第四十八話
「ちょっとアンタ、いつまで寝てるつもりよ!」
「……ユージ、もうお昼だよ。」
「んっ、ん~……。もうちょい寝かせてくれよ……。」
「宿の人に聞いたけどアンタ朝方帰ってきたらしいじゃない。次はどんなトラブルに巻き込まれてきたのよ!?」
ポミとホミの二人に無理矢理起こされたが眠すぎて全く頭が覚醒しない。
冒険者協会を出たときには既に夜は明けており、宿に戻った俺はそのままベッドに倒れるように眠ったのだ。
自分が思っている以上に昨日は疲れていたのだろう。
考えてみたら、ラルさんとは試験と言う名目で戦わされるし、それが終わったと思ったら次はゼファさんを助けるために乗り込んだしで一日中暴れていた気がする。
そりゃ疲れるよな……。
そんなことを当然知らないポミとホミは眠そうにしている俺に詰め寄ってくる。
「……昨日別れたときより生傷が増えてる。ユージあまり無理はしない方がいいよ。」
「ふぁ~……もう昼かよ。別に無理なんてしてねえし、これぐらいケガでも何でもねえから大丈夫だよ。」
確かに昨晩の老人の魔術で、痛みは然程無いにしろ身体中小さな傷がいっぱいあった。
俺が自分の体にできた傷をみていると、今だにベッドから立ち上がらずに座っている俺にホミが近寄ってくる。
「……今治してあげる。治癒。」
「ん?お~、わざわざ悪いな。ありがとなホミ。」
「ちょっとホミ、そこまで甘やかす必要ないでしょ!?それよりもアンタ今度はどこで問題を起こしてきたのよ!?」
「朝から……違うか。昼からお前もうるせえ奴だな~。別に問題なんて起こしてねえよ。」
「じゃあそんなに傷だらけで何してきたのよ!?」
詰め寄るポミに何て答えるべきなのか悩んでいた。
多分昨晩のことは二人に伝えるべきじゃない気がしたからだ。それはラルさんも本意じゃないから俺だけに依頼してきたんだとと思う。
まあ適当なこと言ってこの場は流しておく……ん?
とりあえずこの場を逃れるために何か嘘をつこうとポミを見たのだが、一つ昨日から悩んでいたことの答えが見つかり思わずその事を口にしてしまった。
「誰かに似てると思ってたけど、ポミと目元とか全体的な雰囲気が似てたんだな!いや~、スッキリしたな~。」
「はっ、はぁ~?あ、アンタ人の顔をまじまじ見たと思ったらいきなり何言ってんのよ!?」
ゼファさんを初めて見たときから誰かに似てると思っていたのが、まさか性別の違うポミだとは考えもしなかった。
「昨晩ちょっとしたことで知り合った人でさ。歳は俺達より全然上の男の人なんだけどさ、何か誰かに似てるな~って思っててな。でもそれが誰だかわからずモヤモヤしてたんだよ。そうか、あの人ポミに似てたんだな。」
「男性で、それも年上の人に似てるって言われても全然嬉しくないんだけど!」
「まあそう言うなっての。結構カッコいいおっさんだったぞ。さて、頭も動き出したしとりあえず起きるか。」
ここまで会話をして俺の頭もやっと眠りから覚めてきた。
とりあえずベッドから立ち上がり、背伸びをして軽く体を動かした。
するとホミが俺にこれからの事を尋ねてきたのだ。
「……私達はそろそろ村に戻ろうと思っているけど、ユージはどうする?」
「もう村に戻るのか?まだこっちに来て今日で三日目だぞ?」
「……往復の時間も考えたら四日になるよ。ユージはまだここに居たい?」
ここに居たいかと言われても特にやることないんだよな。目的は済ませたし別に俺も一緒に村へ戻っても良いんだけど、少しだけ気になることはある。
それは勿論ゼファさんの事だ。本音を言うと、昨晩手を貸してもいいかと少しは思ったが、何故かあの人の言葉が俺に刺さらなかった。別に真剣味がないとか言うつもりは全く無いのだが、心動かされるものが無かったのであの場を後にしたのだ。
多分あの人は再び王様の元へと向かうんだろう…。
今の俺が言えることは、全て丸く収まると良いよなってことだけだな。……旗色はかなり悪そうだけど。
ホミの問いに悩む俺に、今度はポミが声をかけてきた。
「アンタも一緒に村へ戻ったら?別にやることもないんでしょ?
」
「それでもかまわねえんだけどな~。つーかどうしたよ?俺が居ないと寂しいってか?」
「ちょ、アンタバカじゃないの!?アンタ一人残したらまたどんな問題起こすかわからないし、魔術の訓練もまだ始まったばかりでしょ!だから一先ず村へ戻ればって言っただけよ!それだけの理由!わかった!」
「わ、わかったよ。ちょっと冗談言っただけでそんなに怒んじゃねえよ。」
「わかればいいのよ!それに父様も居ないのに私達まで長く村を離れるのも少し心配なのよね。」
二人の父親か。そう言えば村を出るときに村長からも気にかけてくれと言われてたな。
確かその人も王都に来てるんだったよな。
俺はここまで全く聞いてこなかった二人の父親の事が少し気になったので軽く聞いてみることにした。
「そういやさ、別に無理に答える必要はないんだけどお前ら二人ってその父親と一緒に住んでて色々教わったんだよな?母親はどうしたんだよ?」
「とっくの昔に死んだわよ。」
「あっ、何かすまん……。」
「別に謝ることじゃないわ。私達がもっと小さい時の話だしね。凄く優しかった母様との思い出は今も私達姉妹の宝よ。」
「……うん。だから謝る必要はないよ。」
「そうなのか……。んでよ、家を開けてる父親ってのは頻繁に居なくなるのか?」
何となく気まずく感じた俺は母親の話をこれ以上聞くのは止めて、一ヶ月ほど前から留守にしている父親に話を変えた。
「……父様は凄く強い冒険者でみんなから慕われている。王都の人達とも面識があってこっちにもよく来る。」
「ってことは別に珍しいことでも何でもないんだな。それにしても凄腕の冒険者か。一度会ってみたいもんだな。」
「さすがにネウトラル様ほどじゃないけど父様も凄く強いわよ。ってアンタまさか挑むとか言うつもりじゃないでしょうね?」
「お前……俺をなんだと思ってんだよ?そこまで戦闘狂じゃねえよ。」
「でも突然どうしたのよ?今まで私達の両親のことなんて聞かなかったのに。」
お前等の父親が王都に居てるから気になったとは言わない方がいいだろう。
余計な心配をするかもしれないので、そこは一応村長から伏せるように言われてるしな。
「特に理由なんてないけど、昨日ポミに似た大人と出会って少しだけ気になったんだよ。もしかしたらどこかで会うかも知れねえし特徴言われてもわかんねえから名前だけでも教えてくれよ。」
「……ゼファだよ。」
「ゼファね。んっ……はぁ?今なんて言った?」
ホミから聞かされた名前に思わず驚き大声を出してしまった。
当然二人は俺が何に驚いているのかなんて知るはずもなく、こちらを見て戸惑っている。
今ゼファって言ったよな……。きっとこっちではよくある名前なんだろう…。
俺は聞き間違いかと思い再び名前を尋ねることにした。
「す、すまねえ。親父さんの名前なんだけどもう一回聞かせてもらってもいいかな?」
「……父様の名前はゼファだよ。それがどうかした?」
「その名前なんだけどさ、同じ名前の人って結構居たりすんのか?」
「ゼファって名前はこの辺りじゃ父様しか居ないと思うわよ。ってかさっきからいったいなんなのよ?」
どうやら昨晩俺が助けたのは二人の父親だったようだ。




