第三十六話
俺は今王都の中でも治安が悪く、普通の人は余程の事情がない限り足を運ばない場所に来ている。
最初この場所の話を聞いたときは大袈裟だと思ったが、実際に来てみて思ったことは……あながちラルさんの言ったことは嘘でもなさそうだ。
実はあの後、冒険者協会を出た俺は一度宿に戻り二人が寝静まるのを待ってから再びラルさんの部屋を訪ねた。
理由は、どうも最後のラルさんの俺達に謝罪したのが芝居がかってた気がしたのと、部屋を出る間際に俺だけに何かを伝えたそうにしていたからだ。
もしかしたら勘違いかもしれないと思ったが、もし俺の勘が間違っていなければあの部屋で待っているだろうと思い足を運んでみた。
そして俺の勘はどうやら正しかったようだ。
一応ラルさんの部屋に行く前に受付に声をかけたら、そのまま行くよう言われた。
「思ったより遅かったのう。」
「早く来いとかそれは無茶だっての。むしろ何も言われてないのに来たことを褒めてほしいぜ。それで……いったい俺に何をさせたいんだよ。」
部屋に入ると、挨拶もほどほどにしてここに俺を呼んだ理由を聞くことにした。
ラルさんの様子から察するに、恐らく宿で眠っている二人の耳には入れず、俺にだけ頼みたい依頼なのだろうとは思っている。
「話が早くて助かるわい。実はお主にある男の救出を頼みたいんじゃよ。」
「人を助けるってまた面倒臭い依頼だな。まあ別にかまわねえけどよ。んでそいつはどんな奴でどこに捕まってんだよ?」
正直殴り込みに行く系の依頼の方が気は楽だった。しかし自分の意思でここに来て、少しでも話を聞いた以上受ける前提できているので、無駄に時間を使う気のない俺はさっさと必要な情報だけを聞こうとしたのだ。
「これまた話が早いの~。それとも何か急ぐ理由でもあるのかの~?」
「別に理由なんてねえよ。ただ、どうせ俺が聞きたいことも上手く受け流されるなら、今は流れに乗っかって自分の目で色々確認した方が早いと思っただけだよ。」
「なるほどの。じゃが今回ワシが依頼する男を助け出せたら、今日お主がワシに聞きたかったことも解るはずじゃ。」
「チッ、やっぱり何も知らないなんて嘘じゃねえか。まあ今さらとやかく言う気もねえんだけどな。んでよ、さっさと本題に入ろうぜ。」
ラルさんの口から聞かされたのは、王都の外れにならず者や行き場を失った者達ばかりが集まる場所があること。そこはある意味隔離されたような場所で、そこで何が起こっているのか外部の者が知ることはなかなか難しいらしい。
そして村を出る前に俺も少し聞いた話しなのだが、今の王都内に信じられない噂が蔓延しているらしい。その噂を気にした一人の男が調べている途中消息をたった。他の人間を雇い最近わかったのだがどうやらその噂を調べていた男は何者かに捕まったと。その男はラルさんの古くからの友人でどうにか助けてほしいというのが俺への依頼だったのだ。
「でもよ、そんなのラルさんが問答無用で殴り込んでエリア全部潰せばはええんじゃねえの?」
「お主バカなことを言うな~。確かにそれは可能じゃが、捕まっておる者の命や相手の目的も全て無視しなければそんな手は使えんわい。」
「言われてみれば確かにそうだな。」
「それに今のワシには協会の長という立場があるから昔みたいに自由には動けんのじゃよ。」
「ラルさんも色々大変なんだな。んじゃま、取りあえず内容はわかったし断る理由もねえからさっさと行って助けてくるよ!」
こうして俺はラルさんからの依頼を直接受けて王都の外れに来たのだ。
部屋を出る直前にラルさんからは、そこに住む者全て無闇に信じてはならんぞと言われた。正直大袈裟だと思ったが実際この場所に来てその意味が何となく解った。
先程からこの辺を初めて歩く俺の事を何人もの人間がまるで品定めするかのようにジロジロ見つめている。
そしてその視線には、敵意や殺意といった負の感情が込められていることがハッキリと伝わってきているのだ。
とりあえず俺はその視線を無視して辺りを見渡しながら歩き続けた。
ただこういった連中がいつまでもジッと眺めている筈がないことも俺は十分理解している。
「ちょっと待て!おい貴様、見ない面だがここがどんな場所かわかって足を踏み入れたんだろうな?死にたくなければさっさとここから出ていくことだ。」
そろそろ来ると思っていた……。
一人の大柄な男が、俺の行く手を遮るように立ち塞がってきたのだ。全身を覆う筋肉と、獲物を前にこの余裕の表情から恐らくこの辺でも少しは名の通った奴なのだろう。
その証拠に、言われて足を止めるた俺を囲むように数人の男達が何処からともなく現れたのだ。
目の前の男の表情から、一人でも負けない自信はあるのだろう。それでも周りを仲間に取り囲ませたのはここから俺を逃がさないためだ。
後ろをチラッと見ると、全員下卑た笑みを浮かべている。
俺が周りを軽く見渡し自分の状況を再確認していると、目の前の男は再び俺に質問してきた。いや、質問と言うよりも完全に威嚇している。
「おい貴様!黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!?ぶっ殺されたいのか!とまあ……最初に声をかけたのが俺達で貴様は運が良いぞ。普通よそ者がこの辺を歩いて無事で済むことは殆んど無いが、今なら身ぐるみ全部置いて帰るならそれだけで見逃してやる!どうだ、嬉しいだろ!」
見ると周りの奴等もニヤニヤと笑いながら男の言葉に頷いていた。こいつらの様子を見る限り、普通の人はこの時点で怯えて男の言う通り全てを差し出すのだろう。
だが俺の場合は、今初めての経験に少し感動していた。
「いや~、俺生まれて初めてカツアゲにあったわ。自分がすることもねえけど、地元で俺にそんなこと言う奴なんて誰もいねえからちょっと感動するな。」
「はっ、はあ?」
男は自分が思っていたのとは違う予想外の反応を俺がしたせいか呆気にとられている。
だがそれもほんの一瞬の事ですぐ我に返り、先程までの余裕の表情から一変、明らかに怒りの表情で俺に怒鳴り突っかかってきたのだ。
「き、貴様~!こっちが優しく出てやれば意味のわからないことを言いやがって!どうやら痛い目にあわないとわからないみたいだな!」
「何言ってんだよ?ここは天下の往来だぞ?どこを歩こうが俺の勝手だろうが。良いからそこを退けよ……って普段は言うところだがよ、こっちもてめえらに聞きたいことがあるから大人しく質問に答えろ。」
俺も目的があってここに来ている以上、相手を無視することも問答無用で全員叩きのめすわけにはいかなかった。
だがそんな気持ちなんて相手に解るはずもなく、当然男の怒りは更に増している。
「大人しく答えろだと?もう勘弁ならねえ。野郎共、この世間知らずに世の中の厳しさをわからせてやれ!」
「まあ当然こうなるよな。仕方ねえな……まずはてめえらから全員叩きのめしてやるよ!」
そう言い終わると同時に、いつの間にか俺のすぐ後ろまで迫ってきていた男を必要以上に派手に殴り飛ばしたのだ。
一発目で普通じゃないとその場に居るもの全員に思わせることで相手の行動を遅らせるのが目的だ。
俺の目論み通り出足の遅れた者から一人ずつ殴り気絶させていった。そして一人、また一人倒れていく度に残された者はその光景を見て恐怖で体が動かなくなる。
こうして俺はリーダー格の男だけを残し一瞬で周りの男達を気絶させたのだ。
その光景を呆然と見ていた男は、我に返ると虚勢を張るかのように大声で叫んできた。
「お、お前何者なんだ!そ、そうだわかったよ!聞きたいことがあるんだったよな!?お前の強さに免じて答えてやるから何でも聞いてくれよ!?」
「急に素直になったじゃねえか。まあその方が手間省けてこっちも助かるけどよ。それで俺が聞きたいことは……」
「その男は多分何も知りませんよ。貴方が知りたいのは……この辺で一人の男が監禁されてるはずだけど、その場所に心当たりはないか?……ですよね?」
この場で立っているのは、俺と目の前の男以外居ないはずだった。だから突然後ろから聴こえてきた声に俺は驚き振り返ったのだ。
するとそこには居たのは、先程一番最初にこちらに近付いてきて、俺が派手に吹き飛ばした細身の男が何事もなかったかのように立っていたのだった。




