表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

39

 初めて会った時、貴方は上から降ってきました。貴方は美しく、賢く、強く、何より鮮烈でした。僕には無いものを持っていました。貴方が欲しかった。既によりにもよって王子のものでしたが。

 だけど諦められなかった。幸い魔法は得意でした。何か良い方法は無いものかと最初の頃は文献を漁ったり授業に真面目に出席したりしていました。しかし目ぼしいものは見つけられなかった。


 夏になって、柄にもなく父の仕事を手伝うようになりました。機密の情報を得られると思ったからです。

 そうして見つけたのが『オウカ』です。『春』と夏季休業の間に貴方に接触した男の名前でした。その報告書を見る限り魔法の才能は相当だろうと思いました。精神体だとも書いてあったので、精神体を降ろす魔法を使いました。双方の意思がないと成功しない魔法なので全く期待していなかったんですが、彼は降りてきました。10月のある日のことです。

 魔力量を増やす方法を聞いたら、理由を問われました。貴方を得るためだと包み隠さず答えたら、物に魔力自体を蓄積して後から使う方法を教えてくれました。彼の髪と目もそうだと。

 「あんたも『歪み』か」、と笑っていたのが印象的だったんですが、あれはどう言う意味だったんでしょうね。


 何にせよ、彼のおかげで僕は今回の計画を実行に移せると確信しました。お礼に『秋』のエミリアの研究について教えてあげたんです。僕は内容を知っていたから、それを使って肉体を復活させてはどうかと思って。彼は「んー、いいや」と言っただけでしたが。彼、封印し直されたんでしょう?この前父の仕事を手伝っていたとき知りました。あのとき復活しておけばよかったのに。

 …あ、そうでした、このペンダント。レベッカ嬢、オウカさんから貴方にと預かったんでした。渡しておきますね。


 それで、どこまで話したかな。そう、『冬』はことを起こすのにぴったりでした。魔法で映像を差し替えてしまえば教師もすぐには来ませんし、先であればあるほど魔力を貯める時間が増えるから。

 父のところから書類や判子を持ち出して宰相の特命の文書を偽造して、できるだけたくさんの生徒に渡しました。内容はレベッカ嬢を国外追放すること。僕の希望はそれだけで、他の文章の内容は実はオウカさんが考えてくれたんですよ。…なんで国外追放なのか、って?王子の婚約者である貴方を僕みたいなのが手に入れるには、一番都合が良かったので。殿下が貴方を愛しているのはよくわかっていましたしね。

 ああ、それにしても。この計画が失敗に終わったのは、やはり三強や五高を引き込めなかったのが大きいんですかね。でも偽装だと気づきそうな人間や貴方に近しい人間は取り込めないので、しょうがなかったですね。


 まあこうして作戦は失敗したわけです。魔力ジャックのせいで今は追放の魔法具が使えないですし、ジャックしなければしないで僕はそこの三強二人にやられてしまうでしょうし。

 はあ…遅かれ早かれ僕のやったことがバレるのはわかっていました。貴方さえ追放できれば、あとからバレたって一向に構わなかったんです。むしろ僕も追放されて貴方のところへ行けて万々歳です。

 でももう貴方を追放するのは無理ですね。そこで一つ言いたいんですが、僕は本当に、レベッカ嬢、貴方が好きで。他の男のものになるくらいなら、陳腐な表現ですが、貴方を殺して僕も死にたいとも思うんです。そういうわけなので、ちょっと目をつぶっていてくださいね。大丈夫です。すぐすみますから。


 ***


 少年はそう言って魔力で弓矢を形成した。そしてつがえた矢を真っ直ぐ少女に向けた。

 一連の行動は唐突すぎて、少女は何を言われたのか分からず、自分に向けられたそれをただ茫然と見ていた。


 その場にいる人間は魔力ジャックを受けている。魔法を使えないのみならず、防御魔法も発動しない。唯一魔法を使えるのは魔法の使用者である少年だけ。それはつまり、魔力でできているその矢を防ぐ方法はないということを意味していた。


 ほんの少しの躊躇いののち、矢は少年の手を離れた。そして少女の胸に向かって一直線に飛んでいった。


 少女は1秒後胸を串刺しにされる未来をはっきりと認識し、時が止まったかのような錯覚と共に走馬灯を見た。


 大好きな人たちが少女を囲んでいた。抱きしめる母、手を引く兄、頭を撫でる父。いつも一緒にいてくれた親友二人。

 そして、最愛の彼。


(殿下に会いたいなあ)


 確かな想いを最後に、走馬灯は終わり。少女は矢が自分の胸に刺さる瞬間を見ないように、静かに目を閉じた。


 そのまま何秒かが過ぎた。


 ゆっくりと目を開けると、最愛の男が、先ほど走馬灯にまで見た彼が、少女の目の前にいた。少女を抱きしめていた。少女はそれが幸せな夢だと思った。


 男の口から何かが溢れて、彼女の肩を濡らすまでは。


 真っ赤なそれはとても鮮やかで、肩を焼くような熱さが少女の意識を現実に引き戻した。男の背中に深く突き刺さった矢は、彼の心臓を貫いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまで面白かったのですが、以下が致命的におかしなストーリー展開で、一気に冷めてしまいました。残念です。 ・”宰相の特命”の紙を息子に見せられただけで、多くの生徒が”信じるて”行動する ・魔…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ