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帝国での出来事。

なぜ、帝国の第2王女、リリエラが王国にほぼ単身でやって来たのか。話は数時間前に遡る。


帝国の最高権力者である帝王は執務室で1人、眉間のシワに指を当てて何やら悩んでいる様子だ。しばらくその状態でいたが執務室の扉の方からノック音が聞こえた時、帝王は姿勢を崩す。


「入れ。」


執務室前にやって来れる者はごく僅か。そしてノック音の回数で帝王はその者が部屋に入る前から誰なのかが分かっていた。


「失礼します。」


入って来たのは全身鎧を身につけた帝国騎士団団長だ。


「早かったな。息災か?」

「はい。こちらの方は?」

「魔族の出現が確認されているが、せいぜいはぐれ者の雑兵だ。今こちらにある戦力だけで撃退はできている。王国の方はどうだ?」

「王国では魔族の者達による偵察が確認されています。どうやらこちらの様子を伺っている様子です。」

「なるほど。情報操作はうまくいっているようだな。だが、向こうの戦力の方が上だ。帝国と王国の戦力を合わせても勝てるかどうか…」


帝王が言いかけた時、執務室の扉が乱暴に開かれる。


「それなら私にいい考えがあります!」


入って来たのは帝国の第2王女、リリエラだ。


「リリエラ、はしたないぞ。それに今は稽古をしている時間のはずだ。早く戻れ。」


団長はリリエラに退室を促すが、リリエラは無視して帝王に近づく。


「お父様! ラックに戻って来てもらいましょう!」

「…何?」

「お父様とお姉様がラックに謝ればきっと許して戻って来てくれます。そうすれば魔族なんてラックがやっつけてくれます!」

「謝る? なぜ私達が謝る必要がある?」

「なぜって、そんなのお父様とお姉さまがラックを不当に解雇したの、私知っているのですよ! ラックを探してすぐに謝りに行きましょう。」


少し興奮した様子で父に掛け合うリリエラに対し、娘に対して帝王は鋭い視線を向ける。


「そんな事をする必要はない。」

「っ! …なぜですか!」


帝王の視線を受け少し怯む様子を見せ思わず後退りしてしまったリリエラだが、それでもなお帝王に食い下がろうとする。だが、帝王とリリエラの間に団長が割り込んだ事でそれ以上近づく事ができなかった。


「話はここまでだ。陛下はお忙しい身。これ以上は業務に差し支えが出る。」

「どいてくださいお姉様!」

「お姉様と呼ぶなといつも言っているだろう。私はお前の姉になった覚えはない。」

「…何でそんなひどい事を言えるのですか。何でラックにそんなに意地悪なんですか!」

「出ていけ。」


団長はリリエラを無理矢理執務室から追い出そうとする。リリエラは抵抗したが、リリエラの細腕ではその抵抗は何の意味はなくリリエラはあっさりと執務室から締め出されてしまった。


「開けてください! お父様、お姉様!」


追い出された後もリリエラは大きな声を出しながら扉を乱暴に叩くが扉が開く気配はない。やがてリリエラは扉を叩くのをやめ、項垂れる。


「どうしてみんなラックをいじめるのですか。」


リリエラにとってラックは憧れの人だ。

騎士としてひたむきに努力するラックの姿を見てリリエラはラックの事を好ましく思った。言ってしまえば一目惚れである。それからたまに授業や稽古から抜け出しラックに会いに行きラックと一緒にいられる時間を楽しんでいた。

家族である帝王と団長とは違いラックはリリエラが突然やって来ても嫌がる素振りすら見せずリリエラと話をしたり盤上遊戯で一緒に遊んでくれる。それによってリリエラはますますラックの事が好きになっていった。


リリエラにとってラックは最高の騎士なのにラックの事が他の者達に評価されない事にリリエラは不満だった。

そしてある日突然ラックは解雇されてしまった上に王国に置き去りにされ帝国の地に足を踏み入れる事を禁じられてしまう。その事を知ったリリエラは数日ほど自室に篭り泣きじゃくっていた。

涙が枯れてしまいもう泣けなくなった時、リリエラは決心した。周りがラックの事を評価しないのならば自分がラックの事を評価すればいいと。


リリエラは行動力のある少女だ。思いついたら即座に行動する。そのためよく周囲の人達を困らせている。

だが、今回のはとびっきりのものだ。



◆◇◆◇◆



執務室から出て用事を済ませた団長は移動し2名の騎士が守っている扉の前にやって来た。


「王国に戻る。通せ。」

「わかりました。どうぞお通りください。」


騎士達に見送られながら扉の向こう側へと向かう。扉の先には薄暗い廊下が続いており団長は1人で1本道の廊下を歩いていく。そこまで長い距離ではないためすぐに目的地の前に着く。

目の前にはまた扉があり団長が開けると今度は広めの空間だ。床には紋様や文字らしきもので構成されている図が描かれている。

床に描かれている図は魔法陣と呼ばれるもので団長とってとても大切なものだ。


団長は騎士としての剣の腕前もかなりのものだが、魔法の才能も備わっていた。とりわけ凄いのは転移魔法。この魔法を使えばどれだけ遠い場所でも瞬間移動する事が可能だ。団長はそれを使って王国から帝国まで単身で短時間で行き来する事が出来ている。

しかし何の準備も無しにどこにでも行けるわけではない。

まず、転移魔法を使う時は目的地に目印として魔法陣を描く必要がある。加えて転移魔法を使う時は大量の魔力と集中力が必要だ。

そのためにまず騎士達を連れて数日かけて王国に行き、王の許可をもらって王国の城内の1部に魔法陣を描き帝国の行き来を可能にしている。

今日も転移魔法を使い単身で王国から帝国へと移動して来たのだ。


そして今、帝国から王国へと転移しようと転移魔法を使おうとしている。

見張りの騎士をつけている上に扉には帝国の王族でしか開かないよう魔法がかけられている。そのため帝国にいる時は誰にも邪魔をされる事がないため団長は安心して移動魔法を使う事ができる


はずだった。


「…?」


扉の向こうから足音のような音が団長の耳に入る。しかし、その人物に心当たりはない。

転移魔法を止めないまま扉の向こう側に意識を向けていると、扉が乱暴に開かれ足音の正体が飛び込んできた。


「なっ!? リリエラ!」


つい先ほど会ったリリエラが突然ここに入って来た事に驚いた団長。

リリエラは団長がそれ以上何かを言う前に団長に飛びつきがっしりと団長にしがみつく。


「や、やめろ! 離れろリリエラ危ない!」


団長はリリエラを引き離そうとしたが、それよりも早く転移魔法が発動してしまい団長はリリエラを連れて王国へと転移していった。



◆◇◆◇◆



リリエラも珍しい魔法をいくつか使える。そのうちの1つは相手を強制的に眠らせる事ができる。

リリエラはそれを使い扉の前にいた騎士達を眠らせて扉の向こうへと入り込み転移魔法を使って王国に戻ろうとする団長に飛びつき、リリエラの思惑通り短時間で王国へと着いた。


「ここが、王国?」

「そ、そうだ。とりあえず、人を呼んでくるからお前はここで大人しく、しろ! 待て! 勝手に出ていくなリリエラ!」


リリエラは後ろから聞こえてくる団長の怒声を無視してドレスを着ているにも関わらず颯爽と走っていく。無意識のうちに身体強化の魔法を使っているためだ。

途中で王国の使用人達から驚きの眼差しを向けられるがリリエラは気にせず城内を駆け回り、やがて外に飛び出し街へと向かう。


走って走って走って。

街中で息切れをしながらも。痛む足に耐えながらも。何度も王国の騎士達に捕まりそうになったけれど、リリエラは諦めず必死に探す。


走って走って走って。

ついに、リリエラは再会することができた。嬉しさのあまり、リリエラは走った勢いのまま彼に抱きつく。


「見つけた! 会いたかったよラック!」

「リリー!? どうしてここに?」


ずっとずっと会いたかったリリエラの愛おしい騎士、ラックにようやく会えたリリエラは頬を綻ばせた。



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