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仮面騎士 第9話。

「君にあいつは殺せるのか?」


ラデスが率いる反逆者への今後の対策とラックの暗殺の計画を決めるために彼は数名の部下を連れて転移魔法で連邦へと赴きアルト達と会議をしている最中、アルトにそう言われた彼は表情を曇らせる。


「…そうだな。短いがラックの事を目にかけていた。情がないわけではない。」

「いや、それもそうだが私が言いたいのはそちらではない。言い方を変えよう。倒せるのか?」

「…あー。」


アルトの言いたいことがわかった彼は額に手を当てる。


ラックは強い。とにかく強い。

確かな実力と実績をもって騎士団団長になった彼を訓練とはいえラックは勝ちかけた。

以前彼が新人騎士達が訓練しているところを見かけた時、ラックが高度な魔法を使って魔法を当てるために頑丈に作られた訓練用の的を木っ端微塵にした。

情報が流れていなかったにも関わらず直感のみでラデスの妹を見つけ出して殺した。

強力な薬を使ったにも関わらずアルトを殺そうとして自力で起き上がった。

などなど。

そんな規格外の強さを持つラックをどうやって殺す。いや、そもそも殺せるのか?


「…どうすれば。」


ラックを殺すと決意したばかりだというのに早くも頓挫してしまった。

もし、彼がラックの暗殺をしくじってしまい反撃を喰らって死んでしまえばこの先の計画にとって大きな損失だ。しかし他の者にラックの暗殺を任せるわけにはいかない。彼ほどの実力がある者でなければラックの暗殺を成功させる確率が大幅に下がってしまう。

どうすればいいのかと彼が頭を悩ませているとアルトの部下の1人がある質問をしてきた。


「暗殺対象は持病をお持ちですか?」

「持病? …そんな話は聞いた事がないな。病の有無に何かあるのか?」

「…なるほど。」


部下の言わんとしている事に気がついたアルトは彼に説明するために話を引き継ぐ。


「ラデスの使う呪術を使えば少ない犠牲であいつを殺せるかもしれない。」

「何!? それは本当か?」

「あぁ。その呪術は対象の病魔を急速に増幅させるものだ。数日休めば治る病でもどんな医者でも匙を投げる難病にさせる事ができる。」

「そんな、恐ろしいものがあるのか。」


確かに、その呪術を利用すればラックを殺せるかもしれない。

他国と比べて医療技術が抜きん出ている帝国で生まれ育った彼は医学の知識を身につけている。それゆえ、病の恐ろしさも理解している。


「だけど健康な人なら何の効果もないものだから意外と使い所が難しいものだ。」


それでも、ラックを殺すためにはその呪術を利用しないわけにはいかない。


「…その呪術は内臓の症状にも効くのか?」

「内臓?」

「あぁ。例えば、そうだな。薬物や酒などによる中毒で内臓がやられた相手にもその呪術は有効か?」

「…そのような記録があるかどうかすぐに調べてくる。少し待っててくれ。」


そう言いながらアルトは立ち上がり足速で席を外した。

しばらくした後、アルトは資料らしきものを手にして戻ってきた。


「かなり前の戦いのものだから確かな確証はないが、酒に依存していた敵がラデスの呪術を喰らった途端倒れたと言う記録が残っていた。」


アルトから手渡された資料を見ると確かにそう書かれていた。詳しく調べたわけではないらしく相手の死因の詳細はわからないが、何かしらの中毒で内臓がやられてしまった場合でも病として扱われる可能性は大いにある。

ラデスの呪術にかけてみる価値はある。彼はそう考え、ある策をその場の皆に提示する。


「私がラックに呪術が効くよう調整する。その間、ラックとラデスをぶつける準備を進めてほしい。」

「調整って、何をする気だ。」

「…ある毒を使う。」


以前、彼は過去に発見された病を調べている時ある毒の存在を知った。その毒は多くの人達の人生を狂わせ、死に至らしめた。過去に繁栄していた国が滅んぶきっかけになるほどその毒は人々にとって強烈なものだ。


「何を使う気だ? ものによってはこちらの方で用意する事ができるが。」

「鉛だ。」



◆◇◆◇◆



ラックを殺す下準備としてまず彼が確認したのはラックの好き嫌いだ。どんなものが好物でどんなものが苦手なのか詳しく知るためにラックが謹慎部屋にいる間、さまざまな料理をラックに出して食べ終えた皿を見てラックの食の好みを探った。

数日ほど見た結果、ラックの食の好みが少し判明した。ラックは酸っぱい味付けが苦手なのかそのように味付けされた料理は食べ残しが多く、柑橘系の果物には手をつけていない。逆に甘い味付けが好みなのか綺麗に平らげている。ベリー系の果物が好きなのかそれを出すと必ずなくなる。


ラックの好みの果物を知った彼は次にラックの好きなベリーを使ったジャムを作るためにまず最初に道具と甘味料。そして新鮮な赤いベリーを用意した。

料理が得意な彼は赤いベリーと特別な甘味料を特別な鍋でことことと煮込んでジャムを作りそれを冷ました後、ほんのちょびっと舌に乗せてちゃんと甘く作れた事を確認した彼は飲み込まず吐き出して水で口の中をゆすいだ。


ジャムを入れ物に詰めると彼はそれとジャムによく合うパンを持ってラックのいる謹慎部屋へと向かった。

ラックに必ず食べてもらうため、ラックの嫌いな味付けが判明したその翌日に料理は酸味の強いものを多めに出させている。そのためここ最近ラックの食が細い。だからきっと差し入れの甘いジャムとパンを喜んで食べてくれるだろうと彼はふんでいた。

差し入れをする言い訳はどうしようかと歩きながら考えている時、ラックがいる謹慎部屋の前に誰かがいるのが見えた。格好は帝国の騎士が身につけているものだが、彼はその者に違和感を感じた。食事の時間はとうにすぎているため他の騎士がラックの謹慎部屋に訪れる理由がない。

不審に思った彼はその者に声をかけた。


「そこのお前。何をしている。」

「!」


その者は彼に声をかけられたためかひどく驚いていた。

それを見てますます不信感を抱いた彼は再び同じ質問をその者にする。


「聞こえなかったのか? ここで何をしている。」

「え、えっと。ここにいるラックが心配で。ラックとは友人なもので。いけない事とは分かってはいるんですが、つい。」

「…そうか。規律を破るのはいけないが、友を思うその気持ちはとても素晴らしいものだ。仕方がない。今回ばかりは見逃してやろう。」


彼がそう言うとその者は安心したような顔つきになった。


「なんて言うと思ったか。」


その直後、彼はその者の肩を掴んで壁に叩きつけ、さらに相手の両腕を強く握り逃げられないようにする。


「な、何をするのですか!? こんな横暴、許されると思っているのですか!」

「不法侵入しておいてその言い草はないだろ。」

「!」

「顔を見ればわかる。貴様は外から入り込んできた者だ。」

「な、何で。」

「私はな、帝国にいる騎士達全員の顔を覚えているんだ。お前のような侵入者などすぐに分かる。」


そう言って彼は素早く相手の首を絞めて気絶させるとすぐに不法侵入者を担いで魔法陣がある部屋へ行こうとして踏みとどまる。不法侵入者を取り押さえる時に落としてしまったパンとジャムを危うく忘れるところだったからだ。彼は舌打ちをした後不法侵入者をいったん床に下ろし、落ちているパンとジャムを回収する。


「…出直すしかないか。」


謹慎部屋には防音対策がされているためラックには先ほどの会話と彼の発言は聞かれていない。


不法侵入者を乱暴に担ぎ直した彼は苛立ちを隠しきれないままその場から立ち去った。

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