魔女
「私は魔女なの」
雪が舞う寒い夕方、白い頬を赤く染めて、彼女は言った。
「…そうなの。初めて知った」
「初めて言ったもの」
ふふふ、と蠱惑的に笑う自称魔女。
魔女と言えば長い黒髪に、真っ赤な口紅、黒い服に手にはホウキ。そんなイメージが浮かんでくるが、目の前の女の子はそんな毒々しいイメージとはかけ離れている。
茶色のふんわり巻き髪、ピンクの唇、紺のセーラー服に手には学生カバン。まさしく、今時の女子高生だ。
「…魔女も高校に通うんですね」
「もちろんよ、魔女だって青春を満喫したいもの」
「あ、世を忍ぶ仮の姿、的な?」
「鋭い!」
「人間界で修行、的な?!」
「ご明察!」
ピンポン!と人差し指を突き立てる魔女に感激する。なんということだ、魔女の修行現場に遭遇してしまった。これは人生で一度お目にかかれるかどうかの貴重な体験だ。
さっきまで普通の友人だった女の子が魔女さまだったなんて。なんて私は幸運なのだろうか。
魔女さまが友人、なんて、きっとこの世界に指折り数えるくらいしか居ないのではないだろうか。
「そ、それで魔女さまはどんな修行をしに?」
興奮して若干どもってしまった。
「ええ、よくぞ聞いてくれたわ」
ふわりと髪を揺らして、目を細める魔女さま。外気で赤く染まる肌がとても寒そうだ。
「私の家系はね、17歳になったら好きな子に告白すると言う習わしがあるの」
「ずいぶん乙女チックっすね」
「だから明日の誕生日に好きな子に告白するのよ」
「魔女さま、好きなひといたんですね」
誰だろう、魔女さまのお眼鏡にかなった幸福な男は。
「そう、あなたよ」
「そう、わたしか」
…って、え?なんですって?
「え?え?!わた、私?!」
「そう、あなたが好きよ」
真っすぐな魔女さまの視線。その表情に、心臓がドクドク跳ねる。
思いがけない魔女さまの言葉に、しどろもどろになってしまう。混乱して頭の整理が追い付かない。
光栄なことに、魔女さまの想い人は私だった。だったが私は女であなたは魔女さまで。
「ま、魔女さま!わたしは女です!」
「ええ、知っているわ。だからね、私の家に代々伝わる惚れ薬を作って来たの」
魔女さまが取り出した小瓶にはピンク色の液体。
「これを飲めばあなたは私を好きになるわ。だから性別なんて関係ないの」
小瓶の中のピンク色の液体はちゃぽんと揺れる。
魔女さま、問題はそこではなくて、そういうことではなくて…どういうことだ?混乱して言葉が出ない。
口をあわあわさせていると、またあの蠱惑的な笑顔。
ああ。
「飲んでくれるわよね?」
きっと、私はもう逃れられない。
「―――好きよ」
魔女さまの惚れ薬は、飲む前から効果絶大だった。
2019・1・4