第六話
誰も見ていないと思いつつコツコツ継続させていただきます!
「…タユージ。おーい、モリタユージ。チッ……おいクソガキ起きやがれ!」
「いってぇなおい!どこのどいつだ俺を殴って起こしやがったのわ!タイマンで勝負してやっからかかって来やがれ!」
俺は突然の衝撃で眠っていた体を反射的に起こし気がつけば声のする方向に身構えていた。
だが脳が覚醒していくとともに周囲の異常さに気がつき、いつの間にか構えた拳を下ろしていたのだ。
その異常さとは………周りに全く色がない……。文字通り見渡す限り真っ黒の世界だった。そしてその真っ黒の景色の中に赤い髪をした目付きの鋭い男が一人立っていたのだ。
チッ…また夢の中で夢を見ちまってんのかよ…最近の自分の夢のおかしさにうんざりしていると目の前の男がニヤリと笑った
「残念ながら夢みたいなもんだが夢じゃねーよ。ちょっと遅くなっちまったが一応お前の現状だけは説明してやろうと思って眠ってるお前の精神世界に俺がわざわざ出向いてやったんだ。ちなみに俺様は神だ。」
「あっ?眠ってんならやっぱり夢じゃねーか!つーか神って…お前頭おかしいんじゃねえか?」
「チッ、口の減らねえ生意気なガキだな。」
男はそう言うと面倒臭そうにその場にしゃがみこんだ。だが俺の反応も間違っていないはずだ。いきなり出てきてここは夢じゃないだの俺は神様だのいきなり言われてすんなり納得できるはずがない。そもそもこんな神様がいるのかよってぐらい人相が悪いぞ。どこからどう見てもチンピラにしか…
「誰がチンピラだ誰が!」
「なっ!?なんでてめえ…」
「なんで俺の考えてることがわかったんだよってか?だからさっきから言ってるだろ、俺様は神だってよ。その神である俺様からしたらこの世界でお前が何を考えてるか読み取るなんて簡単なことなんだよ。わかったら黙って話を聞きやがれ。」
一先ず今の状況を考えてみた。考えてみたが…理屈は全く理解できないがどうやらこいつの前で何かを考えるだけ無駄ってことだけはなんとなくわかった。とりあえずこのままウダウダやっていても話が進まないことだけは理解した俺は渋々男に頷いた。
「いいか、簡単に説明すんぞ。ここはお前のいた世界とは別の世界なんだよ。以上だ!」
「てめえ舐めてんのか!?それだけ聞いて理解できると思ってんのかよ!」
話を聞いてみようと思ったがさすがに今の言葉にキレた。そして気がつけば俺は目の前の男に殴りかかっていた。だが目の前にいたはずの男はいつの間にか俺の背後に回り込み寝転がっていたのだ。その姿をみた俺は頭に血が上り更に寝転ぶ男に蹴りをくりだしていたのだ。だが反射的に蹴りをくりだしたとはいえ予想外の光景に驚愕した
「なっ、はぁ!?て、てめえ何者だよ!」
「だから何度も言わせんなって。俺様は神様なの。冗談も通じねえのかよ。落ち着けガキ。」
男は寝転んだままの体勢で俺の蹴りを片手で受け止め、先程どまでと変わらずニヤニヤしている。そして受けた足を振り払い男は体を起こし再び面倒臭そうに話を始めた。
「さっきも言ったが現実のお前がいる世界は俺様が作った世界なんだよ。この世にはお前がいた世界以外にもいくつもの世界があってだな、本来その世界同士に繋がりはないんだが今回偶然が重なってその世界同士が繋がっちまって更にタイミング良くそこにお前が突っ込んだってわけだ。ここまで理解したか?」
「だから意味がわかんねーよ。だけど何となくだが言ってることはわかった。でもよ、仮にお前が神様だって言うならもちろん俺を元の世界に戻してくれるんだよな?」
俺は当たり前の質問をしてみた。別の場所に着たとしても勿論自称だが自分を神と言うぐらいなら元の場所に戻せるだろうと思っての質問だ。だが男は目を閉じ頭をかくと一言
「無理だな」
なんてふざけたことをぬかしやがった!
「なんで無理なんだよ!?てめえが本当に神様でこの世界を作ったって言うなら何とかできんじゃねーのかよ!」
「まあそんなに怒鳴るなって。正確には無理と言うか………」
「なんだよ、勿体ぶってんじゃねえよ!」
それ以上言葉を続けない態度にイライラしていると男はやる気のない表情で
「面倒だ!」
などとふざけたことを言い放ちやがる。さすがに神の口から面倒なんて台詞が出るとは思わなかった。予想外の言葉に唖然としていると男は言葉を続ける
「さっきも言ったが本来世界同士ってのは繋がらないんだよ。それを無理矢理繋げるならお前が本来いた世界の神に話をつけに行って向こうの神と俺とで繋がなきゃならねえ。なんで俺がわざわざそんなことをするんだ?何のメリットもないどころかただ疲れて終わりじゃねえかよ。ってことで無理なんだよ。理解したか?」
理解なんて出来るはずがない。さっきからこいつは何を言ってるんだ?面倒臭い?疲れる?神様なんだからそれぐらいしてもいいんじゃないのか?じゃあ何のためにこいつはここに来たんだ?等と考えていると
「おいガキ、神様なんだからってのは無しだぞ。今回お前は運悪く別の世界に来ちまったよな?じゃあ何か?その運悪く不測の事態に陥った奴等全員に俺達神は手を差し伸べるのか?そこまで神も暇じゃねえんだよ。今回はイレギュラーすぎたから説明の為に俺様が出向いてやったがこれも普通じゃありえねえんだから寧ろ感謝しやがれ。」
キレそうになりながらも屁理屈にしか聞こえない男の言葉を聞き少し考えてみた。ん~、多少理解は出来る。ただ理解は出来ても納得なんて出来るはずがない。
癪にさわるがここはとりあえず下手に出てみるか。
「そっ、そこをなんとか頼むよ。俺が戻らねえとチームの奴等も困るしよ。ここは神様の力でなんとか一つ…」
「だから嫌だっての。面倒だって言っただろ。」
「ってめえ人が下手に出てんだからもう少し考えろやコラッ!」
やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。余計にイライラしてきたぞ。するとイライラする俺とは対照的にニヤニヤしながら自称神は一つの提案をしてきた
「さっきから何をウダウダ考えてんだ?。こっちで新しい人生を楽しめば良いだろ?ある意味で向こうのお前は死んでるんだからよ。」
「お、お前そんな簡単に!?っておい、死んだことになってるってなんだよ!?」
「さっきも言っただろ。これは色々な偶然が重なったお前からしたらただの不運なんだよ。でもよ、これが不意な死だったらお前はお前じゃなくなってたんだぞ。そう考えればこっちで新しい人生をお前らしく生きれば良いんじゃねえのか?」
そう言えば向こうの俺はどうなってんだ?突然失踪でもしたと思われてんのか?それとも自称神が言うように俺は死んだ扱いになってんのか?前者なら心配しているであろうチームのメンバーを安心させるためにも早く戻りたいが、後者なら…。そんな答えのでないことを考え込んでいると
「とりあえず伝えなけりゃいけねえことは伝えたからそろそろ帰るわ。第二の人生を不運と思わず楽しみ踊りやがれ。じゃあな。」
なんて一方的に告げて姿を消しやがった!こっちはまだ何も納得してねえのに!
「ちょ、待てよ!まだこっちは何も納得してねえぞ!てかよ、てめえせめて名前ぐらい名乗っていきやがれ!」
何もない空間に俺の声だけが響き渡る。だがそれ以降何の音も聞こえてこない。くそ…何もかも納得が出来ない。一方的に告げられて黙ってそれに従えなんて死んでも嫌だ。他人が敷いたレールなんてまっぴらごめんだ。
強制的に自分の進むべき道を無理矢理に決められ、やり場のない怒りを抱えながらその場に立ちすくんでいると
「チッ、面倒なガキだな。俺様の名はゼクスだ。縁があれば、運が良ければまた会えるかもな。つーか勘違いすんなよ、別にお前が気になったから戻ってきたわけじゃねえぞ。二つお前に伝え忘れたことがあったからだ。言葉はこっちで理解できるようにしてやった。あとはお前が元居た世界とこっちじゃてめえの身体能力に違いがあるからな。その辺はてめえで確認しやがれ。じゃあ今度こそ消えるわ。じゃあな。」
なんてこっちが話す間もなく一方的に告げて消えやがった。
くそが………わかったよ、上等だ!とりあえず自称神の言ったことが本当ならそれに従ってやるよ。その上で
「俺は俺の好きなように生きさせてもらうからな!てめえの世界が無茶苦茶になってもしらねえぞ!それと、いつかてめえの横っ面にワンパン決めてやがるから顔洗って待ってやがれ!」
夢だろうと思いつつ、自称神の言葉を全て信じたわけじゃないが、今この瞬間自分の中に沸いて出た気持ちを真っ黒な空間に叫んだのだった。