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「び、びっくりした、大丈夫でしたか?」

「え、ええ」

「なあランス、『美人が降ってくることがあります』って最初の説明にあったか?」


 助け起こしてもらいつつ、さりげなく二人を観察した。

 一人は亜麻色の髪の、線の細い青年。にこにこ好青年、といった感じだ。もう一人は鳶色というのか、くすんだ赤茶色の髪の、これまた線の細い青年だ。こちらはどちらかというとヘラヘラしている。

 二人とも美形で困った。美形は攻略対象の可能性があるのだ。


 とりあえず過度に警戒されたくはない。私は短剣をさりげなくスカートの中に忍ばせてから、美しい淑女のお辞儀をした。


「助けていただいて感謝します。ベスと申します」

「あ、ご丁寧にどうも。ラリーです」

「俺はハルでいいぞ。よろしく美人さん」


 鳶色のほうがハル。亜麻色のほうはラリーと言うが、さっきハルが『ランス』と呼んだのを聞いてしまっている。

 やはり本名は言わないのが得策なんだろう、有名なら名前だけで得意な魔法や従えている幻獣がわかることもあるだろうし。

 ちなみに学園長の挨拶にもあったこの『幻獣』とは、新入生が夏の行事で得られるパートナーだ。一人一体自分で卵から孵すと聞いている。第2・第3学年は自分の幻獣を連れ『春』に参加できるのだ。


 相手は見たところ幻獣を連れていないが、新入生と決めつけるのは良くない。ヒントの人間である私と偶然を装って接触した可能性もあるのだから。


 するとランスが私の体を指差した。


「ところで君、何だか光ってませんか?」

「あっそれ俺も思ってた!」


 違った。私に会ったのは偶然らしい。


 どうするか。謎の魔法がヒントであるのは察しがつくだろうし、男性二人を相手取りたくはない。ランスもハルも、道具は何を…ん?ランス?ランス!?


 突然思い出した。それは攻略本の一節。


 亜麻色の髪のランスって、『ランスロット』じゃないか!

 彼はそう、「ランスロット・チャリティ。攻略対象、第1学年、うすい茶色の髪に同色の瞳、弓と魔法に才能あり、父は宰相、備考:爽やかだが主人公に会う前は放蕩の気あり」だ。15歳で放蕩とはと私に衝撃を与えた彼だ。


 驚いたがこれはしめた。攻略対象はみんな性格がいい。私が悪役令嬢であるとはいえ、ヒントのためであっても何もしていない女の子を攻撃したりはしないだろう。

 加えて腕が立つなら一緒にゴールを目指すこともできるじゃないか。ハルについては情報がないが友人のようだし、何かあってもランスロットと2対1なら対応できると思う。


 私は口を開き、


「実はこれがヒントのようで…」


 確認したら、男子寮一階の東の外装の飾りを三回叩けということでした。


 そう言いかけて口をつぐんだ。


「確認の仕方はよくわからないのですが」


 そして笑顔を繕い、できる限り自然に繋げた。


 何をやっているんだ私は。

 この男が本物のランスロット・チャリティである証拠がどこにある!


「というわけで、申し訳ないですが移動しながらお話ししませんか?」


 先生方のコピーによる偽物だったとしても、はたまた本物だったとしても、ここで別れるのは悪手だろう。後ろから狙われたりつけられたりしてはたまらない。

 コピーの魔法にも限度はあるはず。個人情報は知らない可能性が高いし、話していればボロが出るよう誘導できるかもしれない。


「そうか…そうだね、行きましょうか」

「ああ、構わねえよ」


 偽物でないと確信でき次第協力体制に入ろう。


 そう考えを固める寸前、私はふと疑問を口に出した。


「あの、ちなみにラリー様…なぜさっきから目を合わせて話されないんですか?」


 ランスロットに向かって聞くと、彼は相変わらずにこやかなまま答えた。


「合わせてるじゃないですか、ちゃんと」

「いや私じゃなくて…」


 その隣の彼なんですけど。


 そう言おうとすると、ハルが楽しそうに笑った。


「よくぞ聞いてくれた!実は一ヶ月前こいつの彼女の一人を奪って以来、話してくれねえ目も合わせてくれねえ!わざとじゃなかったんだけどな!今日もせっかくすぐ近くに転送されて会えたってのに完全無視!」

「そ、そうですか…」


 そんな理由が…。しかも彼女『の一人』と。ランスロットは攻略本の情報と違わず、順調に放蕩息子としての道を歩んできたらしい。


 弱々しく答えると、ランスロットがさらににこやかな顔になって口を開いた。


「ベス嬢、一人で誰とお話ししてるんですか?」


 だんだん怖くなってきました、この笑顔。

 私は気まずくなって目をそらした。


 ***


 小雨だが雨が降り始めた。

 転送されてからそろそろ30分くらいだろうか、雨が強くなりそうならランスロットとお話しするより雨宿りする場所を探さないと。などと考えていたとき。


 ハルが目を細め、どこかを見ながら呟いた。


「おいベス嬢、誰か来るぞ」

「えっ、隠れましょう」


 咄嗟にランスロットの手を引き、大きな木の裏に身を潜める。薬草の森だけあって近くに有毒のシダ植物があったので靴で押しのけた。


「ベス嬢、どうかしたんですか?」

「しっ。お静かにラリー様」


 ハルは近くに隠れ、依然としてどこか一点を見つめている。それに合わせて目をやった。ランスロットも上着から折りたたみ式の弓を取り出しつつそちらを見た。


 雨を手で避けるようにしながら現れたその人物に、私は目を見開いた。


 ランスロットが、いた。

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