第五話
二年ぶりの投稿です…。続きをずっと書こうと思ってはいたのですが私生活が激変してしまいなかなかタイミングが…。ただ少し時間がとれ始めたのでこの機会に再開させていただきます!
相変わらずの拙い文章ですが皆様よろしくお願い致します。
少し遅めの朝食をとり、腹が十分に満たされた俺は、ボーッと湖を眺めるゴブ太に尋ねた。
「なぁゴブ太、魚以外にも食い物ってこの辺にあんのか?」
ゴブ太は俺の問いに、少しだけ悩み口を開いた。
「あるゴブよ~。俺が分かるのは果実がある場所ぐらいゴブね。ユージ食べたいゴブか?」
良いことを聞いたな。果実があるってことは、木も生えてるだろう…。
さすがに魚だけ食べてるわけにもいかないし、他の物を口に出来るのはありがたい。それに、いつまで此処に居るかわかんねえけど、軽く小屋の補強と薪を調達するにも木材が必要だ。
とりあえずその場所には後で行くとして、俺は先程思い付いた今後の方針をゴブ太に説明する前にもう一つ尋ねてみた。
「ゴブ太よ、さっき腹が減らねえとは言ってたけど、逆に満腹にはなるんだよな?」
「もうこれ以上食べれない、とは一時的になるゴブよ。それがどうかしたゴブか?」
なるほどな。って事は食べないだけで、食べた物はしっかり消化してるんだから無駄じゃなさそうだ。
何度も頷く俺を見て、目の前で不思議そうに首を傾げながらこちらを見ているゴブ太に、今後の事を説明することにした。
「じゃあ鍛える約束もしたことだし始めるか!」
「い、今からゴブか!?べ、別に構わないけど……いったい何を始めるゴブ?」
「肉体改造だよ!」
「に、肉体改造……?……改造!?何するゴブ!?痛いのは嫌ゴブよ!」
「バーカ。本当に体を弄る訳じゃねぇよ。筋トレだよ筋トレ。」
「きんとれ…?」
案の定ゴブ太に筋トレと伝えても理解できない様子で、改造という言葉に何やら怯えている。
そうなのだ、俺が考えた事とは、ゴブ太の体をもう少し大きくすることだった。ゴブ太は見るからにヒョロヒョロで、ぶん殴ればへし折れそうな体をしている。聞けば食事も祿に摂らず、どうせ自分を鍛えたりもしたことがないだろう。
なので今日からは、毎日腹一杯飯を食わせて、合間に筋トレをして様子を観ることにする。
筋肉は直ぐに効果があるとは思っていないけど、普段食べない奴が毎日腹一杯食えば、体に何らかの変化があると思う。
それで数日様子を観て、変化がなければ……その時にまた考えればいいか。
とにかく目の前で不安そうにしているゴブ太に、筋トレの説明をすることにした。
「そんなにビビらなくても大丈夫だよ!今日からそのガリガリの体に肉を付けるって話だ。」
「肉をつける……?誰の肉を付けるゴブか?……痛いゴブか?」
「だ~か~ら~……いいや、説明すんのも面倒だし今から俺がやることをやりゃ良いんだよ!」
俺はそう言うと、うつ伏せに寝転がり体を伸ばす。そして、その状態から腕の力だけで数回体を上下させて見せた。
するとゴブ太は、俺の動きを見て不思議そうに尋ねてきたのだ。
「ユージ、何してるゴブ?それがきんとれゴブか?」
「ああ、そうだ。腕立て伏せってんだ。これをやると腕や胸に筋肉がつくんだよ。まぁ今のお前じゃ厳しいだろうが、ちょっとやってみろよ。」
「ユージは何を言ってるゴブ?そんなの疲れるはず無いゴブよ。何回でもやって見せるゴブ~。」
俺にそう告げると、ゴブ太は余裕の表情で始めた。 しかし、一回目二回目こそ鼻唄混じりのゴブ太だったが三回目以降腕がプルプルと震えだしたのを俺は見逃さなかった…。
そして五回目の体を起こす動作の時には……涙ぐんでいる。
「こ、これ以上無理ゴブ…。腕の感覚がないゴブよ…。ユージ…これは苛めじゃないゴブよな…?」
「バカ野郎!誰が苛めてんだよ誰が!オラ、せめてあと一回頑張ってみろよ!気合いと根性がありゃどうにかなんだろ!」
「うぅ~、もう…無理ゴブ…。ああぁ~!ユ、ユージ、腕がピーンってなったゴブ!痛いゴブよ!」
ゴブ太初めての腕立て伏せは、五回目で二の腕がつり終了……。
ある程度予想はしていたけど、俺の予想を遥かに越えた貧弱っぷりだな。
その後も少し休憩を挟みながら、腹筋や背筋等可能な限りの筋トレをゴブ太に教えてみたが、どれも十回を越えることはなかったのだ。
「はぁはぁはぁ……。きんとれ辛いゴブ。恐ろしいゴブよ…。身体中が痛いゴブ…。」
「ま、まぁ最初だしこんなもんだろう…。これを今日から飯食う前に毎日やるぞ!」
「ま、毎日ゴブか!?あの~、ユージ…。俺は別に飯を食べなくても…。」
「バカ野郎!お前には力が無さすぎんだよ!よく食べて、しっかり筋トレして、たっぷり睡眠をとる!んで、最低限の力を身に付けんだよ!?てめぇ、苛められたくねぇんだろ!?」
ゴブ太は俺の言葉を聞くと、下を向き黙りこんでいる。正直俺は素人だし、これで何かが変わる保証はない。だけど何もしないよりはマシな筈だし、そもそもこの甘ったれた根性だけは鍛えることが出来ると思う。
どちらにせよ、最終的に決めるのはゴブ太本人だ。仮にやるなら、約束した以上暫くは付き合うつもりだし、もしも諦めるなら此処でゴブ太とは別れて、俺は他に人が居ないか探しに行くだけの話だ。
「や、やってみるゴブ…」
「ん?」
少しの間物思いに耽っているとゴブ太が俺に向かって何か言ってきた。見ると先程まで俯いていた顔を上げこちらを見ている。そして俺が不思議そうな顔をしていると捲し立てるように言葉を続けた。
「だ、だからユージの言う通りにやってみるゴブ。魚を食べろとか筋トレとよくわからないけど…それでもユージが言うなら何か意味があるゴブよな?強くなりたいゴブ。アイツ等を見返したいゴブ。もうバカにされるのはいやゴブよ…。」
最後の方はハッキリと聞き取れないぐらいにか細い声になっていたが、その目は先程までの怯えや不安はなく決意した男の目になっている。
俺はゴブ太の目を見ている内に自然と笑みがこぼれていた。
そして気がつけばゴブ太の肩を勢い良く叩いていのだ。
「い、痛いゴブよ!ユージなにするゴブか!」
「ワリイワリイ。嬉しくて反射的に手が出ちまってたわ。」
「ユージは嬉しいと攻撃するゴブか…。こ、怖くて近寄れないゴブよ…。」
「別に攻撃した訳じゃねえよ!まあなんだ、改めてこれからよろしくな!」
俺はそう言うと拳を握りゴブ太の前に突き出した。
ゴブ太は自分の方に拳を向けられたことに一瞬ビクリとしたが、何となくこちらの意図を察したようで恐る恐る拳を握り俺の拳にコツンと当てたのだ。
「よし!明日からビシバシいくけどよ、その前に果実のある場所ってのに連れていってくれよ。魚ばっかり食ってたら飽きちまうわ。」
「そ、そのビシバシってのは素直に頷けないゴブがそこに連れていくのはわかったゴブ。あっちゴブよ。」
そう言いながらゴブ太は歩き出した。
この夢がいつ覚めるかわからねえし、ゴブ太の事もそうだけどまあなるようになんだろ。俺はそんなことを考えながら前を歩くゴブ太の後ろを付いていったのだった。