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『冬』・『合戦』が足音を立てて近づいてきている。一足早く行われる四人の『将軍』の発表が終わったばかりだ。


 本格的に『冬』の準備をする冬季休暇まで、残る学園の予定はテスト一つ。攻略本的にはもう一つ。


 殿下のルートでのご褒美イベント、『ドキドキ密室イベント』が残っている。


 ちなみにオズワルド・セデンルートのご褒美イベント、『ラッキースケベイベント』は起きなかった。良かった。本当によかった。

 あるなら秋頃だったので、発生には恋愛感情の域の好感度が必要だったのだろう。



 突然だが、みなさんは夜の校舎に入ってみたいとお思いになったことは?

 私はある。月明かりしか光源がない校舎はきっと非現実的なわくわくに溢れている。ぜひ探検してみたい。


 だがそれは『入ってみたい』なのであって、『閉じ込められてみたい』では断じてない。

 ついでに言えば別に一人でもいいのであって、恋人が一緒の方がいいとかも思ってない。


「思ってないんだけどな……」

「何をだ?」

「いえ……」


 どうもこんにちは。現在恋人と夜の第一校舎に閉じ込められているレベッカ・スルタルクである。


 全ての出入り口に鍵がかかっていることを確認し終えて、殿下が息をついた。

 よく思うが、彼の金髪は月明かりの元で見ると一層綺麗だ。


「シナリオで何故俺は鍵か窓か壁を壊さないんだ?」

「壊すルートも選べますが、結構な額の請求がくるみたいですよ」

「閉じ込められた側なのに?」

「ええ」


 暗い中攻略本の文字を指で追いながら答える。現実では、殿下は先日の兄さまとの戦いから魔法を使うのを控えている。

 元々の魔力が少ない私にはわからない感覚だが筋肉痛のような痛みがあるらしい。


「どうしますか?」

「レベッカが風邪を引かないならなんでもいい」

「もう十二月ですしね……」


 既に若干冷たくなってきた指先に息をかけて温めながら呟いた。


 そもそもなぜ閉じ込められるとわかっていて本当に閉じ込められたか。


 シナリオでは主人公エミリアが夜忘れ物に気づき校舎に戻って、殿下は寮の窓からそれを見かけて追いかけて、二人が中にいる間に校舎が閉まってしまうという流れだった。


 忘れ物をしなければいいと思っていたのだが甘かったようだ。

 最後の授業だった化学の時間、隣の生徒が調合に失敗しておかしな薬を作っていたのは知っていたし、多少吸い込んだ自覚はあった。


 だがまさか遅効性の眠り薬だったとは。


 放課後抗えない眠気に襲われて、私は近くの医務室のベッドに勝手に倒れ込んだ。

 クリスティーナが二時間経っても起きない私に困ってしまって殿下を呼びに行き、あとは同じ寸法だ。


 薬がまだ効いているのかさっきから手足に力が入らない。校舎を壊すような魔法は使えそうにない。


「殿下、すみません……」

「いやいい。夜の校舎も珍しくて面白い」


 殿下が私の指先を手のひらで包むように握って歩き出した。ふと窓の外を見れば、中庭の掲示板が目に入った。

 そこには少し前に出た『秋』の結果が今も張り出されている。


 十位 フリード・ネヘル

 九位 ハンナ・ホートン

 八位 ディエゴ・ニーシュ

 七位 エミリア

 六位 メリンダ・キューイ

 五位 ブライアン・マーク

 四位 オズワルド・セデン

 三位 キャラン・ゴウデス

 二位 ルウェイン・フアバードン

 一位 レベッカ・スルタルク


 前を行く殿下の背中を見る。『冬』がきてほしくないと思うのは、その後舞踏会をやったら今年が終わってしまうからだ。

 殿下が第三学年だからだ。


「三年間なんて早いものだな」


 私の心が読めるみたいに殿下が言った。振り返った彼が、多分『寂しい』を隠せていない私を見る。


「特にレベッカが来てからはあっという間だった」


 そう言って教室や窓の外を指さす。


「あそこでよく昼を一緒にとったし、あっちは話をするのに、あっちは待ち合わせに良かった」

「……殿下のいない学園生活は味気なさそうですね」


 彼がいた風景は、もうすぐ彼がいない風景になって、それが当たり前になってしまう。

 想像したら思ったより視界が色褪せた。


「学園は寮だし、俺も公務で毎日は会いに来られない」

「……はい」

「だから結婚する」


 殿下が振り向いた。私に顔を近づけて、こつんと額と額を合わせる。


「学園に行っても俺はいないが、レベッカが家に帰ればいる。毎週末帰ってきてくれるだろう?」


 彼の指が私の左手の薬指を撫でた。そこまで考えて結婚の話を進めてくれていたのだと、初めて気がつく。


 殿下がいなくなってしまうが、代わりに薬指に指輪がある光景が当たり前になる。たしかにそれなら彼がいない学園生活も怖くないかもしれない。

 

「もちろんです」


 私が笑えば、殿下も満足そうに笑う。そしてまた私の手を引いて歩き出した。歩調を合わせてその隣に並ぶ。


「週末のたびに王宮に行く学生も私くらいでしょうね」

「そのことだが、王宮と学園の間に新しく家を建てないか? レベッカが帰ってきやすい方がいい」

「いいんですか!?」

「父上の許可はもう取った。どんな家がいい? 近いうちにいくつか見に行こう」


 私たちは一緒に学園で過ごした二年間を確かめるように校舎を見て回りながら、これから何十年間と続く未来の話をした。


 慣れ親しんだ校舎を殿下と二人で歩いたのはこれが最後だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回の冬でやらかしたディエゴが秋でしっかり成績を残している。ちゃんと再起の機会を与えられていてよかったなぁ。殿下、オズ兄ちゃん、剣がめちゃ強い例の彼が三強として、今年は五高に入れたのか気に…
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