第四十五話
あのあと屋敷を出た俺達三人は、無事に冒険者協会に辿り着いた。ここに戻るまでの間、行きと同様に街外れのチンピラに何度か絡まれそうになったが手枷をつけたままのこの男性、年齢は多分四十代ぐらいの口髭を生やし切れ長の目をした男の顔を見るとチンピラどもは一目散に逃げていったのだ。
この辺じゃかなり顔の売れてる人なんだろうな~。チンピラどもの反応を見る限りかなりの手練れのように感じるし……。そんな人物があそこに居た奴等ごときに捕まるとも思えない。それにこの男性……目元と言うか顔の雰囲気が誰かに似てるんだよな……。
そんなことを一人考えながら特に会話もなく歩いていると、突然男性が立ち止まった。
「ん?どうかしたのか?」
「いや、冒険者協会に行く前にキッチリしておこうと思ってね。今更かもしれないが私の名前はゼファ。君には本当に感謝している。助けてくれてありがとう!」
「お、おう。改めて礼を言われると何だか照れちまうが、ゼファさんね……俺の名前は森田勇次。別にラルさんに頼まれただけだし気にしないでくれよ。」
「ユージ君か。今後もし私にできることがあれば何でも言ってくれ!今日の恩には必ず応えさせてもらうよ!」
ゼファと名乗った男性はそう言うと手枷が着いたままの右手をこちらに向けて出してきた。俺も躊躇うことなくその手を握り返し再び冒険者協会へと歩を進めたのだ。
そして協会の中に入り受付に声をかけると、係りの人はゼファさんの顔を見ると俺達にここで待つよう指示をし、凄い勢いでラルさんの部屋まで走っていった。
あまりの取り乱し様にこちらが少し唖然としていると、二階からこっちに上がってこいとラルさんの声が聞こえてきたのだ。
俺達は言われるがまま二階に上がり部屋に入ったのだが、ゼファさんはラルさんの姿を見た途端、もの凄い勢いで頭を下げている。
「ネウトラル様申し訳ありません!なんと言えば良いか、お詫びの言葉もございません。」
「まてまて、ワシは何もしとらんじゃろ。実際にお主を助けたのはこやつじゃ。礼も詫びもワシではなくこやつにせんか。とにかく中に入って座らんか。」
「はい……。それでは失礼します。」
とりあえず座るように言われたゼファさんは頭を上げソファーに腰を降ろした。
ここからは長い話になりそうなので、俺は先に立ったままの状態でラルさんに声をかけたのだ。
「ラルさん、悪いけどちょっといいか?」
「突然どうしたんじゃ?お主も気にしとった話をこれからするんじゃし、ゼファの横にでもとにかく座ったらどうじゃ?」
「いやその前によ、ゼファさんを助けた場所に他にも捕まってた人が居てさ、成り行きでその人も助けたんだけど……ラルさんなんとかしてもらえねえかな?」
「ほう……してその人物は何処にいるんじゃ?」
俺は入り口の前で立っていた女性をラルさんに紹介した。
女性はラルさんの姿を見ると深々と一礼をしている。その姿を黙って見ていたラルさんは女性が顔を上げると優しく声をかけたのだ。
「お嬢さんも大変な目にあっていたようじゃな。あとの事はワシ等が何とかしてやるから安心しなさい。悪いようにはせんからの~。」
「あ、ありがとうございます!」
「お主悪いが受付までそのお嬢さんを連れて行ってやってくれ。あとの指示はワシからしておくからの。」
「ん~、別にそれぐらい構わねえけど……じゃあ行こうか。」
俺はラルさんに言われ女性を受付に連れていくため部屋を出た。この場から立ち去る前に再びラルさんに深々とお辞儀をすると、女性は前を歩く俺の元へ駆け寄ってきたのだ。
そのまま女性を連れて一階に降り、再び受付に居た係りの人に声をかけた。この女性を保護してほしいという事と、今さっきラルさんに言われたことを伝えると係りの人は笑顔で奥の部屋に来るように女性に告げたのだ。
言われた女性は、係りの人に着いて奥へ行こうとしたのだが何かを耳打ちするとその場に立ち止まりこちらに向き直した。
「あの、助けていただいて本当にありがとうございました!」
「あ~、別に気にしなくていいよ。まあ何て言えばいいかわかんねえけどアンタも頑張れよ。」
「私の名前はリディア。リディアと言います!ユージさんまたどこかでお会いしましょう!」
「リディアね…。わかったよリディア、またどこかでな~。」
そう俺に告げると、再び係りの人が待つ方へとリディアは歩き始めた。
その様子を見届けた俺は再びラルさんの部屋へと向かったのだ。
「すまんかったの、何から何までお前さんに頼んでしまって。」
「ホントに人使いの荒い爺さんだとは思ってるよ。つーかよ、ラルさんにしてはよくすんなり保護する気になったよな?」
「ワシの事を一体なんじゃと思っておるんじゃ…?困ってる者が居れば手を差し伸べるのは当然の事じゃろ。」
「よく言うぜ。どうせ何か裏があるんだろうけど聞いたところで答えてくれねえのもわかってるよ。」
俺の言葉を聞くと、何が楽しいのかラルさんは愉快そうに笑っている。ただ本当に意外だったのも事実だ。
リディアを助けた場所がゼファさんが捕まっていた所なだけに、もう少し色々疑ってかかると思っていたからだ。
それに彼女が奴等の奴隷だったという事にラルさんが気がついてないとおも思えない。
俺が素直に納得せず疑いの眼差しを向けていると、ラルさんは少しでも疑念を解こうと思ったのか口を開いたのだ
「まあ思うところは多少あるがお主が助け出した人間だし無下にできんってのと、そこにおるゼファがワシの前に連れてきても良いと判断したのなら恐らく大丈夫じゃろうと思っての行動じゃわい。」
「ふ~ん。まあここは素直にありがとうと言っておくよ。」
それが本音かはわからないが一応ラルさんの考えも多少は聞けたのでリディアの件でこれ以上尋ねることを止め保護してくれたことを感謝した。
するとここまで笑顔だったラルさんが急に真剣な表情に変わり、座ったままの状態で入り口のところで立っている俺に頭を下げたのだ。
「モリタユージ、今回の件本当にありがとう。これは協会の長としてではなく、一人の人間として友人を助けてくれた事を心から感謝する!」
「ネ、ネウトラル様……」
「おいおい、突然どうしたんだよ!ラルさんにそんなことされると普通に焦っちまうよ!た、頼むからやめてくれよ。」
協会の最高責任者であるラルさんが、立場関係なく俺に頭を下げたことにこっちが困ってしまった。ゼファさんを見ると、頭を下げるラルさんを見て涙ぐんでるし……勘弁してくれよ。
しかし俺の言葉で顔を上げた時には、ラルさんはいつものヒョウヒョウとした雰囲気に戻っていた。
「本当にありがたいと思っての~、こういう事はキッチリしておかんとな。」
「いや……普通に焦るから止めてくれよ。それに俺は冒険者として依頼を受けただけだぜ。報酬さえ貰えればそれでいいっての。あとゼファさん!そんな図体でウルウルしてんじゃねえよ!」
「そんなこと言われましてもな……。そこまでネウトラル様に心配をお掛けしていたと思うと……。」
今だに涙ぐんでいるゼファさんの姿を見て、俺とラルさんはここまで我慢していた笑いを堪えることが出来なかった。
こっちの世界に来て、こんなに何も考えずにバカ笑いのしたのは初めてな気がする。
そして一頻り笑い場が落ち着き始めた時、ラルさんが口を開いた。
「さて、そろそろ本題に入ろうかの。もはや小僧も無関係とは言えんし……ゼファ、何があったかまずはお主の口から説明してくれんかの」
ここまでの和やかなムードも一変、ラルさんに促されゼファさんが重い口を開いたのだった。




