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六話「何もできない」
目の前に横たわる彼女やフードを被った人たちを見ても私は何もできなかった。ただひたすらそこに立ち尽くすことしかできない。体を動かす意思さえない。そんな私に傘が振り落とされる。もちろん、私は止めることはできなかった。
その痛みの衝撃に目が覚めた。目の前には赤いフードを着た男がいた。レッドアイさんだった。
「いつまで寝てやがる?遅いって言っても起きねえし……ん?何、泣いてる?」
私は右手で自分の右の頬に触れる。雫が手にこびり付いた。
「いや、別に……」
「ふむ。勘違いすんなよ」
彼は私の首元を後ろから手で押して彼の胸元に雪崩込ませるようにして倒させる。彼の胸に顔が当たる。
「気を張るな。お前はもう俺に守られる立場にいるから……だから今は泣いてろ」
私は彼にそう言われてその場で涙を流した。血の匂いに紛れた彼の体温が生暖かった。




