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 講堂にて一堂に会した新入生たちを前に、学園長の朗々とした声が響く。


「春の『行事』を始めよう。知っての通りこれは互いの自己紹介を兼ねている。今から君たち新入生と別室の第2・第3学年の生徒たちを学園の様々な場所に転送する。ある生徒は屋根に、ある生徒は湖に、ある生徒は調理室に飛ばされるだろう。持っていける道具は各自1つまで。第2・第3学年は幻獣可。

 学園のどこかにゴールがある。どこがゴールかはヒントがある。

 生徒たちの中には偽物が混じっている。君たち新入生の誰かの姿をコピーして真似た教師陣だ。彼らは君たちを気に入れば手助けをするし、気に入らなければ妨害するだろう。偽物を見破れば褒美もある。

 期限は日没までの9時間。出会った人物が信用できるか見極め、協力・時に決別して、誰よりも早くゴールを目指せ」


 周りのあちこちから生唾を飲む音が聞こえる。突如として足元に現れた魔法陣は光り輝いて、時空を歪め、切って、繋げる。

 あっと驚く合間に見た学園長は皺だらけの顔に笑顔を浮かべていた。


「ま、頑張りなさい」


 そうだ、防御魔法をかけるから怪我はしない。安心するように。


 学園長の付け足しの声を最後に、私は目まぐるしく変わっていく周りの世界に耐えきれずぎゅっと目を瞑った。


 ***


 目を開けるとそこは森だった。体感は1秒。スケールの大きさに驚きを禁じ得ない。


「…ふう。どこだろうここ…『薬草の森』かな?」


 見たところ周りに人はいないようだ。どこに飛ばされるかわからなかったので、学園の地図は頭に入れてきた。大木が林立して薄暗く、同時に背の低い植物も多く見受けられる鬱蒼とした森が続くこの場所は東のエリアだと見当がつく。


 実は攻略本に『春』で私がどうしていたかは載っていない。悪役令嬢レベッカが登場するのは『春』が終わった後なのだ。だからどこに飛ばされるかも分からなかった。

 でも、どこがゴールかは知っている。とりあえずそこを目指したいのだがその前に、自分の体にじっと目を凝らした。


「…あっ!」


 自分の体に防御魔法以外の何かがかかっているのがうっすら見える。


 まずい!


 事態を把握するやいなや、私はなるべく音を立てず、それでいて素早く、斜面を下る向きに森を駆け始めた。


 学園長が言っていた『ヒント』の一つ。新入生のうちランダムで選ばれた十数人にかけられたこの魔法のことだ。

 このヒントの内容を知る方法は3つ。魔法をかけられている人間を戦闘不能にする。または棄権させる。または完全に真っ暗なところに連れて行く、だ。ヒントの人間一人につき、この中のどれかを達成した一人だけがヒントを確認することができる。

中でもほとんど認知されていないのが3つ目の方法の存在だ。これだけは毎年内容が変わっており、今年はたまたま『暗闇』。物置でも洞窟でも、マントでも何でもいい。暗いところなら文字が浮かび上がり、唯一平和的にヒントが得られる。魔法の見識が深い人間なら魔法陣を見て読み取れるものらしく、年によっては『水の中』とか、『特定のポーズをさせる』なんてパターンもあったらしい。


 しかし認知度が低い3つ目。ヒントの人間は基本他の生徒に追われ、戦闘不能に陥る運命にある。


 加えて、私は魔法の才能がないので目を凝らしてやっとかかっているとわかるくらいだが、魔力が強ければありありと感じられるらしい。それどころか遠く離れたところからでも『向こうにヒントがいる』と感じ取れるとか。


 ああ、なんて不運!こうなった以上一箇所に留まるのは危険だ。常に移動したほうがいい。この場所に飛ばされたのは不幸中の幸いかもしれない。ひらけた場所ならあっという間に見つかっていたかもしれないから。


 私は唯一の持ち物である短剣を握りしめた。道具は一人1つまで。私が選んだのはこれだ。

 ゲームのレベッカは魔力もフィジカルも強くないが、私は護身くらいならできると思っている。母が小さい頃から習わせてくれていたからだ。昔は貴族令嬢が魔法でも剣でもなくナイフ術を習うことが疑問だったけれど、今は合点がいく。母はこれが一番私の性に合っていると見抜いた。


 斜面を駆け下りながら思う。攻略本で得た情報は本当に役に立つ。当たり前だ、ただのズルだ。だけど迷わず活用すると決めていた。没落を免れシナリオに抗うためならズル上等。

 そして今回、私にはもう1つ知っていることがある。この行事では『敵キャラ』・オウカが現れるのだ。

 オウカは約20年前に学園長が封印した貴族の青年だ。この学園の生徒だったらしい。面白半分で禁忌の魔法を開発しようとした、悪の権化のような男である。封印が弱まっており、精神体として一年を通し度々茶々を入れてくる。

 『春』では主人公の珍しい魔力に興味を持って接触を図るはずだ。特に害はないので放っておいても罪悪感はない。きっと今この学園にいるのだろう主人公が、「あれ、あの人なんだったんだろう」と不審に思うぐらいである。

 じゃあオウカは何のためにそんなことしたんだといえば、『面白そう』以外の行動原理を彼に求めるのは不毛だ。

ちなみに驚くなかれ、攻略対象だ。『隠しキャラ』らしい。主人公に恋して更生した彼を治癒魔法で復活させることが可能なのだ。好きにやってくれればいい。そのルートでも、主人公に嫌がらせをしていた私が没落するのはなんら変わらないことなのだから。当たり前だがこれら全て物語終盤の冬ごろに発覚するはずの機密情報だ。攻略本最高!ありがとう母さま!


 そのときだった。集中力を欠いたのがまずかった。片足に草がもつれ、体が宙にふわりと浮いた。独特の浮遊感の中、サッと血が引いていく。


 私の馬鹿、ああ、転ぶ!


「きゃっ!」

「え?」

「わ、危ねえ!」


 二つの体が私を受け止めた。男子生徒が二人、突然降ってきた私を危ないところで受け止め、ただただ目を丸くしていた。

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