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第三十七話





 先程一番最初に気絶させた筈の、目付きの鋭い黒髪の男が何事もなかったかの様にゆっくりとこちらに近付いてくる。


 リーダー格の男以外は全員気絶させ、しばらく立つことが出来ないと思っていたので、俺はこの得体の知れない男に思わず身構えていた。

 するとその男は、俺が警戒したことを察したのかこちらに向けて両手をブラブラさせてきたのだ。



「そう身構えないでください。今ここで争う気はありません。それに、正面からまともに戦って貴方に勝てると全く思えませんしね。」

「ケッ、そんな言葉信じれるかよ。てめえいったい何もんだ?あれだけ派手にぶっ飛んで、何で平気で立ってられんだよ!?」



 男は俺の問いに取って付けた様な笑顔を浮かべ一言



「飛びました。」

「飛んだぁ~?じゃあ何か、殴られたふりして自分で派手に飛んだって言うのかよ。」

「いや~、想像してたより貴方の拳が鋭くてタイミングはギリギリでしたけどね。でもてっきり貴方もわかっていると思っていましたよ。だって全く手応えなかったでしょ?」



 ん?手応え……そうか…。


 俺は今の男の言葉を聞き、こっちの世界に来てからずっと感じていた違和感の正体をやっと知ることが出来た。


 こっちに来て何度か拳を振るったが、ここまで一度も人を殴った感覚がなかったのだ。骨と骨がぶつかる痛みや、人を殴ったときに感じるズッシリとした重みも何も感じていなかった。

 だから目の前の男が飛んだとき、自分の攻撃が当たったかどうか疑うこともなかったのだ。


 とにかく現状でその原因がわからない以上、これからはもっと相手を見る必要があると思う。しかし、目の前の男は簡単に飛んだと言うがそれは言うほど簡単なことじゃないはずだ……。

 

 一応戦う意思はないと言っているが、素性もわからない男の言葉を素直に信じるつもりはない。

 それもかなりの腕の持ち主なのは確実なだけに、簡単に警戒を解くことも出来なかった。


 そう考えて男の動きに注意していると、今まで体の力を抜きその場に立っていたのを突如止め、こちらに向かってきたのだ。



「そう言われても本当に今は貴方と争う気は私には無いんですよね~。……とりあえず邪魔者を排除してから話を聞いてもらうとしますか。」

「だからてめえ何言ってやがっ……マジかよ……」

「がはぁ……」



 言葉とは裏腹に謎の男は突然俺に向かい飛び掛かってきた。

 俺は反射的に手を出したのだが、この男の狙いはどうやら別のようだ。


 こちらに向かってきたと思ったが、俺の攻撃をギリギリで避け横を素通りすると、先程まで対峙していた大柄の男の眼前まで詰め寄り手にした剣を躊躇うことなくその喉元に突き刺したのだ。


 あっという間の出来事に大柄の男は反応することもできず、剣を突き刺されその場に倒れた。そして再び立ち上がってくることはなかったのだ。


 突然のことに俺も一瞬状況が理解できなかったが、生き絶えた男を見て我に返った。




「おい!別に殺す必要は無かったんじゃねえか!?」

「おやおや、何を怒っているのですか?この場に必要無いものを貴方の代わりに排除しただけじゃないですか?」

「てめえが決めるんじゃねえよ!それに俺は命までとる必要はねえだろって言ってんだよ!」



 

 殺された男とは当然初対面だし、実際のところ生死もたいした問題じゃなかった。ただ俺の目の前に立つ男の態度が気に食わなかったのだ。俺も含め自分以外の人間をまるで虫ケラのように見ているその目付きに単純にイラついていた。


 しかし当の本人はなぜ俺が怒っているのか心底理解できない様子で話を続けようとしている。



「ふむ……何をそんなに怒っているのか理解できませんが、そろそろ本題に入りませんか?」

「あっ、本題ってなんだよ?今はそんなことより、てめえのそのすかした面一発殴らせろ!」

「やれやれ、困った人ですね。とにかく一度落ち着いて私の話を聞いてみませんか?貴方にとって悪い話では無いと思いますよ。」



 完全に俺と目の前の男では気持ちに温度差があった。

 もしかしたら俺にとって本当に有益な話なのかもしれないが、どうしてもこの男の話を聞く気になれない。


 寧ろイライラする俺を見て小バカにするような男の態度に、こっちの我慢もそろそろ限界になっていたのだ。



「あー、ダメだわ。さっきからごちゃごちゃ言ってるけど、まずはてめえを叩きのめさねえと俺の気がすまねえ。ってことで殴らせてもらうわ!」

「ふ~、本当に困ったお人ですね。ここで無駄なじか……」

「だからうるせえよ!黙って寝てろ!オラァ!」



 話を聞くにしても無視するにしても、まずは目の前の男を殴らないと進む気になれなくなった俺はとにかく行動に出た。

 今度は先程と違い相手に反応する暇を与えないよう俺は拳を強く鋭く振るったのだ。


 しかし踏み込みも拳のスピードも上げ、確実に顎を捉えたと思った俺の拳は寸前で男に避けられた。それも一度だけではなく、続けざまに繰り出した拳全てが空を切ったのだ。



「くそっ、チョロチョロと鬱陶しい奴だな!」

「貴方に勝てるとは思えませんが、私も避けるだけなら多少の自信はありますからね。さて、そろそろ気も済んだでしょ?いい加減私の話を聞きましょうよ。」

「だからてめえの人を舐め腐った態度が気に食わねえって言ってんだよ!」



 俺は男の言葉を拒絶して、拳を止めることはしなかった。

 だが確かに自分でも言うように避ける技術はたいしたもので、先程から俺の拳は一度も当たることなく寸前のところで全て避けられていたのだ。


 さて、どうしたものか……。


 攻撃を避けられる度、徐々に俺の頭が冷静になる。だがそれは話を聞くと言うことではなく、単純にどうすれば目の前の相手を叩きのめすことが出来るのかを考えるために。


 そして幾度となく上半身の動きだけで器用に避ける男を見て俺の頭に一つの案が思い浮かんだ。



「そろそろ終わりにしませんか?いつまで不毛な時間を続ける気ですか?」

「あぁ、確かにこの時間には俺も飽きてきたわ。」

「良かった。やっと話を聞く気になったんで……。」

「ならねえよ!」



 そう言うと俺は、先程までと違いただ殴りかかるのではなく、拳を避けられたあとの相手の次の動きを予測して距離を詰めた。そして殴るのではなく捕まえる事を優先したのだ。正直殴るよりも、ただ相手の体に触れるだけなら容易いはずだと思い行動したのだが結果は楽勝だった。



「つ~かまえた。これでもう逃げられねえぞてめえ!さて…覚悟しやがれよ!」

「!?」



 一度捕まえてしまえばこっちのものだった。俺は一気に相手を引き寄せると、払い腰の要領で地面に叩きつけたのだ。しかしそれで倒すつもりはなく、あくまで逃げられないようにするためにだ。

 相手の体を掴み足元に転ばしてしまえばこっちの勝ちだった。

 

 俺は倒れる男の腹目掛けて拳を振り下ろしたのだ。



「ぐっはぁ……」

「オラオラ、一発で勘弁してもらえると思うなよ!散々人のことを舐めたんだ、気のすむまで殴らせてもらうからな!」



 そう言うと俺は、二度三度と倒れる男目掛けて拳を振り下ろした。


 そして男が動かなくなったのを確認出来たぐらいで俺の溜飲も下がったのだ。



「あ~、スッキリした!さてと、無駄な時間食っちまったし、とりあえず片っ端から聞いて回るか。次はどっちに行こうかな~」



 横たわる男を見て気分も多少晴れた俺は、当初の目的を果たすためその場から動くことにした。

 とりあえず人の居そうな場所に行こうとしたその時、背後から声がしたので足を止め振り返った。



「こ……殺して行かないのですか?」

「まだしゃべれんのかよ?結構強めに殴ったのにお前もしぶといね~。つーか何で喧嘩でイチイチ殺さなきゃならねえんだよ?バカじゃねえのか?」

「ほ、本当に変わった人だ……。い、今更ですが……あ、貴方の目的の場所はこのエリアの外れにある古びた屋敷の筈ですよ……。」

「へー、まあ参考にはさせてもらうわ。んじゃ行くわ。」



 一方的に告げられたが、ここまでの流れで素直に聞く気もないのでとりあえず頭の隅にでも留めておくことにした。

 

 そして今度こそこの場を離れようと歩き始めると背後で男が立ち上がった気配がしたのだ。しかし俺が振り返ることなく歩き続けると今だ話し難そうにしながらも言葉を投げてきた。



「わ、私の名前はツヴァイ。また何処かでお会いしましょう!」

「俺はユージ。別にこっちは会いたかねえよ。」

 


 俺はそれだけ返し、振り返ることなくその場から立ち去ったのだった。

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