第五十六話
鉄を叩いた衝撃が拳から全身に伝わってくる。
またしても俺の攻撃は分厚い盾によって防がれたのだ。
「くっそ……お前らかなり戦い慣れてるよな~。つーかやっぱりアイツがリーダーとは思えねえんだけど、その辺どうなんだよ?」
「………。」
「はいはいっと。どうせ返事ないのはわかってましたよっと!」
「「火球」」
「ちっ、またこれかよ……オラァ!」
これで何度目かわからないが、先程から動き出そうとすると牽制するかのように炎をこちらに向けて撃ってくるのだ。
勿論そんなものは全て弾き返すのだが、どうしても一歩目が遅れてしまう。
そこに狭い建物の中ということも加わり俺の攻撃は単調になってしまい、あと少しのところで分厚い盾を持った二人に阻まれるのだ。
あと少し速く動くことが出来れば届きそうなのだが、その少しが中々うまくいかない。
実際のところ手がないこともないのだが、出来ることならこのままでコイツ等を倒したくて他の手を色々考えていた。
「「火球!」」
「ちっ、考える暇も与えねえってか!?」
しかしこちらが動きを止めると杖を手にした二人の魔術が俺に襲いかかってくる。
だがここで一つの違和感を覚えたのだ。
コイツ等……俺を倒すつもりあんのか?
俺が攻撃をしようと動いた時、それと足を止め打つ手がないか考えた時以外は基本むこうから攻撃をしてこない。
先程からこちらに向けられている魔術も、撃つのは単発でまるで牽制の為だけに使っているようなのだ。
でも倒すつもりがないとしたらいったい何が目的で……?
俺が目の前に居る四人の動きに疑問をもち攻めあぐねていると、下に居る二人の声が突然聞こえてきた。
「あっ、あんた達いったい何よ!?」
「……この人達もお金で雇われた冒険者達…?」
「どうしたぁ!?……って、マジかよおい!」
声が聞こえ直ぐに下を見ると、ポミとホミの二人の前に武器を手にした奴等が居たのだ。
そうか……どうも攻めてこないと思ったら、コイツ等時間稼ぎだったのか。
ここでやっと気がついた。どうやら目の前に居る奴等は最初から俺を倒す気はなく、自分達の仲間が来るまでの時間を稼いでいたのだ。
これはかなり不味い状況になった。
下に現れた連中が、もし俺の目の前に居る奴等と同じぐらいの実力ならポミとホミの二人だと分が悪すぎる。
ここは下に降りて二人の加勢をするべきだと判断した俺は、目の前にある階段に向かい動き出した。
「「火球!」」
「くそっ!さっきから馬鹿の一つ覚えみたいに同じことやりやがって。てめえら……俺を下には行かせねえってか……。」
「………。」
しかし俺が動いた瞬間、こちらの行く手を遮るように炎が邪魔をしてくる。どうやら俺をここに足止めして、先に下の二人をどうにかしようって魂胆らしい。
さっさと降りねえとまずいな。考えるのは一先ず止めて、とにかくコイツ等倒して二人のもとに行かないと……。
こうしている間にも、二人の周りに居る冒険者は少しづつ距離を詰め今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
するとその時、下に居る二人がこちらに声をかけてきた。
「こっちは私達だけで大丈夫!だからアンタはさっさとそいつ等倒しちゃいなさいよ!」
「……ポミは私が守る。」
「お、お前ら……。でもよ」
「私達姉妹を舐めるんじゃないわよ!そんな簡単にやられたりしないわ!」
下に居る冒険者は恐らく二人よりも格上だと思う。そんなことは本人達もわかっているはずなのに、俺にそう告げてきた。
これ以上ダラダラやってる暇はねえな…。
俺は気合いを入れ直し先程までは拳に纏わせていた炎の魔術を解いた。
目の前の奴等ぐらい何とかうまく倒せないかと考えていたのがそもそも間違いだったようだ。
「時間もねえし、ここからは本気でやるわ。」
「火球!」
「もうそれも飽きたっての。行くぞ…筋力増強…」
「!?」
俺が目の前の奴等に声をかけると、こちらに向けて炎を解き放ってきた。だがそれと同時にこちらも身体強化の魔術を唱えた。
正直この魔術は炎よりも使い慣れていない分制御が難しく今はあまり使いたくなかったのだ。
しかし、そんなことを言っている場合じゃなくなった。
ここで時間をかければその分だけ下の二人が危険なのだ。
俺は魔術を唱えると同時に前に飛び上がった。これは以前ラルさんに同じことをやられてその姿を見失った事を真似てみたのだ。あの時ラルさんのあまりの速度を目で追うことが出来ず、自分の前から消えたように見えた。そして俺の予想通り目の前の奴等も俺の姿を完全に見失っているようだ。
そしてそのまま降りる勢いを利用して杖を持った一人に飛び蹴りを食らわせた。
突然現れた俺に残りの三人は今だ動くことが出来ていない。その隙をついてもう一人の杖を持つ男に一気に詰め寄ると腹めがけて拳を撃ち込んだのだ。
「これでチマチマと魔術撃たれる心配はなくなったな。あとはてめえらだけだ!」
俺は先に魔術を使う二人を倒して、少し距離をとった。そこから再び盾を構える男に向かい駆け出したのだ。
多分今の俺ならいけるはずだ……。狙いは邪魔な盾ごとぶっ飛ばす!
これまでと違う動きをし始めた俺に、盾を持つ男達は素早く身構えて次の攻撃に備えているが、ここまでは手にした盾で俺の攻撃を全て防いできたが今回は今までと違う。
一瞬で男達の前に飛び込むと、俺は魔術で強化した拳を力任せに構えられた盾めがけて撃ち込んだ。
「これでどうだぁ!」
「「!?」」
すると俺の拳を受け止めるはずの盾は持ち主と共に大きく後ろに弾き飛んだのだ。だがそれで終わりではない。
俺はそのまま後ろに飛び倒れた男に駆け寄ると、盾を無くした無防備な体に拳を打ち下ろし意識を絶った。
残りは何が起こったのか理解できずにこちらを呆然と見ている盾を持つ男が一人だけだ。
これ以上コイツ等に時間をかけている暇はない。
既に下では戦闘が始まっているようだ。急いで駆け付けないと二人がヤバイ。
俺は今だ盾を構えること無く狼狽えている男に向かい駆け出した。そして先程と同じように正面から殴り倒したのだ。
これで最初に俺たちを待ち構えていた奴等は全て倒した。
「よっしゃ終わり!二人とも無事かぁ!?」
「きゃぁ!」
「……ポミ!」
そして下に降りようとしたその時、二人の叫び声が屋敷に響き渡ったのだった。




