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予期せぬ第3者。

魔族の襲来で王国は危機に瀕したが団長が連れてきた新たな援軍のおかげで王国に侵攻しようとしてきた魔族は全員倒す事ができ窮地は脱した。

戦いが終わった事に皆が歓声をあげている中、騎士の1人が団長に近づき1つの質問を投げかけた。


「団長。彼らは一体何者なんですか?」


彼らとはもちろん団長と一緒にやってきた援軍の者達の事だ。

1人1人の練度は高く力強い技や魔法の数々を戦いの中で目の当たりにしていたため騎士達だけでなく冒険者達も援軍の者達の正体を知りたがっていた。


質問を投げかけられた団長が口頭で答える前に援軍の大将らしき人物が馬から降り団長の隣に並び立ちゆっくりと兜を外す。

兜の下の顔を見た騎士は驚愕で体を強張らせる。


「ま、魔族!」


大将の頭には魔族の身体的特徴である2本の角が生えていた。


騎士の言葉にそれまで歓声をあげていた者達が一斉に援軍の大将の方へと視線を向け、そして大将の正体を確認する事ができた。自分達を助けてくれた援軍の大将が魔族であった事に騎士達と冒険者達は動揺を隠せなかった。敵意を隠そうとはしなかった。


「動揺する気持ちはわかる! だが動く前に! 口を開く前に! まずは彼の話を聞いてくれ!」


誰かが剣を大将達に向けようとした時、団長は言葉だけで皆の動きを止める。皆が口をつぐんだ事を確認すると団長は大将に向けて頷く。


「私の名前はアルト。連邦の最高主導者である。魔王といえば君達には分かりやすいかな。」


魔王。それはアルトも言っていた通り魔族達を導く王の称号だ。

周りにいた者達は魔王が目の前にいる事に動揺を隠せずざわめきが強くなるがアルトは皆に聞こえるようはっきりと大きな声で話を続ける。その振る舞いはまさに王としてのもの。


「私達は帝国と王国との同盟関係を築くために今日、ここにやってきた。」


長年争ってきた者達同士が同盟を結ぶ。それも圧倒的な力を持つ魔族達の王であるアルトの方から同盟という言葉を聞いてさらにざわめきの声が大きくなる。


「だ、団長。魔王が話しているのは本当の事なんですか!?」

「事実だ。」


帝国の騎士は団長に確認を取ると団長は迷いなく肯定する。そもそも、アルト達をここに連れてきたのは団長だ。同盟の話を知らないわけがない。


王国と帝国と魔族達の国である連邦の3カ国が同盟を結ぶというとんでもない事実をいきなり聞かされた騎士達と冒険者達は戸惑う事しかできなかった。つい先ほどまで魔族を討伐していたのに今度は協力し合おうと提案されてしまえば戸惑わない方が不自然だ。


その不自然さに我慢できなかった1人の冒険者が叫ぶ。


「…なんで。なんで魔族討伐に協力してくれたんだよ! こいつら、あんた達の仲間じゃないのか?!」


今、皆が立っている地には討伐した魔族達の亡骸が横たわっていて戦いで流れた血が地面に染み込んでいる。この状況を作ったのが同じ魔族である事に多くの者達が疑問に思っていた事だ。

1人の冒険者が知らず知らずのうちに代表する形で吐き出されたその疑問をアルトは真っ向から受け止めて皆の疑問に応える。


「確かに彼らも私と同じ魔族であり元は連邦に属する民であり兵士でもあった。しかし、今は違う。」


アルトは断言した。今目の前に横たわっている魔族達が自分が守るべき民ではないと。


「私達は他の種族の者達と協力し合う事を目的としている。しかし彼らは昔と変わらず他の種族の国から略奪すればいいと考えている。私と先代の魔王は最後まで妥協案を出したり話し合いなどをして落とし所を模索していたが、残念ながら彼らとは決裂してしまった。今の彼らは私達の敵。いわば反逆者だ。」


アルトは断言した。今目の前に横たわっている魔族達が自分達にとって敵である事を。


「彼らと戦う事になったのは心苦しい。それでも私は帝国と王国との同盟関係を築く事を後悔してはいない。平和な未来を作るためならば私達はどんな犠牲だって払う覚悟だ。」


アルトは断言した。たとえかつての守るべき存在に刃を向ける事になっても平和への地盤を作るためならば自分はどんな努力も惜しまない。どんなに傷ついても構わない。自分の身を投げ出す覚悟だってある。


言葉だけでなくアルトの決意に満ちた目を見た冒険者達と騎士達はそのまま黙り込んでしまった。アルトが嘘偽りのない本心を口にしていると気がついたからもう何も言えなくなってしまったからだ。


ひとまず話し終えたアルトは話の主導権を団長に明け渡す。


「皆が聞いていた通り、連邦と王国と帝国は同盟を結ぶ事になった。後日詳細な情報が流される事だろう。だが、今すぐ受け入れろとは言わない。」


今回の話をいきなり聞かされた冒険者と騎士達は正直困っていた。つい昨日まで争いの相手だったアルト達の事を受け入れろと言われてもなかなかそううまくはいかない。しかし、自分達よりも立場の高い団長から協力し合えと言われてしまえば大半の者達は表面上だけでも取り繕うと思っていた。


しかし団長はそんな事しなくてもいいと先手を打ってくれた。団長の言葉に皆の心がほんの少し軽くなった。

 

「私達は長年魔族の者達と争ってきた。わだかまりがそう簡単にとけるとは思っていないし遺恨がいつまでも残る事も承知の上だ。ほんの少しの先の未来ではこの同盟が決裂しているかもしれない。」


団長自らが皆が抱えている不安を口に出していく。この同盟が必ずしもいいことばかりではない事も総合理解を阻む壁が分厚く高いため乗り越える事が容易ではない事を団長も分かっている。


「しかし今は無理でもこの同盟をきっかけに10年後には。100年後には。1000年後には。種族の壁を超えて皆が笑い合う未来が来ると私は信じている。」


それでも団長は平和へと続く道づくりを諦めない。たとえその先が断崖絶壁であったりイバラだらけであったとしても、道ができる時間がかかっても、自分を含めてたくさんの犠牲が出る事になっても団長は諦めようとはしない。

平和を望むのは団長も同じだから。


「だからどうか、私達の今後を知っていってほしい。私達の同盟が平和につながる事を言葉だけでなく、行動で皆に示していくつもりだ。」

「それは素晴らしいお考えですね。」

「!」


突然、聞き覚えのない少女の声が話に割って入る。団長は即座に声が聞こえてきた方に視線を向けると数人の従者らしき者達を連れている肌の露出がほとんどない白い服を着ている見目麗しい少女が立っていた。

いつの間にかいた第3者に再び困惑のざわめきを出す冒険者達と騎士達。

団長は冷静に彼女が何者であるか考え、ある名前に思い当たる。


「…もしや、公国に所属する聖女か?」

「はい。その通りです。帝国の騎士団団長である貴方様に知っていただき光栄です。」


自身を聖女である事を認めた少女は団長に向けて優雅な礼をする。


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