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第三十三話






「5分経過しました!」



 ポミの声が辺りに響き渡る。

 あれからもラルさんの猛攻は続いていた。最初の攻撃は多分ラルさんなりの警告だったのだろう。その証拠にそれ以降の鋭さが桁外れになっているからだ。


 だがその攻撃にも徐々に慣れてきた。序盤こそ俺の勝手なイメージからの驚きが強く反応も遅れたのだが、目の前に居るのが強い男と認識してしまえば後は体が自然に反応してくれる。


 今までも俺はそうやって喧嘩してきてここまで無敗なのだ。


 そして5分が経過した時点で残りも余裕だと思ったその時、何故か攻撃を止めラルさんは俺の前から少し後ろに下がった。



「どうしたラルさん?もうおしまいかよ?」

「いや~、正直予想以上じゃわい。ここまで見事に防がれるとは思わなんだわ。」

「俺も中々大したもんだろ。このまま続けても俺は降参しねえし別にここで終わっても良いんじゃねえの?」

「そんな勿体無いことするはずなかろう。しかしお主の言うようにこのままだとちと厳しいのも事実じゃ……。」

「なら終わりで良いんじゃね?」

「だから、少し本気になってやるわい!」

「はぁ?じゃあ何か、今までは手を抜いてたって言うのかよ。」

「人間相手でここまでワシにさせた者は数えるぐらいしかおらんでの~。先に謝っておくが……殺してしまったらすまんな……筋力増強ドーピング



 そう言うとラルさんは突然魔術を唱えた。すると突然俺の目の前が激しく光った。だがその眩しさも一瞬で光は徐々に小さくなり前を見るとラルさんの全身をうっすらと光が覆っている。



「ワシは魔術全般苦手での~。唯一使えるのがこれなんじゃよ。さて二回戦といこうかの。」



 光を身に纏ったラルさんは再び俺の目の前から完全に消えた。そして次に俺の目に写った時には元居た場所からいつの間にか20メートルぐらい下がっていたのだ。


 と言うか…名前的にその魔術ヤバイだろ……。


 魔術名通り、唱えた後のラルさんの動きは人間とは思えない。

 先程までの攻撃に慣れてきたとはいえ、そこまで余裕があるわけでもないのに……これは本格的に不味い気がする。


 とにかくラルさんから目を離すわけにはいかないと前方を見ていると、その姿はこちらにゆっくりと向かっている。

 だが最初こそ目で捉える事が出来たのだが、近付くにつれ加速していたようで今は完全に視界から消えてしまっている。


 チッ、どこに消えやがったあのジジイ……。


 前後左右に気を配りながら、途中が見えなくても攻撃の瞬間さえ見えればなんとかなる。そう思い身構えていたがラルさんは予想外のところから攻撃をしてきたのだ。



「どこを見ておる。こっちじゃ小僧!」

「なっ、上とか無しだろ!?くそがぁ!」



 見失っていたラルさんは、助走をつけると俺の視界から消えるほど高く飛び上がり蹴りの体勢でこちらに降ってきたのだ。


 俺は咄嗟に身を屈め、地面に転げる事で飛び蹴りを避ける事が出来た。


 元居た場所を見ると、威力に耐えきれなかった地面が割れているではないか。まさに文字通りラルさんの蹴りは爆撃だった。

 一瞬で離れたところまで移動したり、視界から消えるほど高く跳躍したり、そしてこの蹴りの威力は完全に俺の知る世界の人間の力じゃない。


 これが現役を退いたとはいえ、この世界で最強クラスの実力かよ……。


 俺はラルさんの本当の実力に驚き戸惑っていた。しかし、ここで一つだけ気に食わないことがあったので身構えたままの状態でラルさんに問い掛けた。



「なあラルさんよ、なんで攻撃の直前で声をかけたんだ?俺はあんたの姿を完全に見失ってたしあのまま黙って攻撃しとけばそこで終わりだったろ?」



 明らかに手心を加えられた事が気にくわなかったのだ。

 だが当のラルさんからは意外な言葉が返ったきた。



「確かに言われてみればそうじゃな。さて、それを何故かと問われたら……その場のノリかのう?」

「いや、ノリって……。ホントふざけたジジイだぜ。」



 そんなふざけた答えを返された時、そろそろこの試験の終わりを告げる声が聞こえてきたのだ。



「残り1分です!」

「もうそんな時間か。もう少し遊びたかった……これは違ったの~。お主の実力を見たかったのじゃが仕方がない、一気に行かせてもらうかの。」

「へっ、上等だよ!いつでもかかってきやがれ!」



 俺は精一杯の強がりを返してみたが、状況は最悪だ。目で追うこともあの攻撃を受け止めることも出来ない。

 さてどうしたものかと無い知恵を絞ってみると、一つの可能性が浮かび上がったのだ。


 魔術は相性とスピリトの量とイメージが大事なんだよな……。

 俺のスピリトがどれだけあるのかは知らねえけど一瞬だけなら使えるんじゃねえかな?あとは相性とイメージか……。


 俺が思い付いたこととは、ラルさんが使った魔術を一瞬だけでも使うことが出来れば耐えきれるのではないかと考えたのだ。

 完全に出たとこ勝負になるがこれに賭けるしかない。


 幸いラルさんはまだ攻撃してきていないこの間に心を静め集中した。スピリトを身体中に行き渡らせイメージは……とにかく耐えれる体、どんな者でも一撃で倒せる体、そして絶対に屈しない心だ。何となくだが行けそうな気がする。


 だが残り時間も後僅か、当然俺が何をしているのかなど知るはずもないし待ってくれるはずもない。

 俺が気が付いたときにはラルさんはすぐ目の前に居たのだ。


 そしていつの間にか繰り出されていた、槍のような前蹴りが俺の腹に突き刺さる。



「ぐはぁっ……」

「ほう?お主……」



 倒れることはなかったが、体は大きく後ろに弾き飛ばされた。


 こんな蹴りは食らったことがなかった。腹を蹴られて意識が飛びかけたのは初めてだった。でも……何とか耐えることはできた。


 当たる直前、避ける事も防ぐ事も間に合わないと判断した俺は腹に意識を集中させたのだ。その行為に意味があったのかはわからないが、一撃でも受けたら終わると思った攻撃を耐えることができた。

 俺はとにかく崩れそうな膝に力を籠め、再び集中することにした。時間的にも次の攻撃を耐えきれば俺の勝ちのはずだ。




「コイツは本当に大したもんじゃな。さて、最後の攻撃といこうかの。うまくものに出来ればお主の勝ち。じゃが無理なら……。」



 ラルさんはなにやらブツブツと言っているが小声でうまく聞き取れない。だがこれが最後の攻撃なのは感じ取れた。


 するとラルさんは動き始めた。最初の動作だけは辛うじて見えるのだが、気がついた時には毎回攻撃の直前なので今回はギリギリまで意識を集中させることにした。


 そしてその時はやって来たのだ。ラルさんは既に攻撃のモーションに入っている。



「小僧これでしまいじゃ!ドラゴンファング!」



 叫び声と共にラルさんは軽くジャンプすると、その反動を利用した左足での蹴りが俺の顎目掛けて下から上がってきた。

 これならギリギリ受け止めることができると判断した俺は、下からの蹴りを自分の両腕を交差させて防いだのだ。


 だがこれが間違いだったようだ。次の瞬間、防がれることが前提だったかのようにラルさんは空中で体を捻り、落ちる勢いを利用した右足での蹴りを頭部目掛けて放っていたのだ。


 左右の足でほぼ同じタイミングの上下からの攻撃。


 両腕は最初の攻撃を防いで塞がっている。今から体を反らすのもタイミング的に無理だ。じゃあどうする……。



 蹴りから目を反らすな。歯を食いしばれ。意識を集中させろ。気合いだこの野郎!


 直後、鈍い音が鳴り、俺の頭部にラルさんの蹴りが直撃した。

 そして俺はそのまま膝から崩れ落ちたのだ。



「時間になりました!試験終了です!ってユージ!」

「……ユージ大丈夫!?」

「ふむ……ちとやり過ぎたかのう?」



 遠くで三人の声が聞こえている。目の前が真っ暗で何も見えない……。体もフワフワしていて自分が今起きてるのか寝ているのかもわからねえな。すると再び声が聞こえてきた。



「ホミ、ユージに癒しの魔術を!」

「うん!……傷つき倒れたこの者に……」

「お嬢さん方!厳しいことを言うが今こやつに魔術をかけたらその時点で試験は不合格になるぞい?」

「そっ、そんな……。でも、それでも!」

「……ユージが死ぬ方が絶対にダメ!」



 ん……?誰が死ぬって?試験が不合格になるって……それ俺のことかよ!?

 周りの声で今自分が倒れていることにやっと気がついた。


 ふざけんじゃねえぞ……。この俺が、無敵のユージ様がこんなところで負けるはずも、ましてや死ぬなんてありえねえだろ!


 だが気持ちとは裏腹に体が全く動かない。だが早く起きないとホミが魔術を……情けねえが仕方ねえな。



「……耳元で騒ぐんじゃねえよ……。ゆっくり寝ることも出来ねえだろ。」

「「ユージ!?」」

「ラルさんよ……耐えたんだからこの勝負俺の勝ちで良いんだよな?」



 俺はその場に横たわったままラルさんに尋ねた。



「意識も飛んでた気がするし立ち上がることも出来ないお主にワシが敗けを認めるのもの~。」

「くそジジイが……。でもまあ……俺も同……」

「などと言ってはみたものの、最初に細かい取り決めをしなかったのはワシの落ち度じゃし、仕方がないの~。追加昇級試験は合格じゃわい。」



 渋々といった感じでラルさんは俺の合格を認めた。



「「やったね!ユージおめでとう!」」

「終わったならよ、ちょっと体治してくんねぇ?正直さっきから全く動けねえんだよ。」



 これでやっと俺が王都に来た目的は達成できたのだった。


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