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第三十四話






 無事に追加試験も終わり、俺は動かなくなった体を治してもらうためホミに癒しの魔術をかけてもらった。



「おお~!マジでホミの魔術ってスゲーな。さっきまで全く動かなかったのが嘘みたいだぜ。ありがとな。」

「……これだけは得意だから。」



 癒しの魔術は本当に凄かった。使い手の少ない魔術らしいのだがこれは完全に医者の必要ないなと思う。


 体の痛みも消え、俺はやっと面倒なことが終わった解放感でその場で大の字になっているとラルさんがこちらに近づいてきた。


 一先ず体も動くようになったし、俺はとりあえずその場に立ち上がると、ラルさんに今後の事を話した。



「さてと、これで俺の等級はどうなるんだ?それに昨晩は教えてもらえなかったアイツ等の事も……」

「まあそう慌てるでない。ここで話す事でもないし、一度協会に戻るぞい。ワシもお主に聞きたいことがあるしの。」

「確かにそうだな。んじゃ戻るとするか。」



 俺達はラルさんの言うように、一先ずここを出ることにしたのだ。








「まず最初に追加試験合格おめでとう。ワシも久しぶりに動いて疲れたわい。」

「何言ってんだか。こっちは正直死ぬかと思ったぜ。でもまあ、とりあえず終わって今はホッとしてるよ。」



 ラルさんの言葉に俺は素直な感想を述べた。

 最後の方は目の前にいた化け物のせいで生きた心地がしなかったのも事実だからだ。


 そして今はそんな様子を欠片も見せていないラルさんだが、何やら試験の時に気になったことがあると俺に尋ねてきた。



「さてお主もワシに聞きたいことがあるのはわかっておるが、先にこちらの質問に答えてもらっていいかの?」

「それは別にかまわねえけどよ。俺に答えれることなら何でも聞いてくれていいぜ。」

「ありがたい。ワシが聞きたいのは、試験の間お主なぜ自分の行動を制限しておった?油断や怠慢とも違うと思ったのじゃが理由がイマイチわからんでな。」

「なんだそんなことかよ。つーかよ、それラルさんが言うか?」



 俺の返答にラルさんはニヤリと笑う。

 どうやらそれだけでわかってもらえたようなのだが、横にいた二人には当然解るはずもなく説明を求めてきたのだ。



「ちょっとユージ、私達にも解るように説明しなさいよ!行動を制限ってどういう意味?手加減してたってこと?」

「それはワシが答えてやろう。こやつは別に手を抜いていた訳じゃないんじゃが、自分の意思でワシに一切手を出してこなかったのじゃよ。」



 俺が答えようとすると、何故かラルさんがポミに説明を始めてくれたのだ。



「それは単純にネウトラル様の攻撃が激しすぎて手が出せなかったんじゃないんですか?」

「確かに最後の方はその可能性もあったが、そこまでは何度もチャンスはあった。じゃがただの一度もワシに攻撃する意思を見せなかったのじゃ。」

「でもそれの何が行動の制限なのですか?」

「そうじゃの~。例えば訓練をする時、生きている者以外を相手にすると反撃される心配をすることなく自分のタイミングで好きなようにその物を攻撃できるじゃろ。じゃがそれがこちらの予想できない攻撃をするかもと考えたとき、相手の反撃も警戒しながらの行動になるのでこちらの動きもある程度予測される…」

「確かにその方が相手を自分の有利になるように動かすことが出来るから守りやすいですね!それなのにユージはわざと手を出さず自分が不利になる状況で試験を受けていたと……。それは何故でしょうか?」

「何故なのかの~。ここからは本人に聞いてみるといい。」



 するとここまでポミに説明をしていたラルさんが突然こちらにその答えを求めてきた。

 ポミだけじゃなくホミもその答えが知りたいようでこちらを見ている。


 ここまで説明してくれたのなら最後まで話してくれればと多少思ったが、こんなことで不満を言ってもそれこそ時間の無駄なので俺は仕方なく続きを話すことにした。



「別に深い意味はねえよ。ただ俺は最後までラルさんに合わせただけだ。」

「……ユージ、それじゃ解らない。もう少し解りやすく説明してほしい。」

「あのよ、二人ともさっきの試験を見てて違和感を感じなかったか?ラルさんは最初から最後まで、全ての攻撃を足だけでしてきたんだぞ。この人は現役時代に周りから何て言われて恐れられてたんだよ?」

「……全ての者を拳で……狂拳の……あっ!」

「そういうこと。最初からラルさんは足だけしか使う気がなかったんだよ。それが試験が始まってすぐにわかったから、俺も反撃せず受けるだけに専念したってわけ。何が悲しくて手加減されてる相手に全力で立ち向かわなきゃならねえんだよ。」

「……なるほど。だからユージは一切手を出さなかったんだ。」



 ここまでの俺とラルさんからの説明を聞いて二人は納得してくれたようだ。

 しかし今度はラルさんが俺の話を聞いて少し思う部分があったようで口を開いた。



「一つ勘違いしておるようじゃが、ワシは別に手加減をしたわけじゃないぞ?」

「よく言うよ。狂拳のラルさんが拳を使わなかったらそれはただの手加減だろうが。」

「確かにさっきの戦闘が命のやり取りだとしたらワシの行動は手を抜いたことになるかもしれんが、あれはあくまで試験だからの~。」

「そんな事はわかってるよ。でも理解はできても俺の中で納得は出来ねえから、ラルさんのことを舐めてたわけじゃねえけど俺も自分のルールで試験に挑ませてもらったんだよ。」



 確かにラルさんの言うことはもっともだ。むしろ試験という名目で命のやり取りをすることの方がおかしい気がする。しかし、だからと言って手加減されたことにかわりはないので、俺は自分の中のルールに従って試験に挑んだことをラルさんに伝えた。



「なるほどの~。しかしこれだけはハッキリ言えることじゃが、足だけとはいえワシの攻撃をあそこまで耐えたものは数えるぐらいしかおらんぞ。」

「ケッ、最後には結局叩きのめされちまったけどよ!てかあれ反則だろ?今思い出してもあの速さと威力で頭狙われてよく俺死んでなかったよな。」



 そしていつの間にか俺とラルさんはお互いの疑問が解消されてスッキリしたのか先程の反省会みたいな話をしていた。



「あぁ、最後の攻撃だけは殺すつもりでいったぞい?正直今だから言うが死ななくて良かったとホッとしたわい。」

「こいつマジかよ……。」



 そう言うと驚く俺を他所にラルさんは目の前でケラケラと笑っている。

 しかしそこで何かを思い出したのか笑うのを止めて俺に尋ねてきた。



「そういえばお主、最後の方ワシの筋力増強ドーピングを試みておったじゃろ?」

「やっぱりバレバレだったか?でもよ、ぶっつけ本番でやってみたけど意味があったのかはイマイチわからねえや。」



 実際できそうな気は一瞬した。だけどそれを実感することなく倒されたので今となってはあの行動が正しかったのか俺にはわからなかったのだ。

 しかしラルさんは予想外のことを俺に告げてきた。



「いや、しっかり意味はあったぞい。それを途中で感じ取れたからワシは最後の蹴りをお主に放ったんじゃ。正直全く効果がなければお主は今ごろ死んでおったじゃろう。」

「そんな不確定なことに人の命を賭けないでくれよ。でもよ、ってことは少しは使えたってことか。いや~、何でも試してみるもんだな。」

「何を言っておるんじゃ。少しどころか初めてであれだけ使えた奴をワシは見たことないわ。あとはお主次第じゃがワシと同じぐらいに使いこなすことも夢ではないじゃろうな。」



 正直これは嬉しい誤算だった。ここから先は俺の修練次第ってのは重々承知しているが、自分が今よりも強くなれるかもしれないと言われたのは嬉しかったのだ。


 元の世界に居たときはそんなこと思ったことはなかったが、さっきのラルさんの圧倒的な強さを目の当たりにして、今の自分ではどう頑張っても勝てない存在がいるのを教えられた。

 この世界では敗北が死に繋がる以上、気合いだけじゃ乗りきれない時がきっとあるだろう。


 だからこそ自分が今以上に強くなれるかも知れないと言われたことは素直に嬉しかった。


 その話を聞けただけで今ここに来た意味があった。

 俺は逸る気持ちを抑えることが出来ず立ち上がると、ラルさんに一言告げて立ち去ろうとした。



「ラルさんありがとな!ガラじゃねえけど自分なりにやってみるよ!また困ったことがあったら相談に来るからその時は……」

「ちょ、ちょっと待ちなさいって!あんたまだ肝心な話をなにもしてないじゃないの!?まさかこのまま行くつもりじゃないでしょうね!?」

「あっ………。」

「……ユージ落ち着いて。」

「はぁ~……。ほんとバカね。」



 ポミに言われて肝心な話を何もしていないことを思い出した。


 俺は勢いよく立ち上がったが再び元居た場所に座ることにしたのだった。



 

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