第四十四話
俺は鉄格子をこじ開けた要領で男性の足かせも引き千切った。
こっちは古びた鎖だったので先程よりも楽に壊すことができた。とりあえず歩くことさえ出来れば自分でどうにか出来ると思いまずは足だけ自由にしたのだ。
こうして俺と男性は牢の中から出たのだが、ここでもう一仕事残っていたことを思い出した。
「そういやこの姉ちゃんもこのままにしておくわけにはいかねえよな。」
俺は隣の牢屋に捕らえられている女性のことを思いだし、一先ずここから出すことにしたのだ。そして、先程と同じ要領で格子をこじ開けると中の女性に声をかけた。
「はぁはぁはぁ……。と、とりあえずこれであんたは自由の身だろ?これからどうするかは自分で決めてくれ。」
男性と違いこちらは拘束されていないので、牢屋から出ることさえ出来れば問題ないと思う。
これでやっと現状この場所で自分ができることを終え、男性と共にラルさんの元へ向かおうとすると、俺の言葉を受け少し考えていた女性が口を開いたのだ。
「あの~……私も一緒に行って良いでしょうか?」
「ん?俺は別に構わねえけど……問題ないよな?」
「その前にお嬢さん、幾つか聞きたいのですが、確かあなたは奴隷として買われた身でしたね?」
女性の言葉を聞き、俺としては特に問題はなかったのだか一応男性の意見も聞いてみることにした。すると男性は真剣な眼差しで女性に質問を始めた。
「はい……。多分そこで倒れている老人に戦闘要員の奴隷として買われたんだと思います。」
「なるほど……。それなら貴女の主人は死んだので自由の身にはなっていると思いますが、もう一つお聞きしたいのが何故戦闘要員の奴隷がこんなところに入れられていたのですか?少し耳にしましたが商品価値が無いとか……?」
確かに最初そんなことを口にしていた気がする。戦闘要員の奴隷で価値がないってのは俺も少し気になったので、口を挟むことなく二人の会話を黙って聞くことにした。
「暗殺対象を殺すことのできない奴隷に価値はないと言われまして…。」
「つまり任務に失敗してここに入れられたと…。わかりました、あとの事はネウトラル様のご判断に任せるとして、とりあえず貴女も一緒にここを出て冒険者協会に向かいましょうか。」
「ありがとうございます。」
どうやら無事に話は纏まったようだ。
ここに来る途中色んな奴等に絡まれてかなり遠回りしたが、とりあえず今は無事に済んでホッとしている。
こうして俺達三人は屋敷を出て冒険者協会へ向かった
しかしこの時、一人の男が屋敷から抜け出しある場所に向かっていたことを俺は知る由もなかったのだ。
●
チェイサー様が倒されるなんて……急いで報告しなければ。
階段の死角に隠れながらチェイサー様とユージとか言う冒険者の戦闘を見ていた俺は、悟られぬよう屋敷から抜け出し自分の遣える主人の元へと急ぎ向かった。
それにしても先日勧誘に失敗した男がここに現れたときはかなり驚いた。あの時顔を見られてはいないと思ったが、念のため姿を確認したときから俺は気配を隠し様子を見ていた。
それにしてもあのチェイサー様が為す術もなく倒されるなんて今でも信じられない。俺は先程自分の目の前で行われた戦闘を思い返しながらとにかく目的の場所へと急いだのだ。
「……夜分遅く失礼します……」
「こんな時間にどうしました?とにかく中に入りなさい。」
「はい、実はご報告いたしたいことが……。先程チェイサー様が……倒されました……。」
「ほう。その話、詳しく聞かせなさい。」
主人の居る場所まで辿り着いた俺は、屋敷で自分が見たことをこと細かく報告した。
こちらが報告している間、主人は目を閉じ腕を組ながら黙って聞いている。
「……そして最後はあの御方様の不利益に繋がらぬようご自身で命を絶たれました。」
「なるほど、御老体らしい死に様ですね~。ところでその冒険者とは何者なのでしょう?」
「はい……実は昨日ザンユ村から王都の冒険者協会に来た者で、どうやら送り込んでいた元百鬼夜行の者共を倒した人物と同じ冒険者のようです……。名前はユージと言い、ヤンキーとかいう組織を束ねているとか。」
「ヤンキー?そんな組織は聞いたことありませんが、ご老体を難なく倒す辺り相当の実力者の様ですね。それに牢に捕らえておいた者も自由になったのなら少し厄介なことになりそうですが…。」
「仰有る通り牢屋に捕らえていた者もこのまま何もしてこないとも思えませんし……いかがいたしますか?」
現状で自分がわかる範囲のことを全て報告した。その上で今後の指示を仰ぐことにしたのだ。
こちらと完全に敵対した奴等をこのまま何もせず放置するとは思えなかった俺は主人に尋ねた。しかし返ってきた言葉は予想外のものだった。
「構いません。放っておきなさい。」
「こっ、このまま何もせずにですか?」
「そうですよ。確かに多少実力は有るようですがそんな冒険者とその者が率いる聞いたこともない組織、何か出来るとも思えませんし、それはあの男にも言えることです。今となってはあの男がどう出ようがこちらとしては何の支障もありませんよ。」
「ですが現状チェイサー様と元百鬼夜行がその冒険者一人に倒されています。こちらとしても何か対策を……」
「心配性ですね~。どうせ近いうちにあちらから訪ねて来るでしょうしその時に一網打尽にすれば良いだけのこと。だけど貴方がどうしても気になるようでしたら彼等の監視を行ってください。話は以上です。」
「か、畏まりました……。失礼します。」
これ以上話すことはないと言われ、俺は主人の前から姿を消した。しかし、こちらから撃って出る気がないのは予想外だ。確かにユージと言う名の冒険者の行動は読めないが、牢屋に居た男なら必ず主人の前に姿を表すだろう。その時に対応すると言う主人の言葉も分からなくはないが……どうも嫌な予感がする。
それは多分、実際にこの目であの冒険者を見たからだろう。
正直不気味と言うか底が見えない。何かとんでもないことを、それこそ我らの組織を壊滅させかねない言葉にはできない不安が俺にはあったのだ。
「何かあってからでは遅い。この件に関しては自身の判断で慎重に行動しなければ……。」
主人に好きにしろと言われたのは理解していたので、自分で考えあの冒険者の動向を注意して見なければと気持ちを引き締め俺はこの場所を後にしたのだった。




