第四十二話
実はラルさんの通り名みたいなのを聞いたときからちょっと羨ましく思っていた。
まあそんなものは他人が決めることで、自分から名乗るのも恥ずかしいのは当然わかってはいるが、自分を表現するのに何が一番適切でどう呼ばれたいかと考えたらやっぱり一つしかない。
天上天下唯我独尊!ヤンキー街道まっしぐらの森田勇次ってのが一番しっくりくる。
こっちの世界に来て周りの状況が全くつかめず、流れに身を任せる形でここまで過ごしてきた。まだそこまで日にちは経っていないが、多少のことはわかってきたし今回ラルさんから頼まれてここに足を運んだ時からずっと考えていたのだ。ここからは俺らしく自由に生きていきたいと。
人に流されるのではなく、周りに何を思われても最終的には自分で考え自分で決める。それが本来の森田勇次のはずだからだ。
そんな決意みたいなものも籠めて俺はヤンキーと名乗ったのだが、目の前の老人は深刻な面持ちでこちらを探るように尋ねてきたのだ。
「今やんきい?と言ったか小僧?」
「違う違う、ヤンキーだよヤンキー!微妙に違うのわかるかな~。」
「ヤンキー……それがお主の所属している組織の名か?」
「そうかぁ~、そこから説明しなきゃならねえんだよな……。ん~、まあいいか。」
確かにこの世界の人間にヤンキーと言って通じるはずがない。
かといって説明しろと言われても、俺の生き様としか答えようが無いしな。
あんまり難しいことは俺も説明できないので、ここは一先ず老人の話しに乗ることにした。
「おう!ヤンキーってのが俺その者の名前と思ってくれよ!」
「つまり……お主がそのヤンキーの主と言うことじゃな。」
「説明がマジで面倒くせえけどそんな感じだよ!」
俺がそう答えると老人は再び黙りその場で何かを考え始めた。
しかし……ヤンキーの主ねぇ~。その場の流れで言ったものの、冷静に考えるとかなりダサいな。でも実際説明しようが無かったのも事実だしせっかくだからこっちの世界でもヤンキーって言葉を広めてみるのも悪くない。
すると先程から黙っていた老人が、これが最後だと言いながら俺に尋ねてきた。
「ヤンキーか……。ユージと言ったかの?最後にもう一度だけ聞こう。お主とお主が所有する組織丸ごと……あの御方に遣える気はないか?」
「悪いが全くねえよ。寧ろ、人を人とも思わない奴等の居る組織なんて俺がぶっ潰してやる。」
「ならば容赦はせん。先程までは小僧と侮って遊んでおったが、ここからはあの御方に弓引く愚か者としてワシが全力で消し去ってやる。」
「おう!ここからはこっちも攻撃させてもらうから覚悟しやがれ。」
再三の誘いをハッキリ断り、俺は身体中に広がるスピリトを高めるため集中した。
目の前の老人も、これは完全に勘違いなのだが俺を一つの組織の頭と認識したようで先程まであったこちらを見下すような雰囲気は消えている。
どうやらここまでは老人にとって遊びみたいなものと言うのも本当のようだ。
今までは右手に持った杖から魔術を発動させていたのに、ここにきてその逆の左手にこれまで以上のスピリトが集中している。
すると老人は俺が杖ではないところに注意していることを感じたのか、ダラリと下げていた左手をゆっくり上げ、掌をこちら向けてきた。
「杖ではなく左手を警戒するとはやはり勘が良いのう~。お主の想像通りもうこのオモチャは使わんよ。次の一撃で貴様を殺してやるからの~。結果的に楽しませてもらったお礼に最後ぐらいはワシの本当の力で終わらせてやるわい。」
「別に楽しませたつもりはねえけどよ、そうしてもらうと俺も助かるぜ。……んじゃそろそろ決着つけようや!」
「消しズミになれ小僧!火炎爆風!」
そう唱えると、老人の掌から通路全体に広がるほどの炎が俺に向けて解き放たれた。
確かにこれまでのがお遊びに感じるほどの威力だ。
それに、ここまで大きいと避けることなんて到底無理だし、ましてや先程の様に素手でどうにかできるとも思えない。
だとしたら……残された道はこちらも攻撃するしか道はねえよな……。
俺は身体中に張り巡らせたスピリトを右拳に集中させる。
以前村で力任せに解き放った火の魔術だと、確実にこの程度の炎なら消すことはできるはずだ。しかしここは地下室……そんな魔術を使えば俺達だけじゃなく牢の中の人も含め全員が生き埋めになる可能性があるのでここでは使うことはできない。
じゃあどうするか……。
魔術はイメージ……。自分の想像した物をそのまま拳にのせて解き放てばいい……。
炎で殴り付ける……行くぜ!
「おらジジイ!これでも食らいやがれ!灼熱爆拳」
「なっ、なんじゃと!?」
俺は迫り来る炎に目掛けて右拳を振るった。
すると俺のイメージした通りの、拳の形をした特大の炎の塊が目前まで迫っていた炎にぶち当たる。
そして俺と老人の魔術がぶつかり合った瞬間、こちらに向けられた炎は跡形もなくその場からかき消えたのだ。
「そ、そんな馬鹿な……。ワシの魔術が……。貴様何者……。」
「何度も言わせんなよジジイ。俺はヤンキーだっての。」
「そ、そんな……うわあああああああああ。」
老人の放った魔術は消し飛んだが、俺の撃った炎の拳は今だ健在でそのまま真っ直ぐ進むと老人の体にぶち当たったのだ。
火力よりも威力を強くイメージした為、老人は焼けると言うよりは強く殴られた形で吹き飛び、入り口横の壁に体を打ち付けるとそのまま崩れ落ちた。
それにしても、ラルさんの時もそうだったけど俺って魔術のセンスあるんじゃね?等と錯覚してしまうほど我ながらイメージ通りに魔術を使うことができた。
でもこれは自分一人の力ではなく、僅かの期間だが俺に魔術を教えてくれた人間のおかげでもあったのは十分理解している。
「あとであの二人にも礼を言わなきゃならねえな。さて、その為にもさっさとここでの用件を済ませないとな。おーいジジイ、生きてるか?」
俺は入り口の前辺りでうつ伏せに倒れたまま動かない老人に近寄った。声をかけても返事がなかったので、とりあえず倒れる体を足で転がし仰向けの状態にした。
まあ今ので殺してしまったとしても正直何も思わない。殺るか殺られるかの世界ってのは理解してるし、今回たまたま俺が殺る側だったと解釈するだけだ。
そういう意味ではこっちの世界では普通かもしれないが、元いた世界では完全に壊れていると思う。
仰向けにしても老人の反応がなかったのでこれは死んだんだと思った俺は、振り向き様に背後から攻撃されても困ると思い老人の体を通路の隅に移動させることにした。
そして持ち上げようとした時、ここまで反応がなかった老人に動きがあったのだ。
「うっ……ううううう……」
「ビビったぁ~!?死んだんじゃなかったのかよ?おーい、聞こえるかジジイ~。」
「うっ……いったい何が起こったんじゃ……。」
どうやら気絶していだけの様で、辛うじて息はある。
しかし状況が理解できていないのか意識が朦朧としてるなか俺に尋ねてきた。
「何が起きたって俺の勝ちだよ。ジジイの魔術を真っ向からぶち破って、てめえを叩きのめしてやったぜ。」
「ワシが負けたじゃと……」
「まあてめえらが何企んでるのか知らねえし興味もねえが、今回みたいに俺の邪魔をしたら全員叩きのめしてやるんで……そこんとこ夜露死苦!」
そう言うと俺は倒れる老人に向けて親指を突き立てたのだった。




