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何事もなく張り出された結果を不思議な思いで眺める。シナリオでは途中で中止になったので攻略本に載っていなかった。
10位 オリヴィエ・マーク
9位 メリンダ・キューイ
8位 キャラン・ゴウデス
7位 ヴァンダレイ・スルタルク
6位 ランスロット・チャリティ
5位 レベッカ・スルタルク
4位 エミリア
3位 オズワルド・セデン
2位 セクティアラ・ゾフ
1位 ルウェイン・フアバードン
オウカはどうしたと言うのだろう。体を治したいと思っていないのか、そもそもエミリアの研究のことを知らなかったのか。狐につままれたような気分だ。
結果に喜んでハグしようとしてきたランスロットをサッと躱す。駆けつけたエミリアがさつまいもを握り潰して威嚇するのを「どうどう」と止め、セクティアラ様のもとへ向かうことにした。
「レベッカ様はゾフ様のことがお好きなんですか?」
エミリアはセクティアラ様のところへ行くというとなぜかさつまいもを買い直してきた。食材のチョイスに秋を感じる。しかしセクティアラ様を威嚇するつもりなら切実にやめてほしいし、それよりせっかくなら焼き芋が食べたい。なのでちゃんと言っておく。
「エミリアの方が好きよ」
やった!と人目を憚らず声をあげたエミリアが可愛い。機嫌を直してくれてよかった。
そこに聞き慣れた低い声が割り込んできた。
「レベッカ気をつけろ。どこかの女狐はお前にご執心らしい」
「そうですレベッカ様、気をつけてください。どこかの猛禽類があなたを狙っているようなんです」
私に向けるのとは全く違う種類の笑顔を浮かべる殿下に対し、エミリアも笑顔で言い切る。辺りに寒々しい空気が流れている。あれ、まだ11月に入ったばかりだよね?
殿下は私の肩を抱き、エミリアは私のその反対側の腕に抱きついて両者一歩も引かない。二人とも笑顔で毒を吐き続けているのがなんとも怖い。
この刺々しい応酬が日常化したのは、この前の『殿下を好きになってしまいました』という狂言に始まった一件のあとからだ。私に勘違いをさせたエミリアに殿下は怒り、私にキスをした殿下にエミリアは怒っている。
下手に口を出すと悪化するので静観することにしている。だがちょうど今みたいに、フリードの前で花が咲いたように笑っているメリンダを見つけたときは、二人を連れて特攻をかけることにしている。
柔和な微笑みをたたえたまま「こっち来ないでよ」と目で全力で訴えてくるメリンダはもちろん無視だ。そのまま巻き込んでセクティアラ様のところへ向かった。
私に殿下にエミリアに、なぜかメリンダとフリードという大所帯で訪ねられたセクティアラ様はなんだかあたふたしていた。とても可愛らしい。
出来立ての焼き芋を少しおすそ分けすると、顔をほくほくさせて「おいしい」と言ってくれた。とても可愛らしい。ちなみに焼き芋は殿下が火の魔法で作ってくれた。
セクティアラ様との勝負のことを尋ねると、
「約束通りヴァンダレイ様に婚約の打診、というより、告白を、してみます…!」
と、こしょこしょ話で教えてもらえた。うまくいかなければ私から父さまに申し出ようと考えながら「ご武運を」と笑顔で送り出した。
結果を教えてくれたのはセクティアラ様ではなく、一週間後に父から届いた「ヴァンダレイの婚約者が決まった」という手紙だった。
嬉しくて「わーい」と飛び跳ねた。隣で一緒に手紙を覗き込んでいた殿下がそんな私を見て「ぷは」と笑い、「よかったな」と頭を撫でてきたので、心臓も飛び跳ねることになった。




