帝国の脅威を知る。
リュウは少しずつこの世界の状況を知って行きます。
ですが、彼はごくごく普通の青年であり、本人自身もそれはよくわかっています。
今はミアを両親の元へ帰してあげること。
それまでミアを守ること、ただそれだけは自分がしなければならないことだと心に決めて。
未知の世界を生き抜いていきます。
ボクたちはハーシーさんからギルドカードを受け取った後
ギルドマスターのリサーナさんとギルドの食堂で食事をしていた。
「はむっ…おさかな…おいひぃ…!」
「ミア、お口に食べ物入れてしゃべっちゃだめだよ?」
「ごくん…ぁぅ…ごめんなさい。」
「うん。いい子だ。」
ちなみに、受け取ったギルドカードは身分証にもなるらしい。
警備の厳しい町なんかに入るときに必要だそうだ。
また、冒険者のランクによって色が違う。
ボクたちのは青色のギルドカードランクF
1番最初のランクだそうだ。
「ムフフ~。やっぱり可愛いな嬢ちゃんは!アタシの子にしたいくらいだ!」
ギルドマスターのリサーナさんは
目をハートにしてミアに夢中になっている。
どうやらミアが直球ドストライクだったみたいだ。
その気持ちはよくわかる。
だがしかし、うちの子はやらんからな。
「ところで、ボクたちに何の用でしょうか。」
「ああ、そうだった。まぁ、最初は可愛い猫耳の少女が気になってついて行っただけなんだが、君たちの話を聞いて力になれるかもしれないと思ってな。嬢ちゃんのご両親のことについてだ。」
「ミアの両親の居場所、心当たりがあるんですか!」
「ああ、猫耳族の村に心当たりがある。しかも、近々そこへ行く任務があってな。」
まさしく、渡りに船だった。
まさかこんなに早く情報がつかめるとは思ってもいなかった。
「是非!ボク達も一緒に連れて行っていただけませんか!」
「ああ、それは構わないんだが…。その前に話しておかなければならないことがある。非常に言いづらい事なんだが…。」
「…。戦争…のことですよね…。」
「ああ。」
そう、ミアから聞いた話では
彼女の村は人族の戦争に巻き込まれ
両親ともその時に離れ離れになったそうだ。
「アタシとギルドの選抜部隊は、生存者の救出に向かう。だが、猫耳族の村が襲撃を受けてからすでに一月近くも経ってからの出動だ。……あまり言いたくないのだが…生存者がいる確率は…絶望的だ。」
「ひと月も…!どうしてそんなに遅れてしまったのですか…」
「できることなら直ぐにでも向かいたかったさ…。だが、奴らは無差別に周辺の村や町を襲いまくっている。アタシ達だけじゃ手が回らないんだ。」
「……ママとパパは…死んじゃった…の…?」
ミアは泣き出しそうな顔でボクの服の裾をキュッと掴んでいる。
しまった…。ミアが…
「大丈夫だ嬢ちゃん。まだ死んだとは限らない。」
「ミア…」
だめだ…なんて言ったらいいんだ。こういう時は。
ミアを安心させてやりたいのに、言葉が出てこない…。
ミアの両親は…もしかすると、もう…。
「アタシらに任せとけ。もしかするとまだ生きてるかもしれない!たとえ見つからなくても必ず手がかりは探し出してやるさ!」
「ぁぅ…ありがとう…ますたぁ…。」
「ああ!だからそんな顔すんな!な!」
リサーナさん…。
流石ギルドのマスターだ。
凄く心強い。
「ありがとうございます!自分からもどうか、よろしくお願いします!」
「ああ!だから君はしっかり嬢ちゃんを守ってやれ。」
「もちろんです。」
「そういえば「鷲の羽」に宿泊してるんだったな。ちょうどいい、救出任務の詳しい内容はセルティから説明を受けるだろう。君たちが同行できるようにアタシが手をまわしておくから、明日らへんにでもセルティから聞いてくれ。」
「何から何まで、本当にありがとうございます。」
「いいのいいの!お二人さんはこれからは正式なギルドメンバーだ。つまりアタシの仲間だ。それに将来有望な特殊スキル持ちだからな、早いうちに経験を積んでもらいたい。」
「ますたー!ありがとうございます!」
「ああ!また後日な嬢ちゃん!」
リサーナさんはそういうとミアの頭を優しくなでてからギルドの奥へと戻っていった。
きっとこれからハーシーさんのところにでも行くのだろう。
「よかったな、ミア。」
「うん!ますたーいい人!」
「そうだね。ホントここの人たちにはお世話になりっぱなしだ。」
ミアは最初、リサーナさんを警戒していたみたいだけど。
いつのまにか「ますたー」って呼んでいた。
リサーナさんは自然と人に好かれる不思議な魅力の持ち主みたいだ。
流石ギルドマスターだ。
「ミア、それじゃこれからボクたちの装備を新しく買い直しに行こうか。」
「うん!新しい服!」
ボクたちは装備を新しくすることにした。
ボクは今兵士から拝借した服を着ているし
ミアはぶかぶかのフード付きのローブを着ている。
流石にいつまでもこれじゃ不便だ。
「というわけで来ました。」
「きましたー!」
「らっしゃい!おお!その子が助けた女の子か!枷は無事に外せたみてぇだな!」
装備といえばこの店だ!
今朝お世話になった鍛冶屋だ。
ちなみにおっちゃんは「ギルバート」さん。
鍛冶屋の名前も「鍛冶屋ギルバート」だ。
「任せときな!ここは武器だけじゃなく、服も取り扱ってるからよ!」
「では早速…お勧めの装備はありますか?」
「フッ…あんちゃんなら、そういうと思ってたぜ。」
「ギルバートさんのおすすめなら間違いありませんからね。」
「任せとけ、とっておきの装備をあつらってやるよ。」
そういうわけで装備を見てもらうことになった。
装着者のステータスが装備選びに非常に重要だということで
ボクとミアはギルドカードを見せることになった。
「…!おいおい…こりゃぁ驚いたぜ…!」
「やっぱり、ミアは凄いですか。」
「ああ!嬢ちゃんはリサーナの姉御と同じじゃねえか!」
ギルバートさんの話によると、リサーナさんの装備は全てギルバートさんのオーダーメイドだそうだ。ミアにもオーダーメイドで影スキルを活かせる装備を作ってくれるそうだ。
驚いた…。
あの魔法剣もそうだったけど
ギルバートさん…いったい何者なんだろうか。
ちょっと聞いてみようかな。
「あの…ギルバートさんって。一体何者なんですか?」
「んあ?俺か?俺ァ…ま…いいか。」
「?」
「俺はな、元帝国の魔道機関、魔道兵器研究チームのリーダーだったんだ。」
「はぇ?」
「まぁ…驚くのも無理はねぇ、なんせ今この大陸で戦火を広げてる敵国こそ…俺が散々武器を研究してきたドゥア帝国なんだからよぉ。」
そうか、敵国は【ドゥア帝国】というのか。
というかそんな重要人物がこんなところにいていいんだろうか。
「なら、今はどうしてシルト大陸に?」
「ちと長くなっちまうが…いいかい?」
「はい。」
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【ギルバートさんの回想】
俺はよ、武器を作るのが大好きなんだ。
その威力もだが完成した武器の美しさはいつまで作り続けても飽きねぇ。
俺はな武器を心の底から愛してんだ。
人を殺すための武器だってことは解っていてもな、やめられねぇ。
作ることこそが俺の生きがいなんだ。
だがあることがきっかけでな…。
俺はドゥア帝国には二度と武器を作らなくなった。
俺はその日まで、この目で実際に戦争を見たことがなかった。
だがある日
俺しかメンテナンスのできねぇ特注品の武器が破損したってんで
戦場に連れていかれたことがあったんだ。
そこは地獄だった。
帝国のやつらはよ、俺の作った武器の性能の高さ、装備の有利性。
それをいいことに我先にとこの大陸の兵士や罪のない人を殺しまくっていた。
簡単に相手を殺せることが楽しくって仕方がねえみてぇによ。
そんなもんを見せられちまった後に、俺はそれでも仕事だから頼まれた武器のメンテナンスをしたんだ。だがそん時に気が付いた…
そいつの武器は明らかに壊れ方がおかしい。
武器は俺が作った中でも、特に気に入っていた剣だった。
それも魔法剣だ、使い手のイメージ道理に形状を変化させる刀身を持つ特別品だ。
そいつは俺を連れて、ある場所へ移動した。
そこは開けた場所で、1000人以上の捕虜が縛られて集められていたんだ。
その中には相手の兵士だけでなく…お嬢さんくらいの少女や…お腹に子供がいるのだろう女までいた。まったく無抵抗な無力な罪のない人たちだ。
そいつは…剣の形状を変化させやがった…。
その剣はどこまでも長く長く形状を伸ばしていった。
そのまま横に薙ぎ払えば…ちょうどその広場の1000人以上の捕虜を一刀両断できるほどにな。
…容赦なく殺しやがった…。
罪もねえ人々を…!
一瞬だ…。
そりゃあんなイカれた使い方しやがったら一回で壊れるに決まってやがる!
そしてそいつは気色悪ぃ…にやついた顔で言いやがった…!
「ヒヒッ…。また壊れたか…もう一度やるからすぐに直せ。」
俺はとっさに拒否しようとしたが、考えた。
俺が拒否したところで、こいつがいる限り残酷な行為がまた繰り返される。
だから俺は修理をするふりをして、武器に細工をした。
本来であれば使用者の魔力を使い形状を変化させ、威力を上げる武器だが。
その込められた魔力によって、使用者ともども爆発するようにだ。
そして俺の細工が発動し、大爆発が起きた。
普通なら死んだはずだが、確認はできなかった。
俺はその混乱に乗じて逃げ出したからな。
ちょうどそのとき、捕虜を救出しに来たリサーナの姉御に保護されて
ここに匿われてるってわけだ。
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「んぅぅ~~リュ~。」
「あ、ああごめんよミア。」
ボクはミアの耳から手を離した。
ちょっとミアには聞かせたくない内容だったので。
「辛い話をさせてしまってごめんなさい。ギルバートさん。」
「い、いや…俺もどうかしていた。こんな小さな子がいるってのによ…すまねぇ…。」
ボクが興味本位で聞いたばかりに
ギルバートさんには悪いことをしてしまった。
「いかんなぁ…俺も誰かに話して少しでも気を楽にしたかったんだろうな…。」
「また今度二人で、一緒にお酒でも飲みながらどうですか。話くらいいくらでも聞きますよ。」
「おう!いいなそれ。あんちゃんの話今度じっくり聞かせてくれや!」
というわけで
思わぬところでギルバートさんが何者か
過去に何があったのかを知ってしまったわけだけど。
ボクたちは装備を買いに来たんだった…。
「お詫びによ。その子とあんちゃんには、俺の試作品の実験てことで、無料で武器をつくってやるよ!」
「本当ですか!すごくうれしいです!」
「礼を言うのはこっちだ。お二人さんは特殊スキル持ちだしな。リサーナさんみてぇに俺の武器でたくさんの人を救ってくれるかもしんねぇ。期待してるぜ。」
ボクとミアの装備は2日後に取りに来ることになった。
なので今日は町で過ごすのにちょうどいい私服を買うことにした。
ミアには白いワンピースとスカートを買ってあげた。
黒髪のミアには白いワンピースがよく似合っている。
ボクは黒いズボンに白ワイシャツとベストにネクタイ
セットでアームバンドとブーツも購入した。
その上からは黒色のコートを着た服装だ。
見た目は秘書って感じだ。服のチョイスはギルバートさんだ。
「今日はありがとうなあんちゃん!装備は俺が本気出して作っておくから期待しときな!」
「よろしくお願いします。」
「ばいばい!おじちゃん!」
ボクたちは鍛冶屋を後にした。
時刻はちょうど夕方の5時あたりだろうか。
そろそろ帰って夕飯かな。
宿屋に帰るとセイディさんがボク達を呼んだ。
「リュウジ様…いえ、リュウ様ですね、ギルドマスターから救出任務の依頼が来ております。」
「セルティさん。早いですね、確か今日のお昼あたりに話したばかりなのに。」
「マスターは影を使って一瞬で移動できますから。情報の伝達も早いんです。今から依頼内容をご説明しましょうか?」
「はい。お願いします。」
セルティさんの説明によるとこんな感じだ。
猫耳族の村への救出任務は3日後に出発するということだ。
ギルド選抜メンバーはマスターのリサーナさんと
現在他の救出任務中の2人の精鋭らしい。
できるだけ敵と交戦せずに生存者を救出する任務だから
少数精鋭なんだそうだ。
「決してご無理はなさらずに、マスターの指示に従って下さい。」
そして、この3人。
マスターはなんと元伝説級冒険者で
訳あって今はSSランク冒険者。
他2人も現在ギルド屈指の実力者でSランク冒険者。
Sランクとはたった一人でAランク冒険者100人分の強さだという。
SSランク冒険者はAランク冒険者1000人分の強さだとか…。
伝説級はさらにその上、マスター以外にこの世界に4人しかいないらしく
たった一人で1つの国を亡ぼせる強さなんだそうだ…。
サイ〇人ですか。
「救出任務となっておりますが、こちらは生存者がいないかの確認と、敵の動向を調査する内容となっておりますので敵との遭遇率は低いと考えられます。その上元伝説級とSランク冒険者が2人同行するということで今回のみリュウ様とミア様の動向が許可されました。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
「出発まで時間があります。それまでに装備を整えておいてください。」
こんなに早くミアの両親の捜索に行けるとは。
できるだけ装備は整えておかないとな。
また長くなってもうた。