四話「行方不明の兄」
隣の家に住む明彦と別れ、最後に残った私も家に帰るのだった。
インターフォンを鳴らし、「ただいま」と言う。
「おかえり。おやつあるから手を洗って」とお母さんが言う。
「そうだ……。お兄ちゃんに挨拶しないと」
私は黒い仏壇の前に座る。笑顔の兄の写真がそこにある。
彼と私の年齢の差は六歳である。
その彼は死んだことになっている。葬式は行われていない。遺体がないからだ。そういうのも彼はずっと行方不明になってるのだ。彼はどこに行ったのだろうか。
「何してるのよ?さっさとおやつ食べちゃいなさい」
「分かったー」
私は手を洗い、テーブルにあるケーキの前に座る。
『……エベレスト登山の最中、雪崩に遭遇して行方不明になっていた。荒目さんが見つかったそうです。では、彼のインタビューです』
ニュースキャスターがそう言う。
『いやー、まさか傘を使って争う人々がいるとは……』
『はい?』
何言ってんだ。このおっさんは。雪崩で頭を壊したか?そもそも何でこんなにピンピンしてんだ。二週間も見つかっていなかったのに。
「お兄ちゃんも見つかればいいのにね」
「ねぇ、あの仏壇しまおうよ」
「バカ言わないの。あれはおじいちゃんのもあるのよ」
「そうだった……」
正確に言うと彼の写真だけがおじいちゃんの仏壇を借りて飾られているのだった。
「まぁ、でもあなたもおじいちゃんに会ってないから仕方ないわね」
「あっ、今日五時に公園でみんなと待ち合わせをしてるんだ」
「そう。じゃあ、少ししたら出ないとね。七時前には帰るように促さないと家に入らせないからね?」
「分かってるよ。約束だもんね」
「傘、持っていきなよ。雨降るから」
その後、私はチョコケーキを食べ終え、リュックに折り畳み傘を入れる。他にも色々と役に立ちそうな物を詰め込む。
玄関の近くにある長傘を持つ。リュックのは忘れた子の分である。
「では、行ってくるね。お母さん」
「行ってらっしゃい」
私はこうして学校に向かった。
まさか、この後あんな世界に行くとは誰が知る由があっただろうか……。




