかかわらず何年経っても大量の雑用ばかりを押し付けられていた。忙しくて他の騎士達と話をする暇すらなくずっと1人で仕事をしてきた。

休みの日に久しぶりに家族と会ってもどこか距離を感じて心は休まらなかった。

それでも頑張って働いてきたが、訳もわからないまま突然解雇されてしまった。


その事を思い出していくうちに、ラックの気分はどんどん沈んでいく。


暗い表情を見せるラックにヴェインはにっこりと笑う。


「じゃあ良かったんじゃないか?」


ヴェインの言葉にラックは目を瞬かせる。


「ようするに、お前の上司だったやつは目が節穴だったんだ。」

「…えっ?」

「剣の腕前は相当なもの。魔法の才能だってある。なのにやらせるのは雑用ばっかり。むしろそんな見る目のない上司がいるところ早々に辞められて良かったんだよ。」

「…そう、かな?」


ラックは今までリリエラ以外の誰かに実力を褒められた事はなかった。それゆえ、褒められ慣れていない。誰かの褒め言葉を受け取るのに戸惑っていた。


「お前がすごいやつだって事を俺とミリーが知っている。そうだろ、ミリー。」

「は、はい! そうですよ。ラックさんはとてもすごい人なんですから!」

「これから活躍していってお前の元上司を見返してやろう。俺達の力で。」

「私も、頑張ります!」

「ヴェイン。ミリー。」


ラックの過去を受け入れてくれた2人の言葉を聞いて嬉しく思ったラックは気がつけば涙が出てきていた。


「何だどうした? 嬉しすぎて泣いているのか?」

「ち、違うよ。目にゴミが入っただけ!」


ヴェインにからかわれ慌てて涙を拭うラック。視界がはっきりしたラックは顔を上げて2人の方を見る。


「ヴェイン。ミリー。ありがとう。俺、頑張るよ。頑張っていつかすごい冒険者になってみせる!」

「その意気だ。」

「ラックさんなら必ずなれますよ!」


つい先ほどまで漂っていた重苦しい空気とはうってかわって今の食卓は弾んだ声と笑い声で賑やかになっていた。



◆◇◆◇◆



次の日。

ラック、ヴェイン、ミリーの3人が張り切って仕事を受けようと冒険者ギルドに訪れた時、予想外の人物と再会する。


「ラック! 待っていたわ!」


王国の第2王女、リリエラがラックを見た途端満面の笑みを浮かべてラックに抱きつく。


「リリー! あれ? お城にいるんじゃなかったか?」

「ラックが冒険者になってるって聞いたからラックに会いたくて来たの。」

「ええっ!」

「お、おおおお王女様?!」

「ん? あんた誰よ?」

「あ、紹介するよリリー。この子はミリー。こっちはヴェイン。俺と一緒に仕事をしてくれる大切な仲間だ。」

「何ですって! ずるいわ! 私だってラックと一緒に冒険したいわ! 私も冒険者になる!」

「いやいや! 王女様じゃ冒険者にはなれないと思いますよ。」 

「なによ! これでも私すっごく強いんだから! あんた達よりも凄い冒険者になる事くらいできるんだから!」

「えっと、その。あのー。」


冒険者になると豪語するリリエラ。

それを嗜めようとするヴェイン。

この状況にうまくついていけずおろおろしているミリー。


賑やかを通り越して騒がしい中、ラックは嫌な気分にはならなかった。それどころかどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

今の自分には頼れる仲間がいる。かけがえのない居場所がある。それをあらためて実感できたラックは嬉しかった。ラックは大切な仲間や居場所を守るために頑張ろうと決心した。

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