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1 死んだ私が目覚めた先は

逆行令嬢ものです、ふんわり読んでいただけたら嬉しいです。

 リゴーン、リゴーン


 結婚を祝う鐘の音が町中に響き渡る。

 町全体が見下ろせる高い崖からは白亜の教会も小さく見えた。

 今頃あそこでは、白い服に身を包んだ(わたくし)の元婚約者と子爵家のご令嬢が幸せいっぱいに笑いあっていることだろう。

 同じ白い服を着た私とは大違い。

 切り立った崖の上に一人立って下を覗きこめば、下から吹き上げてくる風に結わずに流したままになっていた銀髪が舞いあげられて乱れた。

 崖下に広がる森の木々は小さく、ここがどれほど高いかが伺い知れた。

 ここなら万に一つも助かることはないだろう。

 怖い。

 怖気づきそうな気持ちを奮い立たせて姿勢を正すと、淑女らしく凛とした一歩を踏み出した。

 私の右足は地面を踏むことなく、体ごと崖下へと吸い込まれていく。


 せめてキスくらいしたかったな。

 ジル様……貴方と結ばれることができないのなら、私は――――。


 そうして、私アリーシャ・メイベルの生涯は幕を閉じた。



 ***



 はずだった。

 落下する重力を全身に感じて、あまりの恐怖から地面に激突する前に意識を手放した私は、なぜだか見慣れない部屋のベッドの上で目覚めた。


「ここ、どこ?」


 発した声は自分のものとは思えないほど低い。まるで男の人の声のよう。

 思わず喉に手を当てると、あり得ないでっぱりに触れる。


「!?」


 驚いて体を起こすと、いつもより体が軽い気がした。

 不思議に思いながら体を見下ろして、言葉を失った。

 豊満とまではいかないまでも、あったはずのほどよい胸のふくらみがなくなっていたのだ。

 よく見れば、着ているのはいつものネグリジェではなく、上品な肌触りの男性用の寝衣だった。

 恐る恐る真っ平らな胸に手を当ててみる。見た目通りの絶壁で柔らかみのない固い胸板。

 一体何が起こっているの!? とベッドから抜け出して全身が見える鏡の前に立とうとした時、急に口が勝手に開いた。


「これは僕の体です! 返してください!」

「え!?」


 ドクンと心臓が跳ねる。

 聞き覚えるのある声に振り返るものの、誰もいない。

 でも、この声は。


「ジル様?」


 聞き間違えるはずのない声の主を探してきょろきょろした私は、鏡に映る金髪碧眼の整った顔立ちの青年――ジル様の姿を見つけた。

 けれど、おかしい。

 なぜ私の姿は鏡に映っていないの?

 そもそも、きょろきょろしていたのは私だったはずだ。

 これは僕の体だと、ジル様はそう言わなかったかしら。

 私は佇まいを正して鏡の前に立ってみた。

 鏡に向かって正面に立ったその姿は、私の元婚約者である伯爵家の嫡男ジルベルト・バートルだった。

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