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第九話






 何の勝算もなく始めたが結果的に筋トレして飯食って体をでかくすることは間違っていなかったみたいだが、組手はどうやらゴブ太には向いてなかったみたいだ。


 そもそも闘争心ってものがコイツには全く感じられない。性格ってのも当然あるとは思うけど今までの生活で養われたものなんだろうな~。

 こればっかりはすぐに改善できることでもないし地道にやっていくしかねえか。ただ初日に見たゴブ太の仲間もガリガリだったし今のゴブ太なら寧ろ向こうが逃げるんじゃないか?


 日課にした組手が終わり、反射的に出てしまった俺の拳が顔面にあたって気絶してるゴブ太を見ながらそんなことを考えていた。


 実際肉体面だけじゃなく技術面でも成長してると思う。ゴブ太の繰り出す拳に少しずつ俺の余裕もなくなってきているからだ。まぁ、まだまだ手を抜いてはいるし本気になることもないのだがそれでも反射的に俺が手を出してしまうぐらいには成長した。

 正直ゴブリンの基本レベルってのはわからないが恐らくゴブ太の事を下に見ていた奴等を見返すぐらいにはなっているだろう。


 それに俺自身いつまでもこの生活を続けるわけにはいかないとそろそろ思い始めていたので、その日の夕食時に頃合いだと思い魚をいつもの通りがっつくゴブ太に告げた。






「なぁゴブ太、一ヶ月近くたったしそろそろ大丈夫だろ?今のお前ならもうアイツ等に負けねえよ!だから明日で訓練は終わりにすんぞ!」





 ゴブ太は俺の言葉に驚いた様子で目を丸くし、手にした魚を下に落とした。


 そんなゴブ太の様子を見た俺は何をそんなに驚いているのか正直わからなかった。いつまでもこのままここで生活をしていてもなにも変わらない。それはゴブ太にとってもそうだし俺にしてもだ。それは当たり前のように共通の認識だと思っていたからだ。


 それにこの生活はゴブ太を取り巻く状況を変えるために始めたことでこの終わりを告げた時はもっと自分の成長を喜ぶと思っていたが、俺の考えとは違い何やらゴブ太の様子がおかしい。


 だから次にゴブ太から発せられた言葉は俺にとって予想外だった。






「お、終わりってどう言うことゴブか!?ユージは俺の事が嫌いになったゴブか!?もういらないゴブか!?何か気に入らないことをしたなら、怒らせたなら謝るゴブよ!だから………だから終わりとか言わないでほしいゴブ………。」







 何をそんなに必死になっているのか理解することができず俺は黙ってゴブ太を見ていた。そして何故この生活を終わらしたくないのか俯き小刻みに震える様子で徐々にだがわかってきた気がする。


 多分ゴブ太のなかには最初から仲間を見返したいとか恨みを晴らしたいって気持ちはなかったんじゃないか?

 こいつが本当に望んでいたのはそんなことじゃなくただ仲間と一緒に同じ目線で生活をしたかったんだと思う。


 そしてそのキッカケになるかもと思って始めた生活で俺が考えるよりも遥かにゴブ太の心は満たされたんじゃないか?

 特別なことをしたわけじゃなく俺にとって普通に他人と接することこそが恐らくゴブ太が一番望んでいたものだったんだろう。


 それがある日突然終わりますって言われたら当然困惑するし必死でこの生活を守りたい、続けたいと思うわな。


 今までは知らずに過ごしていたからそれが普通と割りきれたけど、人の温もりってのを一度知ってしまってからじゃこれまで通りにはいかないだろう。




 一人って辛いからな………。




 ゴブ太は先程から黙って考え込む俺の様子をチラチラと見ている。

 俺の推測が正しければ次に発する言葉が怖くて仕方ないだろう。


 とにかく俺の考えをしっかり伝えないとどちらにしてもお互いの為にならないよな。


 俺はとりあえずゴブ太に近寄り左手をゴブ太の肩に置いた。






「ヒッ!ユ、ユージ………オブァ!」





 そして右手でゴブ太の頬をひっぱたいた。


 勢いよく吹っ飛ぶゴブ太。派手に飛んだが軽く叩いたつもりだったのですぐに起き上がると頬を押さえながら突っかかってきた





「なっ、なにするゴブか!?なんで俺が叩かれないといけないゴブ!?

「うるせえバカ野郎!」





 俺の勢いに圧され、ゴブ太が体をビクりとさせて黙った。








「てめえ男だろ!イチイチ下らねぇ事でメソメソしてんじゃねえ!自分の意思で一度決めた事なら、結果はどうあれ最後まで貫きやがれ!それをてめぇは何忘れてんだよ!アイツ等を見返すんじゃなかったのかよ!?強くなった自分をアイツ等に見せてやるんじゃなかったのかよ!?それをちょっとぬるま湯に浸かっただけで忘れるなんてその程度の決意だったのかよ!?そんな情けねぇ男に俺は付き合わさせられてたのかよ!そんなんだからいつまでもバカにされんだよ!この弱虫でヘタレのちびゴブ太!!!」







 一人になることは辛い。その辛さは俺が誰よりもわかっているつもりだ。だから今のゴブ太には俺が寄り添ってやることが大事なのかとも思ったが……きっとそれは違うはずだ。


 今このときに自分に自信をつけさせなければ、自分の弱さと向き合い克服させなければ一生コイツはこのままだと思う。


 この世界の仕組みなんて全くわからない俺がいつまでゴブ太の傍にいてやれるかわからない。

 ある日突然コイツの前から姿を消すかもしれない。そんな不安定で不確かな状況で半端な優しさなんて必要ない。今のこいつに必要なのは自分の足で前に歩く強さだ。


 そう考えた俺はゴブ太に強くあたった。




 だが話を聞き終えたゴブ太は俯く顔を上げ一言………






「怖いゴブよ………。」






 そんなことはこっちもわかっている。見ると再び顔を下げたゴブ太はポタポタと地面に涙を溢している。

 コイツの根性の無さは筋金入りってのも今日までの生活でわかっていた。だから当然すんなりいくとは思っていない。でもここで俺が折れたら意味がない。


 俺は再びゴブ太に近寄ると肩に手を置いた。さすがに先程殴られたばかりなのですぐに身構えるゴブ太を俺は無言で制して、次はしっかりと目を見て話すことにした。






「もう何もしねえよ。とりあえず聞け。」

「ほ、本当ゴブか?じゃまた明日から…」

「だから聞けっての。さっきも言ったがお前との訓練はこれで一旦終わりだ。今のお前なら十分アイツ等をビビらせることができるっての。今日まで付き合った俺が言ってんだから間違いねよ。それとも俺の事が信じられないか?」






 俺の問いにゴブ太は首を横に振った。






「ユ、ユージが嘘つくなんて思ってないゴブ。でも、それでも信じられないゴブ…。それにもし歯向かって仲間から外されたら今度こそ俺は本当に一人にてしまうゴブよ…。って何を笑ってるゴブか!ユ、ユージも俺をバカにするゴブ!!」







 必死で話すゴブ太には申し訳なかったが、俺はゴブ太の話を聞き最後には笑っていた。だって






「別にバカにしたわけじゃねえよ。つーか何言ってんだ?お前は一人じゃねえだろ。」

「ユ、ユージこそ何言ってるゴブか!?仲間から外されたら俺は今度こそ本当に一人に」

「俺とお前はもう仲間じゃねぇか。お前が本当に困っていたら、俺の事が本当に必要ならいつでも助けてやるっての。だから自分の事を一人とか言うんじゃねえよ。」

「!?」





 俺の言葉を最後まで聞いていたゴブ太は思う部分があったのか顔を上げたまま大粒の涙を流している。


 そんなゴブ太の前に俺は拳を突きだした。

 黙って自分の前に出された拳を見て先程から止めどなく出ている涙を一度拭うと、ゴブ太は俺の目を一度見たあと自分の拳を俺の拳に当てた。





「お、俺とユ、ユージは仲間ゴブな!?」

「おう、そうだぞ。まあ仲間って言うか『ダチ』だな。」

「ダ、ダチって何ゴブか?」

「あ~っと、あれだよ仲間よりもっと仲間ってことだよ。」

「仲間より仲間……。何かよくわからないが俺とユージは『ダチ』なんだゴブな!?」

「だからそうだって言ってんだろ。しつけえ奴だな。あっ、これをお前に1つやるよ。」




 

 俺はポケットの中に手を入れると、2つあるライターの1つをゴブ太に差し出した。

 ゴブ太は恐る恐るライターを受けとると






「こ、これはユージが使ってた火を着ける道具ゴブ!?これを俺にくれるゴブか?」

「おう。まあ俺もこっちに来てお前が初めてのダチだからな。友情の証みたいなもんだ!」

「ユージの初めてのダチ…。」

「ハッキリ口にしてんじゃねえよ!言葉にされるとちょっと恥ずかしいじゃねえか!」






 少し自分の台詞に恥ずかしくなった俺は照れ隠しに声を出し笑った。

 ゴブ太は手にしたライターと笑う俺を交互に見ている。






「ゴブ太、負けんじゃねえぞ!」





 俺の言葉に黙って頷くゴブ太。


 きっとコイツはもう大丈夫だろう。

 

 その日の夜は明日の別れを惜しむかのようにお互い下らない話を眠くなるまでし続けたのだった。




 


伝えたい事がうまく言葉にできなくて表現力の無さに絶望しております…。

ともあれ次回からやっと勇次の冒険が始まります!

こんな拙い文章ですが優しく見守っていただけると幸いです。


次回は月曜日の夜に更新予定です。

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