第四十九話
いやいや……こんな偶然ってあるのかよ。
確かにゼファさんを初めて見たときこっちで知り合った誰かに似てるなと思ったし、それがポミだと気がつくのに時間はかからなかった。
でも顔が何となく似てるなんて他人でも良くあることだしそれ以上深く考えることはしないだろ。
それがまさか父娘だったなんて……。
あまりの偶然のことに驚きを隠せないでいる俺に当然二人は詰め寄り尋ねてきたのだ。
「ねえ、もしかしてアンタ父様のこと知ってるの?昨日の夜に出歩いてたみたいだし、その時に会ったんじゃないの?」
「……ユージ教えて。」
「知り合ったと言うかなんと言うか……。」
完全にやってしまった……。二人がゼファさんとの関係を疑って当然の反応をしてしまったのは俺のミスだ。
ここは素直に知り合ったと白状するべきなのか……。
でも何処でどうやって出会ったのか聞かれても困るよな。まさかお前等の親父が牢屋に捕まってたから助けてやったよ!なんて言えるわけねえしな~。
俺がこの場をどう切り抜けようか悩んでいる間も二人からの詰問は続いていた。
「ちょっと答えなさいよ!父様はこの街に居るの!?」
「……正直に答えてほしい。」
「いや、まあ……あれだよあれ……。」
これは適当なこと言ってごまかせる雰囲気じゃない。
かといって正直に答えるわけにもいかないし……。
咄嗟にうまい事が思い浮かばなかった俺は、心の中で謝罪しながら二人の興味をとにかく反らすことにした。
「いや~、あれがお前等の親父さんだとは思わなかったよ。実はよ、魔術のことでラルさんに聞きたいことがあったからあの後もう一回冒険者協会を訪ねたんだよ。そしたらそこに親父さんがいて少し話したんだ。ホント偶然だよな~。」
「父様がネウトラル様のところに……?」
「……父様ならネウトラル様と面識があっても不思議じゃない。」
「俺も用件があって行ったからそこまで深く話をしなかったし、あの後どうしたのかまでは知らねえな……。」
とりあえずこの場はラルさんの名前を出すことで話を終わらせることにした。
昨日の二人の態度を見る限りラルさんの名前を出せばそれ以上は何も言わないと思ったからだ。
しかし俺の予想は完全に外れた。
「ってことはネウトラル様にお聞きすれば父様が何処にいるかわかるってことね…。ホミ!」
「……うん。ネウトラル様のところに行こう。」
何故か二人はゼファさんの居場所を突き止めようとしている。
これはさすがに不味いんじゃないのか?ゼファさんのやろうとしていることに娘二人を巻き込みたくないから何も話さずに行動していたのに、もし聞いてしまったら父親の手助けをすると言い出しかねない。
それは多分だけどゼファさんだけじゃなくラルさんの意思にも反することだと思う。
とにかく二人を止めようと思い俺なりに多少足掻いてみることにした。
「ちょ、ちょっと待てよ。何で急にそこまで親父さんを探すんだよ!?凄腕の冒険者で家を空けることも珍しくないなら別に探す必要なんてねえだろ?」
「確かに父様は凄いし今までも家を空けることはあったわよ!でも今回は……何か違うの。」
「……嫌な予感がするの。」
「嫌な予感ってなんだよ?」
「「このまま居なくなりそうな気がする。」」
「!?」
二人の真剣な眼差しに思わず声を失った。
俺にはわからない、ここまで長い年月を過ごした父娘だからこそ感じる部分があったのか二人はゼファさんの異常に薄々気がついていたようだ。
そしてそんな眼差しを向けられたら、俺にはこれ以上適当な言葉で二人を誤魔化す事ができなかった。かといって俺の口からこれ以上話せることがないのも事実なので、とりあえず二人を連れてラルさんの所に行くことにしたのだ。
「ゼファなら既にここを出たぞい。」
冒険者協会に行きラルさんの部屋まで通された俺達に、用件を聞くことなくラルさんはそう告げた。
既に出たってことは再び王様に会うために動いたんだよな…。
当然の事だが昨晩多少なりとも話を聞いている俺はラルさんのその言葉で何となく理解できたのだがここまで来た娘二人はそれで納得するはずがなかった。
「ネウトラル様!父はいったい何処に行ったのでしょうか!?」
「ふむ……やはりお嬢さん達はゼファの娘じゃったか。」
「なんだよラルさん、この二人がゼファさんの娘って知ってたのかよ。」
「別に知ってたわけじゃないぞ。お嬢さん達と最後に会ったのもかなり昔のことじゃからな。ただゼファさんから色々話を聞いておったし二人とも両親に似ておるからもしかしてとは思っておったわ。」
「なるほどな~。ゼファさんとポミは雰囲気とか似てる部分多いもんな。ってことはホミは母親似なのか?」
「そうじゃの~。妹の方は母親の若い頃にそっくりじゃわい。」
「……ネウトラル様……それで父様はいったい何処に?」
俺とラルさんが和やかに話をしていると、ホミが話を反らすなと言わんばかりに再びラルさんに父親の居場所を聞いてきた。
俺から言えることは何も無いと思い黙っていると、ラルさんの目が何故二人をここに連れてきたと訴えている。
そして俺とラルさんが目で会話をしている間も二人の視線は真っ直ぐこちらを向いている。
そしてその空気にとうとう耐えかねたのかラルさんが観念したように口を開いたのだ。
「はぁ~……仕方がないのう。このまま黙っていてもお嬢さん達が大人しく帰りそうにもないし……。しかしの~、何から話せば良いのやら……。」
「それでは父様はいったい何処へ行ったのでしょうか?そもそも父様はずっと王都に居たのですか?何もないのなら本当に良いのです……だけど今回はどこかいつもと違う気がして。ネウトラル様お願いします!何か知っているなら教えていただけないでしょうか!?」
「……お願いします。」
ポミとホミの二人は深々と頭を下げ、必死にラルさんから話を聞こうとしている。
そんな二人の様子を見てラルさんは小声で俺に話しかけてきた。
「なんじゃ、ここに来たから多少は小僧から聞いてきたと思っておったのに……お主何も話しておらんのか?」
「俺が勝手に話しちゃいけねえと思ったから二人にはゼファさんと知り合ったってことしか話してねえよ。」
俺とラルさんの会話が聞こえているのか、二人は俺達をジッと見つめている。特にポミから俺に向けられている視線が怖い。
やっぱりアンタ何か知ってたんじゃないと言われている気がする……。
ラルさんは俺が何も話していないことを確認すると、少し黙り考えている。
多分どこまで娘に話すべきなのか悩んでいるのだろう。
ここにまで来た勢いを考えると半端な理由で帰るとも思えないし、下手をしたら今の二人ならゼファさんの後を追って王様の元へ行くとも言い出しかねないのは俺でもわかった。
そしてラルさんの中で纏まったのか娘二人に父親の話を始めたのだった。




