新しい仲間
「依頼達成ですね。こちら報酬ですので確認をお願いします。」
「ありがとうございます。」
「やったなラック!」
「あぁ!」
ラックは自分の仲間である彼とハイタッチする。
彼の名前はヴェイン。ラックと同じ冒険者でありラックの新しい仲間だ。童顔で幼く見えるが冒険者としての経験や腕前は確かなものだ。
共に仕事をする仲になったきっかけはヴェインの方からラックに依頼料を多く分ける事を条件に仕事の協力を持ちかけ、ラックはこれに了承し、二人で見事依頼を果たした。
その仕事がきっかけで意気投合した二人はそれ以降も何度か一緒に仕事をしている。二人が組んでからお互いの戦績はぐんぐんと登っていきギルド内でちょっとした話題になっている。
「やっぱりお前はすごいよラック。入ったばっかりなのに俺よりも上の等級になりそうだ。」
「いや、まだまだ。もっと上の等級に早くなりたいんだ。」
「へー。それは何でだ?」
「魔族を倒したいんだ。上の等級になれば魔族を倒す機会が増えるからな。」
高い等級の冒険者となれば依頼を果たすために一般人は立ち入り禁止の危険な場所に行く許可がもらえる。そのような場所には魔族の目撃情報が多数寄せられている。魔族と遭遇し戦った冒険者の数は少なくない。
だからラックは1つでも多くの依頼をこなし一刻も早く上の等級になろうと目指している。
「魔族をなぁ。まるで騎士みたいな目標を持っているんだな。」
「…まぁね。」
少し前までは騎士だったラックはヴェインの言葉に一瞬言葉を詰まらせる。ラックは自分が騎士であった事をヴェインに話していない。理由がわからないまま突然クビにされた、など言いづらいからだ。
「どうしたんだ? ぼーっとして。」
「ううん。なんでもない。」
しかし今の自分は冒険者ではないか、とラックは気持ちをすぐに切り替える。
冒険者となったラックは毎日充実とした生活を送っている。騎士だった時には得られなかった信頼できる仲間と共にやりがいのある仕事ができる今この瞬間を大事にしようとラックは決意を固める。
「何だ疲れてるのか? よし。それならいつもの店で飯でも食おうぜ。美味い酒と飯を食えば元気になるぞ。」
「いいね。行く行く!」
声を弾ませ足取り軽やかに2人は進む。
◆◇◆◇◆
ある日、ラックとヴェインが討伐の仕事で王国の近くにある森に訪れた。
指定された獣を指定された数まで討伐しその証拠として獣の体の一部を持ち、さぁ帰ろうかと2人で話していた時
「きゃあああぁぁっ!!」
悲鳴が聞こえた。
ラックは悲鳴が聞こえた方へとすぐさま走り出す。
「ラック! 1人で先走るな!」
走り出したラックを1人にしないようラックを追いかけるためにヴェインも遅れて悲鳴の発生源へと向かう。
1人先行したラックはすぐに悲鳴を出した人物を発見する。
木を背につけ地面に座り込んでいる少女が恐怖の表情を浮かべている。怪我をしているのか、それとも返り血なのか。装備のあちこちに血がついている。
その少女を取り囲む数匹の獣が飢えた目で少女を睨んでいた。
ラックは少女を救うために剣を抜き勢いをつけたまま獣のうちの1匹に切りかかる。胴体に大きな傷をつけられた獣は倒れる。まだ生きているのかもがいている様子だが傷が深いのか立ち上がる様子はない。
ラックは少女を守るため少女に背を向ける形で獣と相対する。仲間がやられた事で獣達は牙を剥き唸り声をあげて怒りを表している。
1対多数のこの状況にラックは怯まない。
なぜなら。
「ラック! お前は前の敵を! 俺はその後ろをやる!」
ヴェインがいるからだ。
ラックとヴェインは獣相手に怖気つく事なく剣を手にし次々と切り倒していく。
ラックが最後の一匹を倒したのを確認したヴェインは他に獣がいない事を確認すると剣についた血を振り払い鞘に収める。
「まったく。間に合ったからよかったけど、次からは何かしら言ってくれ。」
「ごめん、ヴェイン。」
「頼むぞ。あ、あんた。大丈夫か?」
ヴェインは座り込んだままの少女と目線を合わせるためにかがみ少女から話を聞き出そうとなるべく声音を優しくして話しかける。
「だい、じょうぶです。」
「俺はヴェイン。こっちはラック。あんた、名前はなんていうんだ?」
「…ミリーです。」
「ミリーはどうしてこんな場所に1人でいたんだ? ゆっくりでいいから話してくれないか。」
ヴェインに話しかけられた少女、ミリーは涙ぐみながらも少しずつ2人に事の顛末を話した。
ミリーも冒険者であり、森にやってきたのはラックとヴェインと同じような仕事をするため。最初から1人で来たわけではなく他の冒険者と一緒だった。
ミリー達の仕事はラックとヴェインが倒した獣の討伐だ。見つける事は出来たが、すべて倒す事はできなかった。自分たちの実力では倒せないと悟り全員逃げようとしたが、獣達の足の速さは凄まじくなかなか逃げ切れずにいた。
そんな時、ミリーは一緒に行動をしていた冒険者の誰かに強く押されてしまい倒れてしまった。冒険者達はミリーを見捨てそのまま逃げ去っていった。
ミリーは自分が囮に使われたのだとすぐに気が付いた。
話を聞き終え、真っ先に反応したのはラックだ。
「なんてひどい!」
怒りに震え、拳を握りしめているラック。その後ろでヴェインは眉間に皺を寄せている。
「その話が本当ならこれは大きな問題だな。ギルドに報告しないと。ミリー。そいつらの特徴をできる限り教えてくれないか?」
「は、はい。」
「応急手当てをするからそのまま話をしてくれ。」
「わかりました。」
先ほどの獣達によってかミリーの体のあちこちに負傷が見受けられていた。傷は深くないがそれでも放置するわけにはいかない。ヴェインは応急処置を施しながらミリーの話す冒険者達の特徴をしっかりと記憶していく。
ミリーの話と手当てを終えたのを黙って見届けていたラックは名案を思いついたとばかりに明るい声でミリーに提案を出す。
「そうだミリー。俺達のチームに入らないか?」
「えっ?」
「…えっ?」
ラックの突発な言葉にいち早く反応するミリー。それに遅れて反応をしたヴェインは少し慌てた様子でラックに問いただす。
「な、何を言っているんだラック。突然そんな事を言い出すなんて。」
「だってミリーを置き去りにした奴らがミリーに危害を加えるかもしれないだろ。それなら俺達と一緒に行動したら安全だろ。」
「それはそうだけど、解決策は俺達のチームに入ることだけじゃない。それにミリーに迷惑」
「…私は。私はお2人のチームに入りたいです!」
ヴェインの言葉を遮り、いつの間にか立ち上がっていたミリーははっきりとした声でそう告げる。それに少々面を食らった様子のヴェインは思わず黙ってしまう。誰にも口を挟まれないミリーは自分の思いを口に出す。
「私、まだまだ弱いですけど、必ず強くなってお2人の力になります! お願いします! 私をチームに入れてください。」
「もちろん! ヴェインもいいよな。」
「…分かった。これからよろしくな、ミリー。」
「あ、ありがとうございます!」
受け入れられたミリーは頬を赤く染め2人に頭を下げる。
「よし。それなら早くギルドに戻ろう。依頼とミリーの事を話さないといけないからな。それが終わったら詳しい事を3人で話し合おう。」
「おう!」
「はい。」
ヴェインの提案を聞き入れたラックとヴェイン。
3人が帰路につく中、ミリーはラックの背に向けて熱の帯びた視線を向けている。ラックが気付く様子はない。