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第三十一話





 

 俺達は今、冒険者協会を後にしてラルさんが手配してくれた宿に向かっていた。



「くっそー、あのジジイ!完全にやられたな!」

「さっきから何に怒ってるのか全くわからないわ。寧ろネウトラル様直々の試験が受けれること感謝するべきじゃない?」

「……ユージ頑張って。」



 出来ることならあのまま帰りたかった俺としては全く嬉しくないし頑張る気にもなれない。

 

 あの後、なし崩し的に決まった試験のことを俺はラルさんに聞いてみたのだ。



「仕方ねえからラルさんの話にのるけどよ、いったい俺に何をさせる気なんだ?」

「別に難しいことを考える必要はありゃせんよ。明日再びここに来たときに教えてやるわい。」

「チッ、やっぱり教えてくれねえのかよ。はぁ……とりあえず今日はもう行くよ。じゃあな。」



 あのまま聞いたとしても何も教えてくれそうに無かったので、何の情報を得ることもなく俺達はラルさんの部屋を出た。

 そしてそのまま冒険者協会を出た俺達は宿に向かうことにしたのだ。



「今日は何だか疲れたわね……。」

「……仕方ないよ。ユージは酒場で大暴れするし、ネウトラル様ともお会いしてあれだけお話したんだから。」

「ネウトラル様と言えば、いったいユージに何をさせる気なのかな?合格すれば上級者冒険者になれるとしたら、かなり厳しい試験なんでしょうね…。」

「……想像もできない。でもきっとユージなら大丈夫。」

「そうね。こいつバカだけど実力だけは凄いしね。」



 宿に向かう途中二人はずっとこんな会話をしている。

 他人事だと思って好き勝手言っているが、酒場で起こったことは俺が二人を巻き込んだ節もあるのでとりあえず口を挟まず歩いていた。


 するとホミが何かを思い出したか、ここまで黙って歩いていた俺に尋ねてきた。



「……ねえユージ、最後のネウトラル様の言葉ってどういう意味かわかる?」

「ん~?あの爺さんなんか言ってたっけ?」

「……うん。私達が部屋を出る際に『お主には言うだけ無駄じゃと思うが道中気を付けてな。』とか。」

「あ~、確かに言ってたわね。確かに考えてみれば、宿に行くだけなのにネウトラル様はいったい何に気をつけるようにいったのかしら。」



 そういえばそんなこと言ってたな。ただ俺には確信はないがラルさんが何を言いたかったのか予想はしていた。


 そして冒険者協会を出て宿まで残り半分ぐらいになり、ラルさんに教えられた人通りの少ない路地に入ったとき予想は確信に変わったのだ。



「ラルさんが気をつけろって言ったのはあれのことじゃね?」

「……あれ?」



 俺が二人に前を見るように促すと、そこにはフードを被り顔の半分を隠したどう見ても怪しい三人組が行く手を遮るように立っている。


 とりあえず後ろを振り返りポミとホミにこの場で立ち止まるように言うと、俺は前に居る三人組に近づいた。

 とにかく近くまで行ってみたが問答無用で襲い掛かってくる気はないらしい。



「なぁ、道の真ん中に立たれると邪魔なんだけど。俺達は向こうに行きたいから用がないならちょっとそこ空けてくんね?」

「酒場で貴様の実力は見た。我らの仲間になれ。」



 俺が目の前のやつらに話しかけると、恐らく真ん中に立っている奴がそう答えたのだ。



「はぁ?会話になってねえぞ。俺はどけって言ってんだよ。」

「仲間になると言うのならここは通す。たが断ると言うなら……」

「断ったらなんだってんだ?殺すとでも言うのかよ?」

「殺す!……!?」

「もう一回言ってみろ。断ったら何だって?」



 相手がそう答えるのはわかっていたので言い終えた瞬間、俺から見て右に立つ奴に飛びかかり顔面に拳をぶちこんでやった。


 俺の動きに反応できなかったのか、仲間が一人倒されたのを見てから左に立つ奴が腰から剣を抜きこちらに身構えたのだ。



「貴様……それは仲間になる意思が無いと言うことだな。」

「そもそもてめえら誰だよ!?名乗りもしねえで仲間になれって、それで仲間になる方が怖くね?」

「従う気がないのなら仕方がな……!?」

「だからさっきからおせえよ。」



 全く会話が成立しないのでとりあえず先に身動きをとれなくしてやろうと思った俺は、真ん中の奴が話終える前に左の奴に飛び掛かると腹に一発入れ、そいつが膝から崩れ落ちそうなところを先に倒れたやつの近くまで蹴り飛ばした。



「一瞬でてめえ一人になったな。もう今更退けとか言わねえからよ、とりあえず色々と聞かせてもらおうか。」

「貴様……今日のところは一旦引かせてもらおう。」

「お前バカじゃねえの?この状況で逃がしてもらえると思ってんのかの?」

「我々の敵となったことを後悔するのだな!」

「だから~、さっきからてめえは人の話聞いてんのか?この状況で……なっ!?」



 成立しない相手とのやり取りにウンザリした俺は、とにかく捕まえようと残った奴に一歩近づいた。

 だがその時目の前にいた奴が腰から球状の物を取り出すと、それを地面に叩きつけたのだ。


 そしてその球が割れると辺り一面を覆うほどの黒い煙が吹き出てきた。

 その黒煙のせいで俺の視界は完全に遮られ手の届く範囲以外何も見えなくなってしまったのだ。


 すると、その時ポミの声が俺の耳に飛び込んできた。



「目の前にある全てのものを吹き飛ばせ……旋風サイクロン



 ポミの声と共に俺を中心に風が吹き荒れる。そしてその風が辺りを覆いつくしていた黒煙を吹き飛ばしたのだ。

 二人を見ると、どうやらポミとホミは後方からいつでも魔術を撃てる準備をしていたようだ。



「ナイスポミ!良い風だぜ!」

「よくわからないけど無駄口たたいでないでさっさとそいつ捕まえちゃいなさいよ。」

「言われなくてもわかってんよ!って……くそ!」


 良いタイミングでの魔術に思わずポミに親指を立てて感謝を伝えた。

 そして黒煙が晴れると同時に、残った一人に飛びかかるも既にそこから奴の姿は消えていたのだ。



「……逃げられた。」

「あぁ、それもご丁寧に後始末もきっちりしてからな。別にここまでしなくてもな……。」

「後始末って?……きゃぁ!?」



 奴は自分が姿を消す直前に、横たわる仲間二人の胸に短刀を突き刺し命を奪ってからこの場を去っていたのだ。

 そしてもう一つ驚いたことがあった。



「……ユージ、これ人間じゃない。」

「そうなのか?じゃあコイツらなんなんだよ?」

「……戦闘用の奴隷……ハーフエルフ。」

「ハーフエルフ?それに奴隷ってなんだよ!?」

「……金銭で取引されている者。取引される種族は様々だけど、特にハーフエルフは人間からもエルフからも忌み嫌われる存在で取引対象になりやすい。」

「なんだそれ!じゃあ金で買った奴等だから殺すのも別になんとも思わないってのか!?」

「……私に言われても困る。それは買った人次第だから。でもそんな人が多いのも事実。」



 奴隷の存在は元居た世界でそんなものと関係のなかった俺に衝撃を与えた。

 人の命を金でやり取りし、用がなくなれば処分する。生殺与奪は買い手次第。その事に頭が追いつかなかった俺は説明してくれたホミに声を荒げてしまったのだ



 すると人が死んでいる光景に驚き、ここまで黙っていたポミが怯えながら今のことを俺に尋ねてきた。



「ねえユージ、今の何だったの?仲間になれとか……。それに躊躇いなく命を奪って逃げ去ったあいつとか……。」

「俺にわかる分けねえだろ。でも今のがなんなのか知っている奴に心当たりはあるけどな。」

「……ネウトラル様?」



 俺はホミの問いに黙って頷いた。

 恐らく今のがラルさんが酒場で俺を何かに利用し、帰り間際に気を付けろと言った事なんだろう。


 あのジジイ……いったい俺に何をやらせてえんだ……?


 考えても答えが出るはずもなく、まずはこの事を報告するのと、状況が知りたかったので俺達は再び冒険者協会に戻りラルさんを訪ねることにしたのだった


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