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険悪な雰囲気。

聖女という称号は公国で治癒の魔法や呪いをとく魔法を使える女性におくられるものだ。公国では魔法ではなく奇跡と呼ばれているが、違うのは呼び方だけで他国の者でも治療の魔法や呪いをとく魔法を使える者はいる。しかし聖女の称号をおくられた彼女達の奇跡もとい魔法の効力は目覚ましいものだ。現在最年長の聖女の力であれば不幸な事故で切断されてしまった患者の手を元通り生やして完治させる事も不治の病と申告された患者の病魔を取り除く事だって可能だ。そのため聖女達の奇跡に頼る者達は数多くいる。


現在、団長達の前に突如現れた年若い聖女も公国に所属する聖女の1人だ。

なぜ聖女がここにいるのかまるで分からない団長はアルトを守るように、聖女の方からアルトが見えないように立ち位置を変える。


「まさか聖女様がいらっしゃるとは思っていませんでした。何用でこちらに?」

「貴方に話すほどの事ではありません。用が済んだら早々に帰るつもりでしたが、それを見たからにはこのまま帰るわけにはいきません。」


それ、と言って聖女は団長の背後にいるアルトに視線を向ける。聖女の目から侮蔑の色がはっきりと見える事に団長は気がついていた。


公国の多くの者達は魔族を邪悪な存在として認知し忌み嫌っている。魔族を見つけ次第殺せという法律ができるくらいにだ。今この場に魔族達がいる事に聖女は嫌悪感を感じ、それを隠す気はない様子だ。


「団長様。ついさきほど貴方様は魔族と協力するとおっしゃっておりましたが、もちろんそれは私の聞き間違いですよね?」

「聞き間違いではありませんよ。帝国と王国は正式な形で連邦との同盟を結ぶ事になりました。」


団長は聖女達に臆する事なくはっきりと言う。その発言か、あるいは団長の態度が気に食わなかったのか聖女は一瞬顔をゆがめるが、すぐに表情を取り繕う。


「…あぁ。なんという事でしょう。帝国の騎士団団長がそんな恐ろしい事を言うなんて。邪悪な魔族の隷属を自ら望むなんて。」


聖女はわざとらしく大袈裟なまでに悲しそうな表情をつくり団長の言葉を過大解釈する。


「まさか、貴方様ほどのお方が魔族に洗脳されてしまうなんて。」

「変な言いがかりはやめていただきたい。私は自分の意思で今回の同盟に賛同している。」

「いいえ。いいえ! そんな事ありえません。邪悪な魔族と手を取り合うなどありえません! そいつらは私達を餌としか思い込んでいない野蛮な存在。そんな輩は即刻殲滅させるのが正しいのです。」


聖女の背後に控えている側近達は武器を構えている。聖女側はいつでも戦いを始めても構わない様子だ。

アルトやアルトに付き従っている他の魔族達も武器を構えようとしたが、団長は手で制する。冒険者達と騎士達が見ている前でアルト達と聖女達が戦えば魔族と協力するのはやはり無理だと皆に思われてしまう。そうならないよう団長はアルト達と聖女達を戦わせるわけにはいかなかった。


「武器をおろしてください。彼らは私達に協力してくれる同志であり、未来の友だ。」

「友!? 今、魔族の事を友と言いましたか!? あぁ、なんで恐ろしい。邪悪な魔族め! 団長様を洗脳して何を企んでいる!」


団長は何とか話し合いだけでこの場を収めたかったが、聖女達はこちらの話を過大解釈するばかりで話を聞く様子が一切無い。このままでは新たな争いに発展してしまう。そんな事はさせまいと団長は話を無理やり別方向へ持っていこうとする。


「彼らの事よりも聖女様にお願いしたい事があります。」

「お願い、ですか?」

「どうかあなたの奇跡で皆の傷を治していただきたい。」 


団長が視線を向けた先には今回の戦いで負傷している者達がこちらの話を聞きながら戦いが終わってすぐに駆けつけて来てくれた医者や街に住む者達の手当を受けている。


「もちろんそれ相応の礼をご用意いたします。ですからどうか皆の傷を癒やしていただきたい。」

「…えっ?」


話を聞いていた冒険者達と騎士達は聖女から癒しの魔法を使えるのだと思い、皆も聖女に奇跡を乞う。


「お願いします聖女様。」

「痛い、早く治してください聖女様。」

「助けて、聖女様。」

「聖女様。」

「聖女様。」

「聖女様。」


次々と聖女に助けを求める人の声が上がってくる。


「どうか皆に聖女様の奇跡を。」

「・・・・・。」


団長も頭を下げ聖女に頼み込む。しかし、聖女の反応は芳しくない。


「いかがなさいましたか聖女様。」


返事すら返さない聖女を見て様子が変だと思い団長は聖女の様子を伺う。


「…えません。」


ようやく聖女は反応を返してくれたが、先程の饒舌とは打って変わって小声でよく聞き取れない。


「…? すみません。よく聞き取れませんでした。もう1度言ってくれませんか?」


団長が聞き返すと聖女は覚悟を決めたように今度ははっきりと大きな声で告げる。


「私は癒しの奇跡は使えません。」


聖女の発言を聞いて助けを求めていた者達は分かりやすく落胆し、動揺している。


「えっ? あの、聖女は皆癒しのまほ、奇跡を使えると聞いたのですが。」


団長もそれを聞いて動揺してしまい聖女の力を魔法と言いかけてしまう。


「…私が使えるのは解呪の奇跡のみです。」


聖女は気まずそうに視線を地面に向けて自分が使える魔法を告げる。従者達も気まずそうな雰囲気を出している。


「…そう、ですか。大変失礼致しました。」


団長は知らず知らずのうちに聖女をこんな形で恥をかかせてしまった事に申し訳なさそうに謝罪する。


「し、しかし! 解呪の奇跡は他の聖女達に負けないくらい凄いですからね! 本当ですよ。」


いたたまれないのか聖女がそう言った直後の事。


「だったらラックさんにかけられた呪いを解いてください!」


誰かが大きな声で発したその言葉に反応した聖女が、団長が、アルトが、皆が声がした方に目線を向ける。


そこにいたのは目に涙を浮かべているミリーが1人でたっていた。

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