追放通知
「ラック。お前はクビだ。」
「…えっ?」
クビ。
自分の上司である騎士団団長にそう宣告された青年、ラックは突然な事にあいた口が塞がらない。
全身鎧を身につけ顔が見えない団長はラックを見据え男にしては少々高い声ではっきりと自分の部下であった青年に向けて解雇を宣告し、それによって呆然とするラックを気にかける事なく話を続ける。
「お前を本日をもって騎士団および本国から追放する。」
そう言いながらラックに見せた1枚の紙。そこには団長が言っていた事がさらに事細かく書かれており、その上帝王の持つ印章が押されている。書類も判子も本物だ。ラックは書類越しで帝王からもクビを宣告されてしまった。
「そんな、どうして!? 俺は今まで帝国のために、みんなのために騎士として頑張って働いてきたんですよ!」
ラックは団長にそう言うが、団長はラックの言葉に応える事はなく、話を続ける。
「退職金は渡そう。それから今後の生活に必要そうな物も少しだか渡そう。しかし鎧と武器は駄目だ。あれは国からの支給品だから返してもらう。」
団長はラックに退職金と服や携帯食が入った鞄を無理やりラックに手渡す。
「えっ。ちょっ、ちょっと待ってください!」
「この国の王には陛下がすでに話をつけてくださった。寛大な王と陛下に感謝し、この国で暮らせ。」
ラックと会話する事なく団長は少しずつ、少しずつラックを外へと追い出していく。
「さらばだラック。」
ラックは最後まで話を聞かれる事なく、城から締め出された。
ラックは騎士団から、母国から追放されてしまった。
◆◇◆◇◆
「はあぁぁぁぁぁ。」
ラックは大きなため息をつき、どうしてこうなってしまったのか思い返す。
ラックは帝国の生まれであり、幼い頃からの夢である騎士となり国のために、平和のために働いてきた。
しかし騎士となってから数年経ってもラックは騎士団の中では1番下の階級。雑用しかさせてもらえなかった。
しかしある日転機が訪れる。
ラックの母国である帝国と友好国である王国で魔族という名の種族による被害が増加しているため帝国は王国に戦力として団長を筆頭に騎士達を増援させた。
ラックもその騎士の1人として選ばれた。それを知ったラックはやっと騎士として皆のために戦えると大喜びした。王国の民達に歓迎されながら城に着いた時は嬉しすぎて心臓がどくどくと高鳴っていた。
指示があるまで待機する事になり、武器を置き鎧を脱ぎ大浴場で汚れを落とした後、急に騎士団長に呼び出されたラックは急いで服を着て団長の元に向かった。
そして冒頭の解雇宣告を受け、今に至る。
思い返してみて、ラックはさらに落ち込む。
ラックには幼い頃からの夢がある。
それは魔族の脅威から人々を守る存在になる事だ。そのために鍛錬を積み、帝国の騎士団に入団した。たとえ出世できなくても魔族を倒して人々を守る事ができればそれでよかった。
自分なりに頑張って働いてきたのに、突然の解雇宣告。
考えても考えても解雇された理由がラックには分からない。
「これからどうしよう。」
退職金はかなりあるのでしばらく生活には困りはしないが、いずれは尽きてしまう。どうやって金を稼ごうかと顔を上げると前を横切る集団に目がつく。全員騎士団と比べて身軽そうな装備を身につけており、楽しそうに話をしている。
「今日はいい戦果だったな。」
「今日は奮発しようぜ。」
「いいねぇ。」
「この調子で次の階級を目指そうぜ!」
格好と聞こえてくる会話を聞いてラックは彼らの職業は冒険者なのかな? と考えたところで、目を見開く。
「そうだよ。その手があったか!」
勢いよく立ち上がるラック。その勢いのまま、ラックは走り出し、街の人達にその場所への道筋を聞きながらとある場所へと向かう。
そしてそこにたどり着いたラックは躊躇なくそこへと入り、周りに少し注目される事を気にする事なく受付の方へと歩いていく。今の時間帯だと並んでいる人数は少なく、すぐにラックの順番がやってきた。
「こんにちは。要件は何ですか?」
「俺、冒険者になりたいんです! どうすればなれますか?」
ラックはやってきた場所、冒険者ギルドで大きな声で言う。その目は新たな希望に満ちて光り輝いている。
ラックは冒険者への道に進む事を決めた。冒険者となり、上の階級へと上り詰めれば魔族と戦う機会が訪れると考えたからだ。
その考えは見事当たる事になる。
冒険者となったラックはこれから先、騎士団では発揮しきれなかった己の実力を存分に使い、やがてラックは人々から英雄と謳われ事になる。
だけどそれはそう遠くないが未来の話。まだまだ先の話だ。