第三十九話
色々考えてはみたが、結局屋敷に殴り込む形になってしまった俺は現在十数人の男に囲まれていた。
ただこの場に居る奴等に上下関係はなさそうで立場的なものは全員同じように感じる。ただ、その中でも一際声の大きな者がその場に居る奴等全員に叫んだのだ。
「このふざけたガキをこの場から無事に帰らすわけにはいかねえ!野郎共、行くぞぉ!」
「うおおおお!」
「いや、お前らうるせえよ……。」
そして男達は掛け声と共に一斉に襲いかかってきた。
とりあえず俺は、入ってすぐの広間から屋敷の中へと続く廊下へと向かうことにしたのだ。
そして廊下に差し掛かり、前に誰の気配も感じないことを確認してからその場に立ち止まり振り返った。
ここで後ろから追いかけて来る奴等を迎え撃つことにしたのだ。
広い場所では全方位に意識を向けなければならないが、こうした狭い場所だと前から来る奴を相手にすれば良いだけなので対処も楽だった。
そうとは知らず男達は一人、また一人と順番に襲いかかってくる。それを一人ずつ叩きのめして残りの数が少なくなってきたところで俺は目の前に居る奴等に声をかけたのだ。
「てめえらこれで全員かよ?もっと歯応えのある奴はいねえのか!?多少は楽しめると思ってここに来たのに見当違いだったな。」
俺は男達を挑発してみた。ここで全員叩きのめすのは簡単だがもし他の場所にこの屋敷を仕切る奴が居るならそいつに連絡を取ると思ってだ。仮にここに居る奴で全員ならそれはそれであとからゆっくり探すだけだし俺としてはどっちでも良かった。
だが俺の予想は間違っていなかったようだ。
見ると残った一人が別の一人に、俺に聞こえないぐらいの声で何かを伝えていた。そして言われた方の男はこちらとは逆方向に慌てて走り去っていったのだ。
今の状況でここから走り去る理由は……応援を呼びに行ったか、もしくはここに捕らえている人物を別の場所に移すぐらいしか俺には思いつかない。
とにかく居なくなった奴の後を追うことにしよう。
そうと決まれば目の前の奴等にこれ以上時間をかけている暇はない。ただ慌てて奥に行くような素振りを見せるわけにもいかないので、俺は居なくなった奴に気がついてないフリをしながら再び目の前の奴等を挑発した。
「本当にこれで全部見てえだな。つーか、お前ら雑魚過ぎ。こんなことならその辺のガキ捕まえて遊んでた方がよっぽど有意義だったわ。マジでつまんねえ……。もう良いや、俺帰るからそこ空けてくんねえか?」
そう言うと俺は無防備に男達に近づいた。自分達への興味が無くなったと思ったのか、見ると男達の大半はホッとしているようだ。
だがそれも全員ではなく残った半分ぐらいの奴だけで、残りの半分は当然の様に俺の言葉に怒りを露にしている。
そしてその内の一人が我慢できず、無警戒の俺の前に立ち塞がった。
「クソガキがぁ!舐めた口ききやがって!ぶっ殺してやる!」
「ちょ、ちょっと待てって!今あのお方を呼びに行ってるから無茶なことはするんじゃねえって。」
「うるせぇ!このまま黙って帰らすわけに行かねえだろ!」
今……あのお方とか言ったよな?ってことはここに捕まってる人は居ないのか?
俺が男達の会話に聞き耳をたてながら歩いていると、一人の男が仲間の制止を振りほどきこちらに斬りかかってきたのだ。
どちらにしてもこの場所ではなくこの奥に用の出来た俺としては、通りすがりの奴と思われている方が都合が良くまずはこの場に居る奴を自然に倒していこうと思う。
俺が前方から迫り来る攻撃を横に避けると、こちらに向かっていた刃物は勢い良く木造の屋敷の床に突き刺さっていた。その剣を再び構える前にまずは襲いかかってきた男を気絶させる。そして降りかかる火の粉を払うかのようにその場に居る奴等をついでに叩きのめしたのだ。
考えるほどスムーズにはいかなかったが、これで入り口付近で絡んできた奴等を全滅させれたと思う。
さて、確かこの奥に行ったんだよな。
俺は先ほどこの場所を離れた男の後を追うことにした。
建物は二階建てになっているが正面に階段は無かったので、とりあえず走り去っていった方に俺も進んでみたのだ。
途中いくつか部屋があり、一応目にしたドアを片っ端から開けて進んでいる。だが今のところドアを開けて一瞬だけだが中を見た感じ、どの部屋にも何もない。
今更になってもっと早く後を追うべきだったと多少後悔しつつも、とにかく俺は先へと進んだのだ。
すると、ちょうどコの字に進んだぐらいの恐らく入り口とは真逆の位置辺りに階段を見つけることが出来た。
二階へと続く階段と、地下へと続く階段を。
これはどっちに進むべきだろう?
これはあくまで俺の偏見だが、偉い奴は上にいる気がするし仮に誰かを捕まえておくなら地下って感じなんだよな。
とりあえず今わかっていることは、あのお方と呼ばれる入り口で出くわした奴等より格上の奴がこの屋敷内に居るってことだけだった。そして奴等の一人があのお方を呼びに行っていると…。
ってことは……放置しておいてもそいつは俺のところに来るのなら、ここは俺の偏見である地下には人質が居る説を信じて下に降りてみるのも有りな気がする。
よし、悩んだら自分の直感を信じてみよう。
俺は何の根拠もないが、ここは下に降りてみることにした。
一応薄暗いが地下へも明かりが続いていたので警戒しながら俺は降りていったのだ。
そして上からでは分かりにくかったのだが、階段を降り始めて直ぐに扉の前に辿り着いた。
一階の部屋の扉とは違う重苦しい雰囲気に、俺は何が飛び出してきても良いように右手で拳を握り、左手でドアノブを掴むとゆっくり扉を開けることにした。
中を見てみると……やはり俺の予想は当たっていた。
どうやらここは地下牢のようだ。
見たところそこまで広くない牢屋が真ん中に通路を挟んで左右に三つずつあった。
手前から順番に中を覗きながらゆっくりと進んでみると真ん中の牢屋の中に人影が見える。
俺はラルさんに頼まれた人かどうかを確認するため牢屋に近づいた。中を覗くとこちらに気がついたのか、捕らえられている人物は顔を上げた。
見た瞬間にわかったがこの人は違う。
俺が探しているのは年齢も特徴も聞いてくるのを忘れたが性別は男性のはずだ。
だが中に居たのは俺とそう変わらないぐらいの金髪の女性だった。ただどこか人間離れしていると言うか……。
俺が見とれるように女性をじっと見ていると、それを不振に思ったのかか細い声でこちらに声をかけてきた。
「あ……貴方は誰……?商品価値の無い私の命を奪いに来た人……?」
ん?自分のことを商品価値って言ったよな…?
俺はこの時、昨晩俺を襲ってきた奴の仲間でその時に聞いた言葉を思い出した。
「あんた…奴隷ってやつか……?」
俺の呟きに牢の中の女性は顔を伏せた。多分俺が少し人間離れしてると感じたのも昨日聞いたハーフエルフってことなんだろうと直ぐに理解できた。
昨日も聞いた時に思ったが、馴染みの無いせいもあるが奴隷って響きは好きになれない。むしろ嫌悪感を感じる。
だが今の俺にはどうすることも出来ないのも理解していたので、とりあえずさっき女性が口にした不安だけは解消してやろうと口を開いた。
「あ~っと……俺はユージってもんだけどよ。ここには人探しに来ただけで、あんたに危害を加える気はねえよ。信じてくれ!」
「ユージ……さん。人探しですか……。」
「そうだ、人探しだ。あんたここ最近でここに男が捕まったか知らねえか?」
俺が何のためにここに来たかを伝えると女性は表情を変えることなく隣の牢屋を指差したのだ。
「貴方の探している人かは知らないけど私が入る少し前から隣に男の人が……。」
「マジでか!?やっぱり俺の感も中々冴えてやがるな!」
目的の人物かまだわからないが、どうやら隣に男性が捕らえられているらしい。
女性のことは気になるが、まずはラルさんから頼まれた人間か確認しようと思う。
だが……俺が隣の牢屋を覗こうとしたその時、コツコツと誰かが階段を降りてくる音が地下室に響いてきたのだった。




