プロローグ
第二部連載開始です。よろしくお願いします!
ここはフアバードン王国の王都に位置する王立貴族学園。四月某日、麗らかな日差しが温かい今日この日、最初の『行事』・『春』が行われようとしていた。
学園の一室で今か今かとその開始を待っている私は、名前をレベッカ・スルタルクという。この春学園の第二学年に進級した。
新入生が講堂で学園長から『春』の説明を受ける間、第二・第三学年の生徒はこうして別室で待機する。
緊張した面持ちの新入生たちが集う講堂と違い、こちらは比較的雰囲気が柔らかい。それもそのはず、周りは少なくとも一年を共に過ごしている級友たちだ。
私の左隣の銀髪のように殺気をみなぎらせている生徒は少ない、というかほぼいない。
「レベッカ様、絶対に勝ちましょうね……」
低く呟いた彼女に思わずため息が出た。何というか、目が据わっている。
彼女は私の親友で名前はエミリアだ。この学園唯一の平民だが、希少な治癒魔法を使える。肩までの銀髪がトレードマークで、見た目は文句なしに可愛い。
しかしその手では硬い食材、ではなく、私が先日王都のおもちゃ屋さんで買ってきたスライムが繰り返し繰り返し握りつぶされている。
素手で硬い物を握り潰し人を威嚇する癖をいい加減やめさせたくてプレゼントしたのだ。効果があって何よりである。
「あなたたち、本気で勝つつもりなの? よりにもよって、あのルウェイン殿下に?」
反対の隣で私のもう一人の親友、メリンダ・キューイが言った。
彼女は子爵家の令嬢である。その蜜色の瞳と、ついでに肩に乗ったフクロウの瞳が、「絶対無理に金貨一枚」と言っているような気がする。
私はもう一度大きなため息をついた。
何故こんなことになってしまったのだろう。
そんな気持ちを込め、前の方で誰かと談笑していた、例の彼に目をやる。彼もほとんど同時に私を見たのでバチッと視線が合った。
きらきらと光を反射する金色の髪と、吸い込まれそうな群青の瞳。整いすぎたその顔にはあまり感情がのらないせいで、「冷たい美貌」と言われることもある。
だが、私を見るときだけは柔かさと温かさが加わる。
――ルウェイン・フアバードン第一王子。私の婚約者だ。
彼にそんな風にして微笑まれると、彼のことが大好きな私は顔を赤くせずにはいられない。
どんな状況であっても。
そう、たとえ。
「『春』で殿下に勝たないと即挙式」という、このとんでもない状況にあっても。




