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第五十話





 ラルさんが何を話すのか俺にも興味はあった。


 娘二人に父親が今ここで何をしているのかを隠して話すのか、それとも包み隠さず真実を全て告げるのかだ。

 正直ここまでの流れを見たら最後まで話すことはないのかと思っていたが、俺の予想は外れた。


 二人は大人しくラルさんの話を最後まで黙って聞いていた。

 父親が何のために王都に来て、この一ヶ月を今日までどう過ごしていたかラルさんのわかる範囲での全てをだ。


 そして話は昨晩俺が知っているところまで終わると、ここまで大人しく座っていたポミが急に立ち上がり部屋を飛び出していこうとした。

 その様子を見てラルさんは声を荒げることなく立ち去ろうとするポミに尋ねたのだ。



「何処へ行くつもりじゃ?まさか父の後を追って王の元へ向かうなどとは言わんわな?」

「何故まさかなのですか!?私…今から父様を助けに行きます!」



 ポミは必死の形相でラルさんに答えている。

 こうなることはポミの性格を考えれば俺にも予想できた。それはラルさんもわかっていると思ったのに…何故全てを話したんだ。

 今のところ口を挟むべきではないと思った俺は、もう少し様子を見ることにしようと思う。

 すると、ラルさんは今すぐにでも飛び出していきそうなポミに言葉を続けた。



「ゼファを助けに行くとは面白いことを言うのう。あやつでもなす術なく捕まった相手にお嬢さん一人が行って何になると言うのじゃ?」

「それは……。」

「……ポミを一人で行かせたりしない。行くなら私も一緒。」

「ホミ!」



 ここまで黙っていたホミも立ち上がり、ポミと共に父親を助けに行くと言い出したのだ。


 まあこの展開も予想できたわな。ポミ一人で父親の手助けに行かせるほどこの姉妹の絆が薄くないのもわかっていた。


 ラルさんは見上げる形で二人を見ている。そして一つため息をつくと諭すように話し始めた。



「ワシが全てを話したのは父の覚悟を知る権利がお主たちにはあると思ったから話しただけで、死地に向かえなどと言ったつもりはないぞ。そしてよく考えるのじゃ。お主ら二人が父の後を追って、ゼファが本当に喜ぶと思っておるのか?」

「それは……。」

「それにじゃ、先程も話したがゼファのやっとる事が王の意思に反することならお主らはただの反逆者になるのじゃぞ?そうなれば当然王都中が敵になり、仮に生き延びることが出来たとしても今後逃げ続ける生活になるじゃろう。それでも父の手助けをすると言えるのか?」



 家族三人が何とか生き延びることが出来たとしても王を敵に回してその国で今まで通りの生活が出来るはずがない。

 この世界の事はまだわからないが、仮に他に国があってそこに移り住んだとしても隠れながらの生活になるのは明らかだ。

 それに、ラルさんの言ってる事は間違っていないと思う。娘二人が自分を助けに来てくれたこと自体は嬉しいかもしれないが、父としてゼファが素直に喜ぶとは俺にも思えなかった。


 ラルさんの言葉を聞き二人も黙っている。恐らく二人もラルさんの言うことが最もだと理解しているはずだ。

 しかし理解はできても納得は出来ないのだろう。お互いの顔を見た二人は意を決意したようにラルさんに告げたのだ。



「ネウトラル様の仰有ることは理解できます。多分私たちが行って父が喜ぶとも思えません。それでも自分達の親が死ぬかもしれないと聞かされてこのまま何もせず黙ってこの場所に居るなんて私たちには出来ません!」



 真っ直ぐラルさんを見てポミがそう告げると、隣でホミも同じ意見だと頷いている。しかし言われたラルさんは先程までと変わらず穏やかな口調で二人を諭すように話を続けた。



「ふむ。お主らの気持ちは十分理解したが、父を助けに行くどころか逆に足を引っ張る可能性の方が高いのじゃぞ?」

「自分達の力はわかっています。何が出来るのか、むしろ出来ないことの方が多いのも十分承知してます。」

「王に逆らうことになれば王都にいるワシらも敵に回るかもしれんがそれも理解しておるか?」

「はい、それも理解しております!それでも私たちは父の元へ行こうと思います!」



 二人の意思は固く決まったようでラルさんの言葉を受け入れるつもりはないようだ。


 まあこうなると理屈じゃねえしな。多分ゼファさんが無事に帰らない限り二人の意思が変わることはないだろう。


 するとラルさんは諦めた様に二人に告げた。



「お主らの考えはようわかったわい。これ以上は何を言っても無駄じゃな……。ふぅ~、もう少し利口かと思っておったのにやはり父娘じゃのう。」

「申し訳ありません……。」

「別にワシに謝る必要はありゃせんよ。こうなれば父娘三人無事に戻ってこいよとしか言えんわ。」

「はい!それでは失礼します。」



 二人はラルさんに深々と頭を下げると部屋を出ていこうとした。しかし部屋を出る直前、急に立ち止まるとこちらに振り返ったのだ。



「ごめんねユージ。先に村に帰っておいて。」

「……戻ったら、また魔術の訓練しようね。」

「「じゃあねユージ……。」」



 それだけ言うと俺の言葉を待たずに二人はそのまま部屋を飛び出していった。


 じゃあねってか……。やれやれ……。


 二人の言葉を聞き、俺が椅子の背もたれに体を預けるように背筋を伸ばしているとラルさんが二人が出ていくのを黙って見ていた俺に尋ねてきた。



「それで、お主はこれからどうするんじゃ?」

「あ?どうするって何がだよ?」

「このまま帰るのか二人の後を追いゼファを助けに行くのかに決まっておるじゃろ。」

「あぁ~、そんなことかよ。当然俺の考えは決まってるよ。」

「ほう……?」

「しょうがねえからあの父娘……助けてくるわ。」



 ゼファさんに助けを求められた時は確かに断ったが、こうなったら話は別だ。ポミとホミには色々世話になったし、もう知らない仲じゃない。こっちに来てゴブ太とあの姉妹はもう自分の仲間、身内だと思っちまってるしな。

 そんな奴らが、死ぬかもしれないのに場所に向かったのに黙ってみてるなんて俺には出来ない。


 俺の言葉を聞きラルさんは二人の時と違い少し驚いた様子で尋ねてきた。



「てっきりゼファの時と同じようにお主はこのまま帰ると思ったが意外じゃな。」

「別に俺は正義の味方でもねえし、誰にでも手を貸すわけじゃねえよ。ただ自分の仲間が困ってるなら黙ってみてられねえよ。」

「その仲間の選択が誤りで助けたことで後悔することになってもか?」

「後悔?そんなもん後から考えりゃ良いだろ。とにかく目の前に自分達の敵がいるならそれを全部叩きのめすだけだ。」

「それがこの国の王だとしても?」

「それこそ関係ねえよ。俺この国に何の恩もねえし、邪魔するなら国とだって喧嘩してやるよ!」



 俺がそこまで言うとラルさんは突然大笑いし出した。

 

 何がそんなに面白かったのか全く理解できない俺をよそに、ラルさんは笑いが収まりきる前に話しかけてきた。



「無茶苦茶じゃなお主は。しかし、何の根拠もなく無謀なことをそれほどハッキリ言われたら不思議と何とかしそうな気にさせられるわい。」

「まあ自分でも無茶苦茶言ってるのは理解してるよ。でもまあ、何とかなんだろう。」

「それで策はあるのか?」

「策?そんなもんあるわけねえだろ。男なら正面から乗り込んでやるよ。」

「正面じゃと?お主真っ向から攻め込むつもりか?」

「それ以外の喧嘩のやり方は知らねえよ。それに行けばどうせ反逆者扱いされるなら派手にやった方が面白いじゃねえか。」



 ラルさんは呆れたような表情を俺に向けている。

 しかし正面から行く理由は他にもある。ゼファさんがいつここを出て、今どうなっているのか誰もわからないからだ。

 もしかしたら手遅れかもしれないと考えたら、余計なことをしている時間なんてないと思う。

 その考えもあって最短で王の元へ行く道は正面からしか思い付かなかった。


 さてと、ここでいつまでも話をしている場合でもないしそろそろ俺も行こうかな。


 俺は座っていた椅子から立ち上がり扉の方に向かった。それを見たラルさんは察したようで部屋を出る直前の俺に言葉を投げてきたのだ。



「これはワシの独り言じゃから返事はせんでよい…。恐らくゼファの推測通り王は普通の状態ではない。ただそれが本人の意思なのか操られているのかまではワシにもわからんが、協会の長としてではなくこの国に住む者としての願いじゃ。ユージ、王を止めてくれ……。他国との戦争は絶対に避けねばならんのじゃ……。」



 振り返ると俺に頭を下げるラルさんの姿がそこにはあった。

 動きたくても立場のある今の自分が軽率な行動をとれば周りに迷惑がかかるのを理解してここまで傍観するしかなかったのだろう。

 この瞬間は冒険者協会の長ではなく、一人の男としてその思いを託されて燃えない俺じゃない。



「まあ任せとけよラルさん。派手に喧嘩してくるぜ!」



 俺はそれだけ言うと冒険者協会を後にしたのだった。

今日で節目の五十話になりました!これからも百話、二百話と更新を続けて行きたいと思ってますので少しでも読んでやるよと思ってくれたそこのアナタ!ポチっとブクマ登録なんてしてくれたら嬉しく思います!

それでは今後ともよろしくお願いします!

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