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第三十五話





 うっかり出ていきそうなところをポミに止められた俺は再びラルさんの前に座っている。


 するとラルさんが半ば呆れた表情で口を開いた。



「お主そそっかしいにも程があるぞい。まだワシから試験のことで伝えとらんこともあるじゃろ?」

「試験のことで……?あっ、そうか。俺の等級ってのはどうなったんだよ?」



 確かに合格とは言われたもののその結果自分がどうなったのかを聞いていない。

 

 それにしても、さっきまで忘れていたとは言え改めて試験の結果を聞くって響きはなんだか緊張する。

 しかもラルさんもさっさと答えてくれればいいのに、何故か今になって考えてるのか目の前で黙ったままだ。


 そして固唾を呑んで待っている俺にラルさんは結果を告げた。



「ユージおめでとう。今日からお主の等級はアパタイトじゃ。今後一層お主の活躍を祈っておるぞ!」

「え~っと、今の俺が最低のタルトで……ポミとホミが確かフローライトだからその一つ上だったか?」


 俺はラルさんに言われたものの、それがどの程度なのかすぐに理解することができなかった。

 するとそんな俺よりも二人の方がいち早く驚きと喜びを表したのだ。



「アパタイト!!!くそ~、やっぱりあたし達より上になるわよね。……でもあれだけの試験に合格したんだから当然の結果か。とにかくおめでとうユージ!」

「……おめでとうユージ。私達も負けていられない。」

「おう!全く実感は湧かねえけどありがとな!」



 どこか悔しそうにしながらも、二人が心から喜んでくれているのが表情でわかったので俺は素直に礼を伝えた。


 しかしここでポミは何か疑問に思ったのか、恐る恐るラルさんに質問を始めたのだ。



「あの……ネウトラル様!失礼を承知でお聞きしても宜しいでしょうか!?」

「ふむ?別にそんなに恐縮せんでもよい。して、何をワシに聞きたいのじゃ?」

「ありがとうございます!その……ユージの等級のことなのですが………結果に不満があるとかではないのですが、本当にあの試験を合格したユージはプレナイト級なのでしょうか!?」



 そんなことをラルさんに言い出したのだ。


 要するにポミは俺がプレナイト級ってのに納得できないのか?

 でも、試験を受けた時点で一応フローライト級って言われてたんだし合格した以上それより上なのは別におかしくないとは思うんだけどな?


 俺はイマイチ質問の意図がわからず、とりあえずこの場は黙って様子を見てみることにした。


 質問をした当のポミはラルさんの返答を不安げに待っている。

 そして暫しの沈黙のあとラルさんが口を開いた。



「なるほどの~。お嬢さんから見てこやつにプレナイト級はまだ早すぎると……そう思ったということじゃな?」



 俺が考えたことをラルさんはポミに返したのだ。


 するとポミは慌てた様子で首を横に振ると、俺の予想とは逆の事を言い出した。



「ち、違います!そうじゃなくて、あの試験でのユージは本当にすごいと思いました!正直今の私達とは比べ物にならないと感じるほどです。でもそのユージの実力が、本当に今の自分達より一つ上のプレナイト級なのかと思うと俄に信じることができなくて、失礼を承知で質問させていただいたのです……。」



 どうやらポミは俺がプレナイト級になったのが不満なのではなく、プレナイト級止まりだったのが不満らしい。

 横に座るホミも同じ意見の様で、ポミの言葉に無言で頷きラルさんをジッと見つめている。


 ポミの言葉の真意を聞かされたラルさんは目を閉じ何かを考えているようだ。

 そして軽く息を吐くと、目を開け話し始めた。



「お嬢さんの言うようにこやつの力はプレナイト級以上だとワシも思っとるよ。」

「だ、だったら!」

「まあ待ちなさい。確かに実力は上級冒険者並みかそれ以上あるのはワシも認めるが、それだけじゃこれ以上の等級をやることはできんのじゃよ。」

「と言いますと……?」

「まあ簡単に言うなら実績不足じゃわい。こやつは元百鬼夜行の幹部を捕まえた。だがそれだけではまだまだ足らんということじゃ。上級冒険者ともなれば街や協会から直接名指しで依頼がくることもある。それは実力だけじゃなく冒険者としての信用も備わっていないとダメなのじゃよ。言わば冒険者の代表みたいな存在かの~。だから今回はまだプレナイト止まりというわけじゃ。」



 力だけあっても今以上の等級になるのは無理ってことがラルさんの説明で良くわかった。


 どうやらポミとホミも同じ考えらしく、胸のつかえがおりた今はスッキリとした顔をしている。



「どうやら三人とも理解してくれたようじゃな。もっとも、当の本人は何とも思っていなかったように感じたがの~。」

「人をバカみたいに言うんじゃねえよ。何とも思ってないんじゃなくて、何にも知らねえんだから仕方ねえだろう!」

「まあ良いわ。後は何の話しじゃったかの~?これで終いだったかな?」



 これで試験の話しも無事に終り、この場も解散だと言わんばかりの態度をとるラルさんに俺はまだ肝心なことを一つ聞いていないことを思いだし追及した。



「ラルさんそれはねえだろ?昨晩俺達を襲ったやつの話しはまだ聞いてねえぞ。」

「やっぱり覚えておったか。」

「さすがに昨日の今日で忘れたりしねえよ。んでアイツらは何者なんだよ?」



 昨晩突然現れた謎の三人組。


 最初は酒場で揉めた奴の仲間が報復に来たのかと思ったが、そうじゃないことはすぐにわかった。奴等は俺達に仲間になれと言っていたが、その意思がないとわかると次は命を奪いに来た。

 難なく二人は撃破したのだが、残りの一人には逃げられてしまったのだ。それも仲間の命をきっちり奪い口を封じ手から。


 その事をラルさんに伝えるも試験が終わったあとに話すと言われ、それ以上の事を昨晩は聞くことはできなかった。


 そして漸くラルさんの口から事の真相を聞けると思ったのだが何やら様子がおかしい。


 一向に話す気配がない。

 とりあえず大人しく待ってはいるが当のラルさんは上の空と言うのか、見ていると心が他の場所に行っている気さえしてきた。


 そしてとうとう我慢できなくなった俺はラルさんに再び同じ質問をした。



「おい聞いてんのかよ!アイツ等はいったい……」

「すまんかった!お主達を囮に使ったんじゃ!」

「はっ…?え……?」



 するとラルさんは突然俺達に頭を下げてきたのだ。


 全く予想していなかった状況に俺達三人は呆然と頭を下げるラルさんを眺めていた。

 そんな俺達にラルさんは畳み掛けるように話し出したのだ。



「最近になって新人冒険者が街で暴漢に教われる事件が頻発しておってな。一応こちらも対策を練って対応しておったのじゃが相手の方が一枚上手で全く成果が出ておらなんだ。そんな時に元百鬼夜行の幹部を捕まえた謎の新人の噂を聞いて申し訳ないと思いながら利用させてもらったんじゃ!本当にすまんことをした!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよラルさん……。今回もまんまと逃げられたって事はアイツ等の正体は……」

「皆目見当もついておらん!本当に申し訳ない!」



 まさか冒険者協会が何も知らないとは思いもよらなかった。

 横を見るとポミとホミの二人はラルさんの勢いに圧倒されて今だ無言のままだ。


 しかし……目の前にいるここの最高責任者であるラルさんがこうやって俺達に頭を下げている時点で、この件についてはこれ以上の事を知るのは無理だと思った。

 

 全てスッキリしたわけではないが、これでここにいる意味も無くなったと思った俺は、今度こそ出ていこうと席を立ち上がったのだ。



「別にそんなに謝らなくてもいいよ。結果的に俺達は誰も怪我一つしてねえからよ。でも二つ約束してほしい事がある。」

「おお、ワシにできることなら何でもかまわんぞ。」

「まず一つは、アイツ等の情報が手に入ったら言える範囲で良いから教えてくれよ。」

「了解した。可能な範囲でお主に伝えるとしよう。それであとの一つはなんじゃ?」

「もう一つは俺を利用するのは好きにしてもいいけどよ、こいつらを巻き込むのは勘弁してくれよ。こっちは約束って言うよりお願いだな。あんまり自分の周りの人間が振り回されるのを見るのは好きじゃねえんだよ。」



 自分だけがトラブルに巻き込まれるのは別になんとも思わない。

 でも仲間が俺のせいで危険を伴うことに巻き込まれるのは我慢できない。


 そんな俺の考えを理解してくれたのか、ラルさんは俺の願いを聞き入れてくれたのだ。



「あいわかった!約束しよう!何かあってもお主だけ巻き込むことにしよう!」

「いや……別に俺の事を巻き込む必要はねえと思うんだけどよ……。まあ良いか、とにかくこの二つは約束してくれよ。」



 ラルさんは俺の言葉に笑顔で頷いてくれた。


 それを見た俺は今度こそ冒険者協会を後にしたのだった。

 

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