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仮面騎士 第13話。

ヴェインとしてミリーとチームを組んだ後、騎士団団長に戻った彼はミリーを囮にした冒険者達を特定し王国の騎士達にそれらしい理由をつけた上で報告して捕縛させた。どうやらミリーを囮にした冒険者達は他にも余罪があるらしく、しばらく外には出られないようだ。


ひとまずミリーが元冒険者達に危害が加えられる可能性はぐんっと下がったがそれだけではミリーがチームを脱退する理由にはならない。何せミリーがチームに入った理由はラックのそばにいたいからだ。そう簡単にやめるわけがない。


どうしたものかと思いながら彼は少し離れたところでミリーとラックを見ていた。

この日はお互いのできる事できない事を確認する事が目的の訓練をする事になり、これからミリーがどのような魔法を使えるか見るところだ。



ミリーは魔法を使う時に使用される専用の短い杖を取り出し、炎の魔法を真っ直ぐと岩に着弾させる。

よほど自信があったのか期待をもった目でラックを見るミリー。


「んー。ちょっと弱いかな。」

「えっ?」


しかし、ラックの言葉はミリーが予想していたものではない。褒められると思っていたミリーは面食らった顔を見せる。


口には出さないが彼もラックと同じ意見だ。

命中率は悪くなさそうだが、ミリーの魔法は威力は弱い。工夫をしなければこの先冒険者として生き残るのはかなり厳しいと彼は思った。


「次は俺のを見せるな。」


そう言って今度はラックが魔法を使う事になった。

ミリーが放ったものよりも数倍の大きさの火球が剣の先に集中し、勢いよく岩に向かっていき火球にぶつかった岩はあっさりと砕け散った。


「す、すごいです! さすがラックさん!」

「いやいや。これくらい普通だよ。練習すればミリーだってすぐに使えるようになるって。」

「本当、ですか?」


無理だ。彼はそう思った。


ラックがあんなに高威力の魔法が使えるのはラックの才能ゆえ。ラックと同じくらいの威力がある魔法が使えるのは彼が知る限り両手で数えられるほどしかいない。

残念ながらミリーがどんなに練習したところでラックと同じような威力の魔法が使える事はない。


しかしそれを知らないミリーはラックに教えられながら何回も火の魔法を練習していく。しかしミリーの魔法が上達する事はなかった。やってもやってもミリーの体力が消耗するだけ。

魔法を使うのに必要な魔力が体内から無くなれば身体に悪影響を及ぼす事を知っている彼は魔法の使いすぎで疲労している様子のミリーを見かねやや強引に休憩させる。


「…すみません。」

「大丈夫。練習すればいつかきっと上手くなるさ。」

「はい。ありがとうございます。」


ミリーを励ますラックを見て、彼はラックが本気でそう言っているのだと理解した。

ラックにとって強い魔法が使えるのは当たり前の事。できなくても練習すればいいと思っている。才能がある故に、ラックはできない人の気持ちがまるで分からない。それゆえにラックは善意で相手に無茶苦茶な練習をさせる。それによって相手が倒れてしまっても、自分が悪いとは微塵も思わない。それがラックだ。

人にものを教えるのに向かない人間なんだと彼はラックの評価を改めた。


魔法の使いすぎで顔色の悪いミリーの様子を見ていると、何かが壊れる音が聞こえた。

3人揃って音が鳴った方を見ると剣の刃の部分だけが地面に落ちていた。それを見た3人は今度はラックの手元を見るとラックが手にしているのは刃が折れた剣だった物が握られていた。先程の壊れた音はラックの剣が折れた音だったようだ。


予定を変更して訓練を中断し、昼食を食べた後ラックの新しい剣を買いに行く事になった。



◆◇◆◇◆



街の様子を見ながら歩き、何事もなく武器屋に着いた3人。

ラックが1人で武器屋に入った後、残った彼とミリーはしばらく何も話さないままラックを待った。


「・・・・。」

「・・・・。」


ラックがなかなか店から出てこないため2人とも沈黙したまま時間が過ぎていく。やがて、沈黙に耐えかねた彼はミリーに話しかける。


「なぁミリー。1つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「は、はい。なんでしょう?」


声をかけられ思わず身構えてしまうミリー。まだまだ信頼関係を築けていない事を感じつつも彼はこれを機に前々から気になっていた事をミリーから聞く事にした。


「ミリーはどうして冒険者になろうとしたんだ?」


気が弱く、それでいて人を疑う事をあまりしない。

それが彼が感じたミリーの人物像だ。そんな彼女がどうして冒険者になったのかヴェインは不思議に思っていた。


彼に問いかけられたミリーは口ごもりながらも冒険者になった理由を話してくれた。


「その。昔の父はすごい冒険者だったんです。今は引退しちゃってますけど。そんな父がかっこよくて。父は私が小さい頃からの憧れだったんです。」

「それで自分も冒険者になりたくなった。というわけか?」

「はい。まだまだ未熟者ですがいつか父のような立派な冒険者になってみせます。」

「そうか。応援しているぞ。」


まぁ、絶対に無理だろうな。彼はそう思った。


気が弱く、それでいて人を疑う事をあまりしない。そして夢見がちなところがあり、助けられたからといって人を簡単に信じてしまう。そして実力がない。

それが彼が感じたミリーの人物像だ。

ミリーは必ずどこかで躓く。そしてそのまま冒険者を引退するだろうと彼は考えていたし、その日はそう遠くないだろうと彼は予想していた。


その事を口には出さず彼はミリーと他愛のない話をしながらラックを待っていたが、いくら待ってもラックは出てこない。いくらなんでも時間がかかりすぎると思った2人は店内に入る。

剣の売り場の方を見ればラックはすぐに見つかった。ラックは上を見上げたままそこに立ち尽くしていた。何を見ているのだと思い2人も見上げるとラックの視線の先には壁にかけられている透明なケースに入った両刃の剣が飾られていた。

どうやらラックはあの剣が欲しいようだが、今のラックの稼ぎでは手が届かない値段だ。それでもその剣が欲しいラックが節約を宣言した時、彼はそれを利用する事にした。


「なぁラック。お前確か宿屋暮らしだったよな。」

「え、うん。そうだけど。」

「宿代が結構かさむだろ。」

「あっ確かに。どうしようかな。もっと安いところを探そうかな。」

「なら俺から1つ提案を出していいか?」

「提案?」

「俺とルームシェアしないか?」


彼の提案に突然ラックは戸惑ったが、最終的には彼の提案を受け入れた。


あと少しでラックを殺せる。


ラックの返答を聞いた時、彼は真っ先にそう思った。

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