表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

目覚め

 私、岸辺沙知は悩んでいた。

「んー、特にいないけど。」

 そう目の前にいる親友―笹城若葉に言うと、彼女はつまんないの、と唇を突き出した。そんなこと言われても、と沙知は苦笑することしかできない。

「あ、」

 と若葉は顔を輝かせた。一体何を言い出すのだろう。

「好きな人はいなくても、気になる人とかならいるでしょ。」

 どうだ!とドヤ顔で言われる。

「…さぁ、特に思いつかない。」

「えぇー、いないの。」

 口に手を当てて驚く彼女に、感情豊かだな、と場違いな感想を抱く。というか、皆好きな人とかいるのか。まだ中学2年なのに。内心驚きながらも若葉に聞く。

「逆に聞くけど、若葉はいるの。」

「もちろん!」

 腰に手を当てて言う親友に驚きを通り越して呆れてしまう。何故、好きな人がいるというだけで偉そうにされなければいけないのだ。…まぁ、そういう自分にも気になる人ならいるけれど。

「あ、でも」

 若葉が何かを言おうとしたとき、誰かが若葉にぶつかった。

「うわっ、ごめん笹城。」

「あ、ううん。こっちこそ。」

 と若葉は、ぶつかってきた葦田樹季に言った。そして、思いついたように、若葉が葦田に聞いた。

「葦田って好きな人いるの。」

 葦田は少し驚いてから、躊躇うように頷いた。それを見て驚いてしまった。それは若葉も同じようだったみたいで、

「えぇー、意外。女子に興味ないと思ってた。」

と少し、いやかなり失礼なことを言った。さすがにむっとしたのか、葦田は若葉に言った。

「なんだよそれ。」

「んで、誰。」

 若葉が葦田の抗議をスル―して聞く。途端に葦田は顔を赤らめて言った。

「お前に言える訳がないだろ。」

 え、なんでさ、という親友に私は心の中で呟く。若葉だよ、葦田が好きなの。本気で分からない鈍感な彼女はこっちを向いて、答えを求めたけど、肩をすくめるだけにとどめた。その間に葦田は逃げたらしい。逃げ足の速い奴だ。

「もう、逃げられた~。ま、いっか。」

 悔しそうな顔をした次の瞬間、彼女は笑顔になった。今度聞けば良いや、と言う親友の言葉を聞いて私は葦田に心の中でエールを送った。やると決めたら彼女はやるから、きっと彼は彼女の気が済むまで追いかけられるだろう。…ご愁傷様。

「おーい、授業そろそろ始まるぞ。」

そう言いながら入ってきた先生の声で皆が席に着く。ふー、と疼く心を鎮めようと目を閉じて深呼吸した。


 …はずだった。

 なのに、なんでこうなった!?

 深呼吸をして目を開けたそこは、私のクラス、2年1組、ではなかった。若干パニックに陥った私はしばらく動くことができずに席に座ったまま固まっていた。…どこかで見覚えがある教室だなぁ、と周りを見渡すことができるようになるには1分くらい時間がかかった。そんな私に気付いたのだろう。

「だいじょうぶ?千遥」

 となんだか見覚えのある小2くらいの男の子が私の顔を覗き込んでいた。取り敢えず教室から出ないと。

「うん、だいじょーぶ。心配してくれてありがとう。」

 と男の子に言って立ち上がると、意外と身長が低いことに愕然とする。もしかして、私身長縮んじゃった?もともと背が低かったのに…なんてことだ。

 廊下を出て私はすぐ鏡の前に行った。…ん?なんで私場所が分かるんだろう。よく周りを見ると見覚えがあった。思い出せ、どこで見た?私はここに来たことがある。なんで?

「…あぁ!竜田小学校じゃん!!」

 ここは小2の時に通っていた小学校だ!でもなんで私はここにいるの?さっきまで中学校にいたはずなのに。そう思いながらも顔をあげ、鏡に映っている顔を見て何度か瞬きする。

「…嘘だよね。」

 ごしごしと目をこすっても、鏡に映っているのは小2くらいの男の子だけだった。あぁ、なんだ。背が縮んだわけでは無いんだ。良かったぁー。って、そうじゃない!…これ本当に私?でも周りには私以外人はいない。

 脳内に異世界転生という文字が浮かぶ。だけど、もしこれが異世界転生とやらだったら色々とおかしい。だって、大抵漫画だと転生する前にみんな事故って死んでるけど、私は死んでない。それにここは異世界じゃない。私が知っている世界、というより私がさっきまでいた世界そのものだ。むしろ、異世界転生というよりは、なんだっけ、逆行転生とか云うやつのほうが近い気がする。ただ、過去に戻っているわけじゃない気がするからそれも違うとは思うけど。

 まさか、神様が逆行だけだと味気ないからってご丁寧に性転換とかいうオプションもつけてくれたパターン?…もしそうなら、

「っ余計なことをするなぁ!!」


 ぜぇぜぇと息を整えながらもう一度鏡を見る。そういえば、さっきの男の子、私のこと千遥って呼んでたなぁ。あ、男の子だから私じゃなくて僕か。よし、決めた。この世界もこの千遥という子のこともよくわからないけど、私、じゃなくて僕の正体は隠し通そう。仮に言ったところで誰かに信じてもらえるとは思えないし。

「〈僕〉に慣れるのには時間がかかりそうだなぁ。」

 そう呟くと後ろから声をかけられた。

「千遥お兄ちゃん!」

 千遥って僕のことか。そう思って後ろを振り返った僕は目を疑った。…何故かって?そりゃあ、誰だって昔の自分とまったく同じ子が現れたら驚くだろうさ。

 まさかだけど、この子、()()だったりする?

「どうしたの?沙知。」

「どうもしてないよー。お兄ちゃんがいたから来たの。」

 にこにこと()()は笑顔を浮かべて僕に言った。

 ()()についている名札は僕と同じ青色だった。それに、僕の名札には()()()()()()の名札には()()()()と名前が書かれている。

 …どうやら僕は逆行転生をした挙句、()()の双子の兄になったみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ